異世界ファンタジーの要素
異世界ファンタジーにおける人気の要素に、「ゲームシステム」的なものがあります。
レベル、ステータスがその代表的な例です。
この概念を導入することで、見た目にそぐわない強さというものを演出できます。
例えばとても力の強い、素手で地面に大穴をあけるような剛腕の持ち主である場合、腕が太く、筋肉隆々の大男でないといけません。もちろん魔力や闘気などのバトルものにありがちな要素を活かして、技術で筋力を強化することもできるでしょう。しかし主人公をそうするためには、まず魔法や闘気に関する技量をあげなければなりません。
しかしレベルとステータスがあればどうでしょうか。
レベルとステータスさえあれば、魔物を倒すだけで見た目を変化させることもなく、筋トレの描写を入れることもなく強くなれるのです。
普通は「幼女がそんな剣を素手で防げるわけないだろ!」も「レベルとステータスが違うから」で片付きます。
逆にこの要素は、主人公を弱く見せることもできます。
例えば、ステータスに現れない「判断力」や「機転」、「技量」といったものを組み込むことで、
「はっ! その低レベルで何言ってやがる!」
と相手に侮らせる場面からの
「何っ! こんなはずがない!」
とそういった部分に現れない強さを示すことで周囲を驚かせるという主人公の異常さを出すこともできます。
そして急激な成長にも使えます。前回までに説明してきたお約束の中に、主人公だけがステータスを見れて成長補正を持っていることで奴隷をレベリングして周りよりも強くする、などという反則地味たお約束がありますよね。
それもまた、本来ならばあり得ない急成長に対する理由付けとなります。
次は冒険者ギルドです。
こちらは簡単、本来ならば異世界でいきなり魔物討伐などの仕事で食べていけるはずもない主人公が、冒険者ギルドに登録することで食い扶持を稼ぐ手段とする展開に使われています。
よく皮肉に使われたり好まれたりするのが、「美人の受付嬢」でしょうか。これは特に語る部分がないのですっ飛ばしてしまいましょう。
ここで語るべきなのは、冒険者ギルドの在り方、でしょうか。
国とのスタンス、成り立ち、他のギルドとの関係などを作り込むもよし、あまり触れないもよし。
私の作品でも登場するのですが、どちらかというと魔物の討伐を紹介したり、素材の流通に関わったりする自由市場のような場所になっているのでしょうか。ただ、その国に魔物の被害などがあれば招集されることもしばしば。
こちらの存在理由は、他の冒険者と主人公との関わりの場を作ることで主人公の情報が速く回ることでしょうか。
魔物の素材の買い取りなどというゲーム的要素をこれを抜きに演出するのも難しいのかもしれません。
さらには、ギルドランクというものを持たせることで主人公に対する周りの評価を簡単に示してくれます。
これらに共通するのは、「強さの描写の省略」です。視覚的に、無条件で「強い」を与えてくれます。
通常、強い魔物を偶然倒してしまった少年の物語というのは、自分にそぐわない評価を得てしまった勘違い系コメディーとなるはずが、経験値という要素を組み込むことで、偶然得た力をどう使うか、という物語へと変換することができます。
逆に、ステータスが強くても技量が足りないという形で主人公に挫折を味合わせることで、無双物から一歩距離を取ることもできます。
読者側からすれば、評価としての力関係がはっきりとわかるために読んでいて楽ですよね。
本来ならば敵の強さについても、周りの反応から過去に至るまで説明しつつ、説得力を持たせる必要があります。しかし「レベル50か……かなりの手練れだ」というと無意識のうちに主人公のレベルやこれまでの戦いから勝手にどれほどの強さかを想像してしまうのです。
ギルドランクについても似た効果があります。
というのも、ギルドランクからその人の暮らし方、つまりライフスタイルが見えてくることもあるのです。
例えばSからFランクまであったとすると、Fというのはただ登録しただけの新人、ということになりますし、Cランクというと雑用やちょっとした依頼を受けて日銭は稼げる程度の冒険者となるでしょう。Bランクともなると、討伐依頼もよく受けてギルドからの信用もあるベテランや実力だけのゴロツキが多くなるでしょうし、Aともなると周りによく知られた人物となることが多いですね。そしてSランクともなると、人外、つまりは強いけど個性の強い人間数人となります。
こうした立ち位置の描写の省略にも繋がり、主人公を「短期間で高ランクに登りつめたダークホース」や「低ランクにそぐわない実力者」という立ち位置を示すことができます。
主人公の活躍の描写として、強さの描写の省略というものは読む側としては楽ですし、面白いという人も多いでしょう。
ただ、使うことに異論はないのですが、私はこれを諸刃の剣だと思います。
一歩間違えれば、説得力や人物として薄っぺらい感じになってしまいます。
そのシステム自体を伏線や物語の根幹とする物語も見ますが、そうでない場合は取り扱いに注意が必要かと思われます。
とまあ、ステータスとレベルを登場させながらも一切それらを無視した作品を書こうかなどと思っている自分が言うことでもありませんが。
追伸。
迷宮というのも異世界ファンタジーの人気のジャンルですね。
こちらはさらにゲーム要素が色濃く、何らかの理由付きでドロップアイテムやボスモンスター、階層セーブ機能などまで登場します。
ゲームで感じられるドキドキをさらに現実のものとして昇華しつつも、主人公がじっくりと強くなっていく様子を感じるジャンルの一つです。
ただこれでのメリットは同時にデメリットでもあります。
ただひたすらに迷宮に潜っていると、人との関わりが薄くなりすぎて本当にただゲームをしている日記のようになってしまいます。
逆に外での物語を濃厚にしていると、外で遊んでばかりで攻略を蔑ろにしているかのようにも見えます。
そのあたりのバランス感覚と、創造主側の意図や、迷宮のイレギュラーなどのイベントをどこまでうまく絡められるかがこのジャンルの面白さではないでしょうか。
異世界トリップの一人で紹介したかもしれませんが、外やイレギュラーを絡めずに、主人公を強くしつつも慎重にしてしまうと物語としての起伏がなり飽きてしまうという人もいるのではないでしょうか。
私自身、こういったものを読む時に迷宮攻略のシーンよりも外でのシーンの方を楽しんでいたり、人との関わりを楽しんでいるような部分もあるので、やや偏った見方であるのかもしれませんが。
ゲーム攻略のような小説を好むという人も多いので、そういった人たちにはとりあえず謝っておきましょう。
このタイプの亜種としてしばらく前から流行りだしているのが、攻略する側ではなく、迷宮を運営する側としての物語でしょうか。
いかに迷宮の運営をゲームシステム的なものと、冒険的なものを絡めつつ、会社運営のような硬派な部分を出せるかという作り込んであれば面白くなるジャンルだと思います。
ただ、作る側からすればこちらも「運営」というだけのスタンスを取ると終わりが見えないので注意でしょうか。
次回は「女性主人公」の幾つかについて