42、開店中~セレブと一万円~
この作品はフィクションです。
「…あの、」
しばしの後、口を開く彼。
「はい~。どうしますか~?お買い上げなさいますか~?」
揉み手つき営業スマイルで応える私。
「あ、いえ。…お値段は?」
「あ、はい~。こちらですね、一般家庭用にテトラポッドの完成品を作っているというのは、非常に珍しいことでした。その関係で、お値段も少々あれやこれや足して引いてさせていただきまして、」
「………。」
「送料込み、税金込み、14800円となっております~。」
…正直、これが高いのか安いのか。私にはいまいちピンと来ない。テトラポッドを買おうとか、思ったことがないから。そもそも、テトラポッドの完成品を作って売ってる会社があるなんて、初めて知ったし。
まぁ、その辺の判断は、このセレブスーツな彼に任せるとしよう。
さぁ、どうだ?
「…思ったより安いですね。」
でたーっ!セレブコメント!
一万円オーバーを安いとか言っちゃうなんて、なかなかのものよね。一万円あったら、塩ゼリーがン十個は買えるわけだし。
やっぱり七光りセレブスーツはひと味違うわ。
「ありがとうございます~。では、こちら、お買い上げ、ということでよろしいでしょうか~。」
「お願いします。」
よっし!また少し倉庫が片付いた!
「ありがとうございました~。」
送り先の住所は前回と同じだから、そこからの手続きはとってもスムーズ。
セレブスーツを営業スマイルでお見送りして、
「……………ふむ。」
一人になった私は、心静かに、思考を巡らせる。
後輩くんに、どんな課題を出してやろうかと。
忘れてはいない。忘れることなど出来はしない。あの自堕落ダイエッターに、鼻で笑われたことを。
元はといえば、後輩くんがミイラとか言い出したからあんなことになったのだ。ここは、塩砂糖の赤点の件も含め、ここは、彼の単純な思考回路を矯正すべく。難題を出さねばなるまい。
「ふむ…………」
静かに
穏やかに
たおやかに
えげつない課題を考える。
「……………。」
やがて私は、
携帯を手に取った。
「……………あ、もしもし?後輩くん?………そう、私、私。あのさ。ちょっと買ってきてもらいたいものが……………え?……………何言ってんのよ。そんなの前回の塩砂糖のクオリティーの低さに対する補習課題に決まってるじゃない。いいから!四の五の言わずに聞きなさい!………いい?買ってきてほしいのは………」




