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これってデートでは!?


きっちり一日三食食べなさい、夜はちゃんと寝なさい、休日は仕事をしない。

過労で倒れた経験があるらしい菊池さんは、カルアに口うるさくなった。

それすら、仲良くなれたようで嬉しくなってしまうから困る。


街に行ってみたいと言うので、護衛を配置した上で、一緒に出かけることにした。

一応、帽子を被って珍しい髪色は変えてもらう。


『今日は、日本語でいい?』


『もちろんです!』


にっこり笑って見せると、菊池さんは少し眉を下げる。

この人、いつも同じ困った笑顔だな。違う笑顔もあるのかな。見せてもらえる日はあるのかな。


『なんで嬉しそうなの? 普通、自国の言葉の方が嬉しくないかな』


『そうですか? 日本語も自国語ですしね』


はぐらかしたが、訝しげな表情は変わらない。まさか、あなたがここに慣れるのが怖いなんて、言えるはずがない。

へらっと笑うと、仕方なさそうな笑みが返った。


『行きたいところありますか? たとえば、市場とか、植物園もあるし、広場では演奏してたりもしますよ』


『じゃあ……市場に行ってみたいかな。珍しい物があるかも』


『確かに! 全然違うから、面白いですよ』


拳一つ分の距離に、菊池さんがいる。

なんだか初恋の時くらい浮かれていて、カルアはスキップでもしたい心地になる。


なんだろうな。まだ出会ったばかりなのに、とってもこの人が好きだ。

異常事態にも冷静なところとか、どんな時でも配慮を忘れないところとか、ちょっと口うるさいところも。

こんな人となら、長く一緒にいられるんじゃないかって、つい考えてしまう。


────帰すんだよ。ちゃんと、元の場所に。


毎日、何度も繰り返し言い聞かせる言葉を、また繰り返す。

研究しても方法はありませんでした、なんて言うのは簡単だ。でも、そんなの研究者として誇れない。

可能性がわずかでもある限り、追求し尽くした上で結果を出さないと、研究者の名折れだ。


だから、カルアが目指すのは『菊池さんを帰還陣で帰す』こと。これはぶれちゃだめ。

急がなくていい、とは言うけれど、帰りたくないとは、菊池さんは言わない。

だから、やっぱり帰りたいんだと思う。それが当たり前だ。


『わ、すごい人だね』


『菊池さん、』


市場に着いて、びっくりしながら笑う菊池さんに、迷子になった時のことを言っておこうと口を開いたら、するりと手を攫われて思わず口を噤む。


前世の記憶で知っている、恋人つなぎ。

指を絡めた菊池さんが、ちょっと照れながら首を傾げた。


『はぐれると困るし……こうしててもいいかな』


『…………もちろんです』


声が、掠れた。慌てて咳払いしたけれど、バレバレだっただろう。

顔が熱い。心臓がドクドク波打って、鼓膜がビリビリする。


やーっばい。これはやばい。なんっだこれ、甘酸っぱい!

好意あるよね? これ。恋愛的な好意、あるよね? ないと手なんかつながないもんね!

恋愛なんか久々すぎて、ちょっともうテンションをどうしていいのかわからない。


手を引かれるまま、菊池さんの見たいお店を覗いては感想を言い合い、またゆっくり歩く。

身長差があるのに違和感ない歩幅とか、動きを妨げない手の強さとか、いちいちスマートで惚れる。こんなの惚れるしかない。


『……楽しいなあ』


ずっと一緒がいいなあと、喧騒に紛れる程度の声量で呟く。

ほんの少し、握る手が強まった気もしたけれど、きっとカルアの願望だろう。


ぽつぽつと言葉を交わしながら、カルアはずっと触れた手の感覚だけを追っていた。




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