異世界転生、幼少期スキップ
異世界転生の幼少期編スキップ。
前述の通り、異世界トリップの亜種のようなものです。
主人公はなんらかの形で異世界に転生するのですが、神様などに「生きていきやすい体にしておいた」「肉体を向こうで生き返らせる」などと言われて、成人以上の人は八歳〜十八歳ほどに、そして中高生ぐらいは自分と同じかそれより少し若いぐらいの体になることが多いです。
あまり多くをダラダラと紹介するのもあれなので、今回は二作品に絞りましょうか。
まずは一つ目、こちらに使われたお約束というか、物語の根幹として、「主人公が悲惨な前世を送った」というものがあります。
前世が酷かったのを別の神のせいにすることで、異世界で幸せに暮らすことを正当化しています。
個人的に主人公がひどい目にあっていれば……と思う私としては、その設定は結構好きですね。
そしてこちらの主人公の能力は、前世で酷い目にあったことで手に入れた耐性スキルの数々と、身を守るために習っていた武道と、神にお詫びで与えられた魔法の全属性の適性、そして魔力に無限の可能性というチートですね。
剣術Lv7、結界魔術Lv2などと表記される多彩な才能の数々に、精神SSSと破格の数値がわかりやすく主人公の異常具合を示してくれます。
そう、ゲームステータス系チートというやつです。
さらには、「スライムは環境に適応できるから最強便利」のお約束を守っているのも特徴でしょうか。
物語が進むにつれてじわじわと強くなるスライムにときめく作品ですね。
あくまで人の延長線上にある強さに、辛い目にあってもなお、人を信じることのできる人格とが合わさって、行き過ぎない主人公無双とのんびりとした展開に繋がっています。
主人公が強いと無理、と言われるとなんともかなりの異世界ファンタジーを除外することになりますが、主人公最強物では比較的イライラしない方ではないでしょうか。
世界を揺るがす事件が勃発し続けたりしているわけでもなく、平和に暮らしているだけの主人公だからこそ、展開に「中盤ダメだった」とか、「最近飽きた」などとならない良さがあると思います。
そんなちょうど良さが人気の理由ではないでしょうか。
次に紹介するのはスキル系最強物です。
この物語のあらすじを三行でまとめると、「神様のミスで主人公が死に、ボーナス付きで異世界に転生する」、「様々な事件に巻き込まれる」、「世界を滅ぼす魔王を倒してめでたし、めでたし」と見事な王道のテンプレをつっぱしっているのですが、この物語はそんな「ありがち」を壊してくれています。
まず、主人公は白猫の神様をトラックから救うことで死にます。貰えるボーナスが前世のステータス引き継ぎに加えて神様の恩返し分としてのポイントでスキルやステータスを取得できます。
ここまではまるでテンプレなのですが、このキャラメイクが見事に壊れます。主人公はうっかりな神様の作ったキャラメイクシステムの穴をついて、バグを起こしてポイントをひたすら増やし続けます。そうして得た莫大なポイントを、さあ振り込もうという段になって神様に見つかり、慌てて異世界へと飛ばされかけます。そこを無駄に高性能なコントローラーで何も確認しないまま、ポイントをスキル取得に使い続けたのです。
おっ、大量の特殊スキルで無双か?と思ったのも束の間。主人公の得たスキルの中には自分のスキル閲覧さえ不可能にする無駄スキルがあったのです。神様との通信スキルによって、スキルが発動するたびに教えてもらうのは良いのですが、それがどれもこれも微妙だったり無駄スキルなのです。
この作者特有の、徹底したミスリードによる誤解やどんでん返し、台無しが素晴らしい作品です。以前に紹介したVR物と同じ作者なんですね。
とぼけた主人公は恐ろしく頭の回転が速く、無駄スキル、複雑なスキルを幾つも組み合わせてパズルのような戦いを見せてくれます。
シリアスなはずのシーンにも、どうでもよさそうなことを必死に話しかける可愛い神様や、最初は普通だったのに仲間になったとたんアホの子になる女騎士などハーレムとしての要素も組み込まれています。
学園編を冗長にならない程度に挟むのもお約束の一つでしょうか。わくわくしながら卒業のために学園長に挑む戦いを期待していたら、全く別の方向で度肝を抜いてくれた主人公にますます台無し(褒め言葉です)だなあと。
お約束やご都合主義ともとれる展開を伏線として回収しきったその鮮やかさと、熱意や義憤など正統派な感情を全て台無しにするギャグ展開に笑わせられ続けること間違いないでしょう。
これらの異世界転生、幼少期スキップの物語は、予め異世界の人間としての立場を主人公に作りながらも異世界に対して無知な状況を作ることで、テンポよく物語が進むのが読みやすい特徴でしょうか。
そういったスキップにはほとんどの場合、神などの人間を超越する存在が現れ、主人公に異世界について説明したりします。案内役の妖精などもお約束の一つでしょうか。
そして神様が主人公に積極的に関わる、という場面も多く見られます。これは作者側の利点で言うならば、神という特別な存在が主人公に目をかけることで、簡単に無理なく主人公の特別さを出してくれるものです。神様に人間臭さや、面白いことを楽しむ享楽的な面を付けることで、コミカルさであったり、物語の雰囲気やこれからの示唆などを演出できます。
異世界ファンタジー物が叩かれる際に、「対したことのない主人公にミスで殺してしまったからといって力を与えてまで転生させる理由がわからない」とか、「そもそも全知全能のはずの神がミスとかおかしいし、それが取り返しがつかないのも変だ」というものも見られます。おそらくこういった人たちは物語における「ご都合主義」というものが苦手なのでしょう。
それについては、後々の回にてお話ししましょう。
お約束、好きな展開などあれば