19、開店中〜スーツと本格的〜
この作品はフィクションです。
ずり〜
ずり〜
ずり〜
………お、重い…。さすが、本格仕様なだけのことはあるわね…。
倉庫の奥から、それ、を引っ張り出してきて、大きく息をついた。こんなことなら、予め台車かなんかに乗せたままにしておくんだったわ…。
いやでも!
まさかこんな急に、これ、を引っ張り出すことになるなんて思わなかったんだもの。普通の妄想の同志なら、ここまでのものは必要ないと思ってたし。
…まぁ、じゃあなんで仕入れたんだ、って話になるけどさ。そこは、まぁ、その時の気分ってことで。
とにかく!
これだけ苦労して引っ張り出してきたんだから。是が非でも満足してもらわないと。っていうか、満足しなきゃ許さん。
「…ふぅ………、お待たせ、しました………。」
「…大丈夫ですか?」
男性の目の前まで、それ、が入った段ボール箱を持ってくる。息が上がっている。普段運動してないからなぁ…。少しは体動かした方がいいんだろうか。妄想の中では、いくらでも動けるんだけどなぁ…。
「…ぅ〜〜〜……ぁ〜〜〜〜〜。」
男性に背を向けて、一つ深呼吸。そして、
「大丈夫です〜。気遣ってもらっちゃってすいません〜。」
営業スマイルで振り向くと、私は段ボールの蓋に手をかけ、
「こちらでしたら、間違いなく要望に応えられるかと思いますよ〜。」
ガムテープを、一気に引き剥がした。
「…………!」
男性の目付きが、明らかに変わった。そりゃそうよ。これで変わらなかったら、あんたの神経はどうなってんだ、って、詰問するところだわ。
なんせ段ボール箱の中に納められていたのは、まさに、男性が求めていたもの、そのものなのだから。
『本格的木製宝箱(大)〜沈没船のお宝仕様〜』
これ程までに、彼の要望にジャストフィットした商品があるだろうか。本当、この商品を仕入れていたことを褒めていただきたい。いや、マジで。
100%国産の檜と、職人が丹念に打ち出した鉄を使い、ファンタジーRPGに出てくるような外観の宝箱を見事に再現した、幅1m、高さ80cm程の、大型の宝箱。
そして、この宝箱の魅力は、そのリアリティー。
実はシリーズで出ているこの宝箱。様々な状況下での宝箱を再現したラインナップが、ずらりと並んでいるのだ。
その中から今回は、男性の要望に合わせて、沈没船のお宝仕様。
海水によるサビや腐食。木の反り具合や色の変化。こびりついた海藻など。
細部にまでこだわった、まさに、製作者の魂が宿った一品。我が国の製造技術を、完全なる趣味に結集したような、まさに、粋な一品なのだ。
さぁ!どうだ!!!




