異世界召喚、少人数
今回は二作品ほど紹介いたします。
異世界召喚物で、四、五人となると単なるトリップという展開はあまりありません。ほとんどの確率で勇者扱いです。そして一緒に召喚されるのは、イケメン万能の同級生とそいつに好意を抱く女子か、元の世界で自分をいじめた奴らか、何も知らない奴らかの三択であると思われます。
それは、異世界に来てからも明確に対立する相手を出すことで物語の動きをスムーズにすると共に、主人公との対比になるという役割があります。
いじめっ子相手に立場を逆転させる、というのは、逆境から覚醒して勝利するのと同じように一種のカタルシスを得られる場面となります。
相手が正義感あふれるイケメンもまた同じでしょう。元の世界で、そういう相手と主人公なら、主人公の方が立場が弱い。そんな状態から非日常へと変わったことにより評価が逆転する。そういった展開は、「薄っぺらい一般論」で成功するよりもその場に応じた正しさがあるだろ、と考えてしまう、熱く正しいことを言って成功する展開に嫌気がさしている人に受けやすいです。
そのお約束を見事に守ったのがこちら。
主人公はイケメンとそいつが好きな女子三人と召喚され、自分だけが勇者ではないことをステータスで確認します。そこで主人公は「俺は勇者じゃない。だからここにいる理由はない」、「好きに行動させてもらう」と止めるクラスメイトを放って一人旅立ちます。表向きは戦うための異常なステータスもないのに戦いに巻き込むな、俺は勇者じゃないからだ、と言いますが、実際は異世界の本や食事を楽しみたいからという理由です。
主人公は勇者四人ほどに多くの適性や高いステータスはありませんが、固有魔法というチートスキルを持っています。序盤はそれを使い無双する主人公最強物ですが、途中から異世界の戦闘方法を次々と取り込み、本と食事の赴くままに戦いに参加していきます。
周りは国同士の陰謀や、新たなる魔王だと問題を次々起こす中、「敵対するなら倒す、報酬(食事や本)があるならなんでもする」という簡単な行動理念は物語がさくさく進みます。
こちらも典型的な「俺様系」主人公であり、初対面の目上にも敬語を使わず、とりあえず自分の理論と実力で大抵のことを押し通す強引な気質もあるので、感想欄などでは度々批判を受けます。
どうして周りの人間がそれを正論ととるの?幼稚すぎる、などなど。
作者さんは主人公のことを自己中心的だと自覚しているどころか、そういう風に描こうとしているのでさほど問題はないかと思いますが……。
まあ、チート魔法が強すぎるにも関わらず、それだけに頼らず次々と修行パートに突入して、強くなりすぎる主人公に、あまり不安がなさすぎて困るというか……あまり周りの人間が酷い目にあって……というピンチ展開も敵がフルボッコにされる前フリでしかないので、主人公が強すぎるのは無理!という方にはオススメできない作品ではありますね。
感情移入しにくいというのは俺様系主人公の欠点なのかもしれませんが、憧れと感情移入というのは同時に存在できないものなのかもしれません。
まあしかし、文字というのは国の文化にとらわれるものではあれど、可能性によってはなんでもできる固有魔法というのは非常に戦闘シーンが楽しいものではあります。
同じ四、五人でもこちらは異色です。
まず第一に、他に召喚された勇者三人の立ち位置がほぼ同じなのです。この作品のすごいところは、どの勇者に焦点を当てても、挫折や成長、敗北からの覚醒などアップダウンがあり、ヒロインがいて、主人公として成立するのです。
やはり感情移入するのは主人公で間違いないのですが、どの勇者が主人公でもきっと物語として魅力的だったのたろうなあ、という一人称からはあまり見られないタイプでした。
しかし、主人公に感情移入すると、他の勇者は考えが足らず、無様で醜い残念なものとして見えるので、同時にかっこよく見ることは難しいでしょう。
とここまで言っただけではどのお話か全くわからないと思います。
この主人公は、攻撃力がありません。途中で攻撃手段を得ますが、代償が大きすぎてなかなか使いづらいです。そして、召喚された国では主人公の役職だけが差別されており、他の勇者はこの世界をゲームによく似た世界だと認識して主人公の職を不遇職だと言います。
そんな中で裏切られ、罵られ、ドン底まで落とされてからの伏線回収とともに見事な成り上がりを見せてくれる作品です。
私が好きな部分として、綺麗事を言って裏切った相手を許さない主人公の悪辣とさえ聞こえる罵倒の数々です。
「生かして連れていけ! 死ぬより酷い目に合わせろ!」
おおよそ勇者が言うとは思えない発言は、辛い過去に裏付けされた爽快なシーンです。
途中からややツンデレ臭のする主人公ですが、強敵との戦いでの覚醒などのお約束をしっかりと組み込みながらも、ご都合主義を一歩外したような展開に引き込まれることでしょう。
奴隷を購入して優しくする、というお約束を、「女性に裏切られたことの憂さ晴らしに女性をいいなりにしようとして購入し、しかし攻撃力がないから戦わせるために理不尽な扱いをしないまま面倒を見る」というやや物語にそくした展開に組換えています。
人間を信じられなくなっていた主人公が奴隷を取り上げられた後に、自分を裏切るかもしれないからと元奴隷を拒絶するも、元奴隷少女が奴隷じゃなくっても側にいる、それが信じられないならもう一度奴隷にしてくださいと懇願することで主人公の心を開くシーンはこの物語でも五本の指に入る見所です。
攻撃力皆無だったのに、途中から攻撃力を得てしまったという(おそらく強い敵を主人公勢に倒させるためでしょう)展開や、最後のややゴリ押しなラストは最初の雰囲気からはやや外れるような気もしますが、それは物語の展開上仕方ないというところでしょうか。
この作者さんは同じ書く者としては信じられない部分があります。
まず本編完結まで毎日欠かさず投稿し続けているのです。何百話と投稿し続けて、現在も物語の途中で張った伏線を回収する外伝を 書き続けているのが信じられないですね。
他にも「こんなお約束があるよ!」という方はお気軽に教えていただけると嬉しいです