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1、開店初日〜ノミクジラとは〜

この小説はフィクションです。


仮に。


ノミクジラ、という生き物がいたとして。


その生き物は、大きいのだろうか。小さいのだろうか。


クジラなのだから大きいだろう。と、考える人もいるだろうし、ノミ、と名前につくくらいだから小さいだろう。と、考える人もいるだろう。


そもそも、大きい小さいとは、なにを基準として言っているのだろうか。


自分よりも大きいか小さいか、だろうか。しかし、皆は小型船や軽自動車を見て、小さい、と言っている。自分よりは、明らかに大きいのに。


その名詞のジャンルのものの中で平均的なサイズというものを設定し、それと比較して、大きいか小さいかを、判断しているのだろう。


だとしても、ノミクジラの場合、判断は難しい。何せ空想上の生き物なのだから。


そもそも、ノミクジラ、の、ノミ、を、虫のノミだと判断するのは早合点というものだ。もしかしたら、ノミクジラは歯が異様に鋭利で、大工道具のノミから来ているのかもしれない。はたまた、他のクジラに比べて異様に海水を飲んで潮を吹くから、まさに、飲みクジラ、なのかもしれないし。


仮に虫のノミから取ったとしても、それがサイズのことを言っているとは限らない。もしかしたら、世にも恐ろしい吸血能力を持ったクジラかもしれないし、海面から跳ねるジャンプ力が、他のクジラと比較にならないくらい高いのかもしれない。




考えれば考えるほど奥深い。それが、ノミクジラ。





















「………それが、この店の名前の由来ですか?」

「そ。」


目の前の青年の問いかけに、コクンと頷く私。


「妄想には明確な答えがない。考えれば考えるほど、その可能性は、サイズを無視した無限の広がりを見せてくれる。そんな素晴らしいものが、他にあるかしら?」

「…でも、妄想なんですよね?」

「そうよ?」

「我に返れば何もない空虚なもの。思考の中だけで存在する産物。妄想ってそういうものですよね?」

「私は妄想があればご飯三杯いけるわよ?」

「表現が古いですよ。」

「空虚と考えるか心の栄養と考えるかは、その人次第よ。けどね。」


ことり、と、彼の目の前にお皿を置いて、私は言葉を続ける。


「キミもここに来ている以上は、妄想と共に生きることを余儀なくされるのよ。」

「なんで強制的なんですか。僕は先輩の開店祝いに来ただけですよ。まさかこんな、妄想雑貨店、とかいう、わけわからない店だとは思わなかったです。」

「ふ。いずれキミも虜になるわ。妄想という、甘美で広大。無限に広がる世界を自由に歩き回る、その、虜にね。とりあえず、それでも食べなさい。お客様第一号へのサービスよ。」

「あ、どうも。ベーコンですか?」

「そうよ?ノミクジラのベーコン。」

「……………いないんですよね、そんな生き物。」

「そうよ?でも妄想次第で、市販のベーコンもノミクジラのベーコンに変わるのよ。ここは、そういう場所なんだから。」

「…下手したら訴えられますよ?」


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