リフラスタ昔話
英雄の生きていた時代
登場人物紹介
ジュライ(♂):17歳。青い髪に黒い目をした少年。優しい顔つきをしている。
しかし、人間が嫌いでネガティブな面があるため、その顔には
いつも陰がかかっている。誰もが認める天才の二刀流剣士。
ラケシス(♀):14歳。肩程まで伸びた黒い髪にパッチリとした黒い目をしている。
幼い頃からサマナーとしての素質があり、竜人達との戦いでは
活躍した、英雄の一人。大人びた表情を常にしているが、慣れた
人間の前では感情表現はとても豊かな少女。この歳にして冥王オシリス
との契約を結ぶ、歴代最強のサマナー。
オーガ(♂);22歳。短い黒の短髪に黒い目。大陸1の怪力の持ち主で
竜人と比較しても、全然劣ることがない。戦う時は巨大な斧で戦う。
あまり細かいことにはこだわらず、ただ戦うのを好む。
コーネリア(♀):24歳。残る4英雄の一人。金色の長い髪に澄んだ青い目。
その均等の取れた顔には誰もが見とれてしまう。しかし、性格は
クールで、あまり他人との接触を好まない。親しい人間には
時折、優しい一面を見せることも。雷・炎・氷とあらゆる類の
魔法を操ることができる。無尽蔵な魔力の量は右に出る者がいない。
家々は火に焼かれ、夜だというのに辺りは明るかった。人々の叫び、怒号が響く。
俺は今、何をしているんだろうか。【英雄】そう呼ばれ、竜人たちと壮絶な死闘を繰り広げた。
結果、勝つことが出来て一時はリフラスタに平和がもたらされた。
しかし、人間という生き物は油断ならない。竜人を倒し、平和になったのに今度は
未だ未知なる力を持つ【サマナー】の一族の力を忌み嫌い始め、そいつらの掃討作戦を
開始している。俺の抵抗も虚しく、この作戦が議会を通ってしまった。そして、俺も
この作戦に参加し、サマナーの集落を攻め落とそうとしている人間の一人だ・・・。
「ジュライ、どうした?」
汗にまみれている巨漢の男オーガが話しかけてきた。逞しい体つきをしており、
手に持つ巨大な斧が、この男の力の強さを表していた。何人仕留めたのだろうか、
衣服にはひどく返り血がついている。斧も同じようになっている。
「俺は、やはり納得できない」
そう、掃討作戦に参加しているものの、未だに一人も斬れないでいる。左右の腰に掛けてる
カリバーンとエクスは未だに血を浴びていなかった。俺を心配そうに見つめるオーガ。
「気持ちはわかるが、やらないと、お前は民衆達の決議を破ることになる」
そんなことはわかってるつもりだ。でも、気持ちがそれに従わない。
かつての同士を斬るなんて・・・。
「俺は仲間だったやつらを斬るなんてできない」
オーガの瞳にはらしくない俺の姿が映っているのだろう。やや間が空いて、オーガの
溜め息が聞こえてきた。
「それなら、お前はただこの場にいるだけにしろ。仕事はお前抜きでもなんとかなる」
オーガは非情にもそう言い残し、去っていってしまった。俺はオーガの後姿を黙って
見ているだけだった。突然、俺の後ろで声がした。
「掃討隊の人間がいるぞ!あっちへ逃げろ!」
振り向くと、男一人に小さい赤ん坊を抱えた女の人がそこにいた。女の人は赤ん坊を
大事そうに抱え、道を引き返していっている最中だった。何度も俺の前に立ちはだかる
男に目線を投げかけている。恐らくは夫婦なのだろう。その男は魔方陣を空中に書きなぐり、
サマナー特有の召喚を始めようとしていた。今なら余裕で召喚を阻止できるし、男も
切り伏せることが可能だ。しかし、俺にはどうしてもできない。召喚を許せば、俺さえも
危険な目にあうだろう。それでも、おれはこいつを斬れない・・・。何の罪もないのに
斬るなんてことはできない。竜人の時でさえ、斬るのにためらいが生じた。対象が人なら
尚更だ。覚悟を決めようと、目をつむろうとした。しかし、召喚途中の男を、すさまじい
落雷が直撃する。自然現象の落雷をこうも操れる人間は俺の知り得る中で一人しかいない。
落雷を浴びて、炭化し、黒い煙を上げ、人の形をしたそれは崩れ落ちた。
「ジュライ、あなた何してるの?」
冷え切った声がした。辺りの炎の光で豪奢なロングの金色の髪が映える。上質な白いローブに
身を包み、切れ長に青い碧眼を持つコーネリアはその目でジュライにするどい視線を放った。
「召喚を許せば、あなたも危ないことくらいわかるわよね?」
事務的に話す、この口調が俺はあまり得意ではなかった。本当は心配してくれているくせに
なぜか、その本心を隠してコーネリアは喋るからだ。
「わかっている」
他に言う言葉が見つからない。これしか言えなかった。
「一応、あなたに私の加護はかけてあるけど、召喚獣の類によっては、ダメージを受ける
可能性もあるのよ?」
その心配してくれている気持ちは俺には伝わっている。事務的な口調ではあるけど、
いつも、仲間の心配をしてくれているコーネリアに、俺は目を合わすことができなかった。
「ありがとう。感謝してるよ」
上ずった声で、そう返事をした。
「もう帰りなさいな。ここに居ても辛いだけでしょう」
「それは議会の命令違反にならないのか?」
こんな時に保身を考える自分に嫌気がさす。いつからこうなったんだろうか・・・。
「誰も気づかないんじゃないかしら?何かあれば私がごまかしておくわ」
「そうか。いつもいつもすまない」
「いいわ。それより、ラケシスを見つけたら、わかってるわね?」
ラケシス・・・。今どこで何をしているんだろうか。逃げれたのだろうか。
コーネリアもまだ見つけていないらしいから、掃討隊の手からはまだ逃げれているのだろう。
「その時はわかってる。剣を抜くよ。」
コーネリアを安心させるためにもこの言葉が一番だろう。しかし、俺はその言葉通りに
動くつもりは全くなかったのだが・・・。コーネリアはそんな俺の心中を見透かしたのだろう。
「斬れない場合は逃げなさい。死を選ぶんじゃないわよ」
そう言い、ローブを翻し、行ってしまった。俺は家に帰ろう。情けない・・・。
誰も守ることなんてできやしない。俺の剣は未熟だ。心も。
しばらく歩くとサマナーの集落は暗い夜の中でそこだけ明るくなっている。
俺の家は深い山の中にあり、オーガ、コーネリア、あと一人以外には誰にも知られていない。
そもそもあまり人間が好きではないのだ。利己的で何を考えているかわからない。
この道を真っ直ぐ行けば家が見えてくる。ここまで来ると月明かりだけが頼りだった。
どこか遠くでは森狼の遠吠えが聞こえてくる。空には満点の星空が広がっている。
この暗い夜の世界が大好きだ。何も考えなくていいし、煌めく月や星を見ていると
心が澄んだ様になれる。俺でもこんな気分を味わえる夜は大好きだった。
家に着き、扉を開ける。部屋の真ん中には簡素な木製の四角いテーブルがあり、
その周りには4つの椅子が置かれている。窓は1つあるだけで、その窓の下にはベッドが
置かれていた。いつもの光景だ。そう思ったのだが、今晩は1つちがった。
ベッドに腰かける、一人の少女がいた。その黒い髪は綺麗に月明かりを反射している。
両手で、目をこすり、声を殺して泣いている、その姿に胸が打たれた。
その少女は俺に気づくと、顔を上げ、かすれた声を出した。
「ジュライ・・・」
月明かりしかない部屋だったが、確かに見えた。その両目は涙で濡れていて、頬には
涙のつたった何筋もの跡が出来ていた。
「ラケシス、すまない・・・」
俺は膝から崩れ落ちてしまった。ラケシスが俺に近づき優しく、抱きしめてくれた。
「ジュライは悪くないよ。今回の事はしょうがなかったんだよ」
「俺が議会のやつらを止めることができなかったから・・・・!」
自分の頬を涙がつたうのを感じた。俺を抱きしめるラケシスの腕に力が入るのを感じた。
「自分を責めないで、ジュライ。悪い癖よ?」
元気づかせようと無理に明るく言ってくれている。そのラケシスの態度に更に胸の奥が
熱くなった。
「ごめん、ごめん、本当ごめん」
それしか言えない。ラケシスも悲しいだろう。俺なんかよりずっとその思いが強いはずだ。
家族を失い、仲間を失い、家を失い、友達だって失った。こいつは本当に独りぼっちだ。
「ジュライ、お願いがあるの」
そう言われ、俺は顔を上げた。目の前には幼いながらも、その瞳に強い意思を秘めた
ラケシスの顔があった。
「前向きに行こ。いっつもジュライは心配性だし、責任感が強いんだから」
そうやって努めて明るく振舞う、ラケシスに元気づけられた。
「それで、お願いって・・・?」
「これから先、何年かかってもいいから、私達サマナーが迫害されない世界にしてほしいの」
「わかった。約束する。必ず、そうなるようにする」
「うん、お願いね・・・」
そう言い、ラケシスは泣き出した。その幼い姿に見合うように・・・。
なだめるように、今度は俺が強く、優しく抱きしめてあげた。そして決意する。
必ず、人がみんな平和に暮らせる世界を作る。争いのない世界を。
そして、数年後、初代ジュライ王国の国王として、ジュライが即位することになる。
そのジュライの居城のすぐ近場ではラケシスが細々と暮らしていたのだが、時折
訪れるジュライの顔を見ては元気を与え、与えられ、長く平和な生涯を送ったと言う。