12、開店中〜タオルタオルタオル〜
この作品はフィクションです。
「……………。」
………飽きないのだろうか。というか、飽きる、という感覚がないのだろうか。
あれから、すでに5分は経過していたが、彼はいまだにタオルの棚の前にいた。
棚の上から下まで。きっちりと並べられたタオルを、まさに舐めるように眺めている。…包装に包まれた状態のタオルを、そんなにじっくりと眺めて、何かわかるのだろうか?
「……………。」
……………はっ!
まさかとは思うが、
彼はすでに、妄想の世界に入っているのか!?
タオルから何を妄想しているのかはわからないが、ただ眺めているだけにしては、あまりに時間が長い。だとすると、すでに妄想に入っている可能性は十二分に有り得る。
…むぅ、これは、どうするべきか。止めるべきか?それとも止めないべきか?
妄想雑貨店、と、看板に掲げている以上、妄想の同志の至高の行為を妨げるのは気がとがめる。が、店内で延々とされても、それはそれで困る。
ここは、妄想の手助けとなる媒介を提供する店ではあるが、行為そのものを行う場所ではない。場所をわきまえない妄想は、他のお客さんの迷惑になる。
…いや、今は他にお客さんいないだろ、とか、そういうツッコミはいらないからね?
とにかく!この場所での妄想は推奨出来るものではないのだ!私が言っているのだから間違いない!
よし。止めよう。私が店長。この店の長であり主であり支配者。発言権は私にある!
「…すいませ〜ん。」
…などということを脳内で決意し、新たな塩キャラメルを噛み締めたその瞬間に、その声は聞こえた。なんと間の悪い!
決意の言葉をうつむきながら脳内で呟いているうちに、タオル棚の彼は、すでに次なる行動に出ていた。
「……………。」
なんで?
真っ先に出てきた単語は、それだった。
確かに、タオルは生活に不可欠なものではある。それは、万人が認めるところであろう。
そして、彼のように汗をたくさんかくであろう人間は、その分タオルも多く必要になるのだろう。それも、万人が認めるところであろう。
だが、
物には限度というものがある。
「…よこらせ…」
彼がレジカウンターの上に置いたタオル。それは、ビッグサイズのバスタオル。
…を、30枚。金額、合計、15000円也。
「……………なんで?」
うず高く積まれたバスタオルを見つめて、私は思わず聞いていた。




