18、開店中〜スーツと宝〜
この作品はフィクションです。
海洋ロマン。
大航海時代、と呼ばれた、中世の世界。世の冒険家たちは、まだ見ぬ大陸、まだ見ぬ生物、まだ見ぬ宝を求め、こぞって海へと繰り出した。
嵐に遭遇したり海賊の襲撃に遭ったり。様々な困難を乗り越えた先にあるもの。それは、冒険家たち、それぞれが胸に抱く、宝。
小説や漫画、アニメに映画。様々な創造媒体で取り扱われているテーマの一つである。
勿論、妄想の世界においても、海洋世界はメジャーな舞台。
未知なる世界は妄想を遺憾無く発揮できる。海の魔物クラーケンや、神秘的な人魚姫などは、その最たるものだろう。
…な〜るほど。
この人の妄想属性は、海洋ロマンか。しかも、サルベージ船や潜水艇に宝、とくれば、その姿は間違いなく海のトレジャーハンター。
そういうことなら話は早い。
「なるほど〜。では、こちらなんていかがでしょうか〜。」
そう言って次に見せたのは、貯金箱。その中でも、形がそのまんま、木製の宝箱になっているもの。
「これにですね〜、」
その宝箱の下に、深い青色のハンカチを敷く。
「イメージは、海底の宝箱、って感じです〜。」
「……………。」
じっと眺める男性。そして、
「………綺麗すぎる。」
きっぱり。
…いや、そりゃそうよ。新品なんだから。でも、こっから拡げていけるのが、妄想の最大の魅力でしょ?
もしかして、いや、もしかしなくても。この人、妄想初心者ね。目に見える物体がきちんとイメージ通りになってないと、妄想を拡げられないタイプと見た。
む〜、仕方がない。ここは妄想の大先輩として、丁寧に導いてあげよう。
「そうですね〜…では、こちらを使うというのはいかがでしょうか〜。」
というわけで、さらに、筆と塗料とカラースプレー。そして、漫画用イラスト集も持ち出してみた。
「もし、古びた感じを演出したいのであれば、ご自分の理想通りに加工する、という方法もございますよ〜。」
「……………。」
新たに出された道具一式を、じっ、っと眺める男性。そして一言。
「…自分で作ってしまっては、発見の感動がない。ただの自作自演だし…」
……………。
…要求細かいな。そういうのも全部包み込んで世界とすることが出来るのが、妄想の魅力なのに。
う〜ん、なんだかめんどくさくなってきた。
「そうですか〜…。では、少々お待ちください〜。」
ぎりぎり営業スマイルをキープすると、私は店の奥へと入っていった。
実は、この店の奥には倉庫があり、そこには、店頭には並べられないような大型の品物が保管されていたりするのだ。
注文の多いあの客に、これぞ!ってものを、見せつけてやろうじゃない。




