なかなかのパワーワード
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カルア・セルジュは、モブである。間違えた。転生者である。
たぶん、何かしらの物語とかゲームとかの世界ではない、はず。少なくともカルアの記憶にはない。
幼少の頃から、自分には以前の人生があったことを認識していた。
いわゆる〝なんちゃって西洋風異世界〟のこちらとは異なる世界で、別人として生まれて死ぬまでの平凡な人間だった記憶がある。
あまりにも自然な記憶だったため、この世界ではみんなそういう記憶と共生していると思っていた。
ある日突然思い出すわけでも、頭をぶつけるわけでもなかったので。
そうでもないことに気づいたのは、いつも楽しそうにカルアの話を聞いてくれた母が、自分の前世とはどのようなものだろう、と興味深そうに呟いたからだ。
なるほど、みんなそうではないらしい。
母はいつも喜んで話を聞いてくれるが、一般的でない変異者がどのように見られるかと思えば、母以外には口を噤むと決めた。
そんなカルアは、前世にはなかった魔術研究という分野に没頭した。
一応、今世にもほぼ魔法も魔術もないと言っていい。ただ、過去には存在していたため、今でも解明されていない魔術や魔道具がたくさんある。
そういったものを研究し、一般的な生活に活かすためのヒントを探すのが、魔術研究所の仕事だった。
まあ、趣味を追求しまくる仕事だ。楽しみと興味が一番。
国直下の研究所なので、給与は安定しているし、人気はあるが才が特出した者は少ない。
カルアには、前世でいうところのこの道具、という知識があったため、重宝される人材になっていた。
その中で、カルアが思わず眉を顰めてしまった魔術陣がある。
異世界から聖女を召喚するための、いわゆる〝召喚陣〟。
うんと昔、伝承レベルの大昔に描かれた召喚陣は、解読不能な遺物として倉庫の奥にあった。
大昔は、瘴気というものが世界に溢れて人々の生活を脅かし、それを浄化するために聖女を必要とした。
というのが、表向きの伝承だ。しかし、カルアは幸か不幸か、読めてしまった。召喚陣の一部が。
『美少女好きのクソ野郎共』
その文字は、平仮名カタカナ漢字英単語数字を駆使して、巧妙に陣の一部として溶け込んでいた。
────相当怒っていらっしゃる……。
それはそう。聖女召喚なんぞ、ただの誘拐である。
伝承では、ある時から突然召喚陣が作動しなくなり、やがて廃れていったとあった。
誰も知らない文字は、仮に後から付け足されたとわかっていたとしても、解明なんかできやしない。
それに、どんな資料を探っても、一向に『瘴気とは何か』『浄化とは何か』がわからない。
もしもそんなものがあったなら、今だって危機が訪れるはずである。でも、瘴気の危機なんぞ欠片もないのだ。
そして、この怒りのメッセージ。
そういえば、伝承では聖女様は必ず王族と婚姻していたな、と思いつけば、さらに眉間に皺が寄った。
異世界の美少女を嫁にしたかっただけじゃね……? と、誰でも思うだろう。カルアだってそう思う。
おえっと舌を出しつつ、メッセージを残してくれた聖女様に両手を合わせて、所長の許可のもと召喚陣のパピルス的な巻物を持ち出した。
と、いうのも。
もし、万が一、何かの奇跡的なあれが起きて、この召喚陣が発動しちゃったりしたら。
────美少女好きのクソ野郎共様が、召喚されてしまうのでは……?
古代の魔道具や魔術陣だって、解明されていない理由で、急に動き出すことがある。
それらの事件や事故が起きた時に対応するのも、カルアたち魔術研究所の役割だ。
高い確率でなくとも、ありえないとは誰にも言えない。
仕事の合間に、少しずつ解読を進めたところ、やはりある程度の条件が揃えば発動しかねないということを突き止めた。
封印方法を探している間に誤作動なんかされた日には、目も当てられない。まずは書き換えによる時間稼ぎを決めた。
悩みどころだ。書き換えるにも、万一いけんじゃん! となられたら、異世界の方々のご迷惑になる。
なので、聖女様のアイデアをお借りして、異世界の言語を使うことにした。
「クソ野郎……美少女……」
ぶつぶつと呟きつつ、狭い部屋をぐるぐる歩き回る。ちなみに、これも前世の記憶に基づく思考の整理法だ。
唱えている単語はちょっとあれだが、整理法の効果かはたと閃く。
『私はおじさま推しです』
なんてことはない、カルアの好みのタイプ。
誰かを罵るわけでもない、欲するでもない、特定もしていない、ただの感想である。
真夜中のテンションMAXの一文を、聖女様の書き込みを上書くように添削して記した。
やり切った感と共に朝日が昇ったため、カルアは巻物をしっかりと保管庫に仕舞って施錠してから、研究所専用アパートの自室へと帰宅した。
もちろん速攻寝た。




