女性主人公
女性主人公について話す前に、女性向けの小説や漫画についての話をしましょう。
これは以前に私がある人の話で読んだことのあることなのですが、男性の異性に対する願望と、女性の異性に対する願望は違う、という話です。
これは恋愛物についての価値観ではなく、むしろ恋愛ではない物語における恋愛要素についての話とたりましょうか。
男性が価値のある異性に認められ、好かれることによって、「こんな魅力的な女性に好かれる自分は価値のある人間である」と感じたいのではないかという説がそこでは語られていました。だから男性は、自分にだけ簡単に靡いてくれるヒロインを好む傾向にある、というのです。
その一方で女性は、恋愛に自信が持てない、恋愛に興味のない自分の殻さえぶち破ってくれるような魅力的な男性に言い寄られたい、自分の堅いガードを突き抜けてきてほしいという本音があるというのです。
この説が正しい、正しくないとは判断しかねます。人によって違うとか、結局それは恋愛についての願望ではないのではないか、という人もいるでしょう。
ただ私がこの話を聞いて、「ああ、そういう考えもあるのか」と思うと同時に、現在ハーレム、逆ハーレムと言われるジャンルや、少女漫画、ラノベなどの物語で人気のある作品のストーリーで思い当たるものがあったので取り上げてみた次第です。
例えば少女漫画、学校に入学早々、表向きは学園のアイドルで、王子様な相手とトラブルに巻き込まれて、その男子の腹黒い本性を知ったとします。
他の女子生徒は本性を知らなかったり、本性を知っても顔が良ければ良いと、その男子に口説かれれば落ちる中、主人公は「性格が悪いなら無理」とか、「恋愛をする余裕がない」などの理由でその男子を跳ね除けます。
今までその男子は口説いて反抗的な態度を取られたことがなく、唯一自分の思い通りにならない主人公に興味を抱き、時には強引に主人公を自分のものとしようと迫ってきます。
だいたいこんな冒頭というか、このような展開の少女漫画を見たことのある人もいるのではないでしょうか。
他にはやむを得ない理由で周り男子だらけの場所で過ごすことになり、主人公自身は恋愛など考えたこともない状態なので無邪気に天真爛漫に振る舞う、そんな中で周りの男に芽生えた恋愛感情を理解することもなく、行き場のない思いにやきもきするイケメンに萌える話などもあります。
男性のハーレムに比べて、最終的に一人の相手を選びとるまでいくことが多いのも女性向けの特徴でしょうか。
この特徴の男性向けの話については、なろう読者の傾向についてで話すことになるかと思いますが、やはり男性向けの物語がバトルやコメディーなどの要素を中心に、恋愛をエッセンスとして加えたものが多く、逆に女性向けの作品だと恋愛を中心に他の要素を加えたものが多いように感じられます。
例えば、あなたがよく漫画を読むならば、人気の少年漫画を五つと人気の少女漫画を五つ思い浮かべてみてください。
おそらく、少年漫画で恋愛を中心に人気が高い作品よりも、少女漫画で恋愛を中心に人気が高い作品の方が思い浮かべやすいのではないでしょうか。
双子の妹に恋をする話や、心臓に病気を患った幼馴染の話、男子校に入学した少女の話や、学園の金持ちイケメン四人組に目をつけられた女の子の話などなど。
だからこそ、でしょうか。
なろうにおいて、女性が主人公の人気作品というと、主人公は恋愛に興味がない状態から始まる場合が多いように思われます。
特に多いのが、ゲーム世界、漫画の舞台、貴族令嬢などに転生した場合の物語ですね。
役割は悪役やライバル、攻略ヒロインから脇役に至るまで数多くあります。
私がよく見るゲーム世界はBLゲー、ギャルゲー、乙女ゲーの三つですね。特に最後が多いです。
BLゲームの世界だと、男主人公に好きな男性を取られたりなどの展開や、横で眺めるのを目的としていたら自分が攻略されていたなどの展開が王道ですね。
悪役、ライバル転生は特に多いです。
主人公、または主人公が結びつく相手が悪役の語り手を敵視していたり、見た目で判断して敬遠していたりなどの勘違いが徐々にとけていくのが楽しいですよね。そういったカタルシスは、主人公が不遇な環境であればあるほど輝きます。それは女性主人公でもなんら変わりはないと思いますね。
シンデレラストーリーを見事な成り上がり復讐劇という痛快な視点と共に、家族に見事「ざまぁ!」と言ってのけた某作品もかなり面白いです。
語り部は必死でストーリーから離れようとしたり、本来のヒロインを全力で応援したりとそれぞれのスタンスを保ちます。
本来のストーリーとの差異や、出てこなかったはずの脇役に魅力を持たせたりなどといった場面でのオリジナリティーが要求されるジャンルです。
こちらで紹介したいのが、少女漫画のライバルポジションに転生したことを小学校入学の際に思い出した主人公の物語ですね。
悪役ライバルで、高飛車なお嬢様……という設定のはずなのですが、前世で少女漫画の世界だったことを知っている語り手が中にいることで、物語は大きく変化します。
好きでもない人相手の恋に破れて人生を棒に振りたくないとばかりに、作中のイケメンから必死で距離をとるも、なんだかんだと巻き込まれながら見た目とは裏腹な素朴でややアホの子な主人公の中身を知る人たちによって暖かい日常を送っていく学園物としての性質があります。
本人の性格は朗らかで、とても良い子なのですが、やや恋愛に関して間が悪くどうにもくっつく気配はありません。
とあるものに対して連想するものが、「名前は確かに知ってるけれども、それを一番には思い浮かべないだろう」というズレたキャラなところがコメディーとしてのテンポの良さを出しています。
お兄さんとやたらと仲が良いのも、見ていて萌え死にますね。
一人称の使い方が非常にうまく、まるで本当にその場にいるかのような語り口に引き込まれることでしょう。
次が悪役顔に生まれた貴族令嬢の物語。こちらは更新速度が遅いのをやきもきしている状態です。
主人公の一家は揃って誤解体質。何をしても副音声で悪役台詞がつきまとうような極悪人の顔をしており、健気で謙虚、聡明で辣腕の彼女はその家柄から後宮に入れられます。そこでは素朴な下級貴族の少女と不器用な国王との王道恋愛物が進行しており……といったストーリーです。
この作品における男性の不遇具合は最高ですね。もちろん計算高い女性の腹黒合戦も見ものですが、なにより誤解されながらも一部に理解されていく主人公と国王と相思相愛の少女が表向きはライバル関係みたいであるのに本当は仲良しというのもたまらないですね。
もうひとつ紹介するならば、逆ハーものでも見事に完結しており、恋愛以外の要素も重厚に作り込み、伏線からなにまで見事に回収したこの作品でしょうか。
こちらは先ほど紹介した作品とは違い、知らない人も多いかもしれません。なろうの主流からも外れており、お約束や王道とはまた違った味わいがあります。
魔王に負けてから始まる、勇者物語としての異色の始まりに、主人公は強くとも最強でなかったり、練りに練られた世界観の中でテンポ良く進む戦いが主人公と男性たちの関係に見事にスパイスを加えています。
ただ甘いハッピーエンドを見るならば、主人公が結婚したところで止めておいた方が良いのかもしれません。恋愛物とするならば、十分に綺麗にそこで完結するからです。
しかしファンタジーとして完結を見るならばやはり、最後まで読むべきですね。
鬱展開だろうが、苦しい真実であろうが、まるで自分のことのように受け入れて読み進めて欲しい作品の一つです。
ただ、やはり女性主人公の逆ハーレムものということで、男性にはこういった生々しい恋愛や、焦れったい進行にやきもきして読むのが辛いやもしれません。
主人公がカッコいいだけの作品に飽きた方は是非、といったところです。
こちらも乙女ゲーの代表作として一つ。やたらと人に惚れやすい恋愛体質、しかもその恋愛対象は人外にまで及ぶという女の子が試験プレイを頼まれたのは「恋をすれば死ぬゲーム」。設定がいじられたせいでやめることも叶わないゲームをひたすらクリアするために奔走するお話です。
主人公の恋愛観がとてもよく、素敵な作品でもあります。コメディーとしても完成しており、男女共にオススメできる作品ですね。
次は「なろう」の傾向について