27、開店中〜女性語る〜
この作品はフィクションです。
妄想を聞いてほしい。
彼女にとって、相当勇気がいる一言だったに違いない。
自分の妄想を語る。それは、自分自身の過去や未来、そして、己の内側を語るに等しい行為。妄想とは、自己であり、世界であり、過去であり未来。そういうものなのだ。
「ありがとう。」
「…は、はい?」
思わずお礼を言う私に、きょとんとした表情を返す彼女。
「ん〜ん、なんでもない。是非聞かせて。あなたの中に広がる、妄想の広野を。」
「…は、はい…。」
…今のはちょっと気取りすぎたかしらね。
遠慮がちに返事をすると、彼女はおずおずと、自分の中の世界を語り始めた。
その世界は、剣と魔法と冒険に満ち溢れた、光輝くファンタジーの世界。
その世界での彼女は、冒険者ギルドに所属し、様々な依頼を受けながら、世界中を旅する女性剣士。
まだ年若いが、剣の腕前はかなりのもの。細身の体に似合わず、刃渡り1メートルはあろうかという大剣を、いとも容易く振り回す、怪力の持ち主でもある。
旅の相棒は鷹のジェストと、大好物のミントグミ。これさえあればどこへでも行ける、と言い切るほど、大事な旅のパートナー。
今日も冒険の世界のどこかで、彼女は旅を続けている。
活き活きと、彼女は喋り続けた。
最初こそ遠慮がちだったけど、喋り始めたらスイッチが入ったのか、立て板に水のごとくの喋りっぷり。舌が回る回る。
そう、これも、妄想の同志の特徴。相手が自分の言葉を受け入れてくれる相手だとわかったら、自分の中に溜め込んでいたものを、一気に放出する。
バカにされるんじゃないか。
引かれてしまうんじゃないか。
妄想の同志は、いつも、そんな不安に付きまとわれているのだ。
しかーし!!
この店の中では、そんな心配は無用かつ不要!
ここは、妄想をする者たちのための店。遠慮も心配も無用かつ不要なのだ。
「へぇ〜、いいじゃない。カッコいい女剣士なんて、妄想映えする存在だわ。」
「そ、そうですか?ありがとう、ございます…。」
ひとしきり喋り終わると、彼女は再びうつむいてしまった。恐らく今、彼女の頭の中では、喋りすぎたかな…変だと思われてないかな…ちゃんと伝わったかな………、など、様々な心配事が渦巻いているに違いない。
しかし大丈夫!私は全ての妄想を受け止める!
「あ、あの…、それで、ですね?」
私がそう脳内で叫んだ時、彼女が大胆なことを口にした。
「私…、作家に、なろうって、思ってるんです…!」




