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 1978年10月。その始まりに前触れはなかったという。


 のちに『ツリーオブスカイ』と呼ばれることになる旧東京タワー。その敷地が突如謎の場所につながってしまったのだ。


 黒い霧に覆われた、広大な迷路のような異空間。UFO、心霊、妖怪。オカルトブーム全盛だった当時、その謎の現象は人々の興味を強くひきつけた。が、架空ではない実際に起きている異常現象だ。当然、政府による原因究明が行われたが、当時の技術で理解できることは少なかった。


 一か月後。事態は新たな局面を迎える。同様の現象が日本中のあらゆる場所・施設で確認され始めたのだ。次第に拡大していく異常現象に人々はパニックに陥ったが、調査対象が増えたことでこの現象の概要が分かり始めた。


 最初に分かったのは、現象の規模だった。元が広い場所ほど異空間の構造も複雑に変化する。そして、調査を妨げる瘴気の存在。深く潜ろうとするほどに濃度が増し、侵入する人間の呼吸を阻害する。その特性が現象の探査をより困難にしていた。


 年が明けた1979年1月。完全装備の自衛隊による最初の踏破作戦。有名な某ホームセンターが舞台だ。これにより、俗に異界化と呼ばれた一連の現象の基本的なルールが次々と――――




「ほぁ……」


 午後の授業は退屈だ。歴史……。今となってはダンジョンはエンタメだけど、昔は亡くなる人やけが人も大勢出た。戦後最大の混乱とまで言われたこともあるらしい。……僕が生まれる前の話なんか知らないけどね。


 一番後ろの窓際の席。前は背が高い野田君だから寝てても先生にはバレないし、教室のクーラーの風がちょうど良く当たる。心地良い……。




 ――――迷宮の奥から得られるものは多かった。金銀財宝、希少な資源の数々。そして、とりわけ貴重だったのが、迷宮の最奥に安置されている『ボックス』と呼ばれる宝箱だ。


 ボックスを解析することで得られる技術の有用性に気付いた当時の政府は、すぐさま法整備に取り掛かった。これが現在まで続く迷宮保護法、そして90年代初頭まで続くダンジョンバブル経済の始まりだ。


 この時期に研究された数多くの技術が、現代社会に与えた影響については、今更言うまでもないだろう。迷宮探査に欠かせないモートロイドやドローンに代表されるロボット工学、ミアズマテックの副産物である――――


 


 新学期の主役は僕たちなわけがなかった。学校中がザ・ラン初の春夏4連覇を成し遂げたヒーローの話題で持ち切り。で、一週間は続いたであろうその熱気ももう無くなり、中間テストに向けて切迫した現実ってやつが戻ってきていた。……夏はもう終わりなんだ。


 眠い……。


 ……ん?


 現実から背けた目を窓に向けると、午後の陽ざしの中、広い校庭の向こう側の校門あたりに人影が見えた。目を細める。陽炎にぼやける輪郭が少しくっきりしてくる。


 女? 黒いブレザーのような制服を着ているけど、ウチのじゃないな。冬服でもない。顔は……この距離じゃわからないけど、美人な感じだ。髪は真っ黒な長髪だけど、ところどころにやけに鮮やかな赤いメッシュが入ってるみたい。不良か? ここいらにああいうのいたっけな……。あれ? なんかこっちを見ているような、気が……。


 バガンッ。


 !? 痛っつぅ……。脳天に叩きつけられた分厚い教科書の衝撃に、メガネがズレて目から火花が飛んだ。


「ずいぶんお疲れのようだな、四津守」


 げ、モリタンク! 仁王立ちしてる筋肉だるま。バレてた……脳みそまで筋肉じゃなかったか……。ゴツい指がページを示す。


「……ここからだ」 「はい……」


 僕はふらつく足で立ち上がった。目をこすりながら教科書をまさぐる。




「90年代後半、迷宮探索は新たな段階を迎える。ゲートウェイの発明である。迷宮の発生をある程度コントロールし、自由に生み出せるようになるこの革新的な技術は、人類と迷宮との関り方を根本から変えてしまったと言っていいだろう――――」


 ゲートウェイ。いわゆる管理ダンジョンという概念は、企業が所有するただの鉱脈のようなものだったダンジョンを、一大レジャーにまで大きく飛躍させてしまった。


 攻略法が知れ渡ったことにより、一獲千金を狙う一般人による野良ダンジョンの探索者も増加。そのブームは現代もまだまだ続いているんだ。


「――――迷宮をめぐる文化は、テレビやインターネットなどのメディア。漫画、アニメ、おもちゃなどにも広く取り入れられた。そして、その集大成と言えるのが2000年代に入り毎年開催されるようになった、日本最大のダンジョンイベント『ザ・ラン』だ――――」


 ……クスクスクス。


 教室中から聞こえるヒソヒソした笑い声。……理由はわかってる。目を背けると、校庭の向こうにあった人影はもういなくなっていた。



――――――――――



「やあ! やあ! やあ! おまたせーっ」


 部室のドアをバンと開ける。舞い上がった埃の向こう側に人影が見える。パイプ椅子にもたれかかって漫画を読んでるよっちんの姿だ。


「っはよー。……部長きてるよ。修理終わったってさ」


 漫画を仰ぎ見ながら目線を送る。おっ、部室の角にもたれかかってるモートロイドを発見。wi-fiで動く等身大の操り人形。粉々だった部品がすっかり見違えて、きれいに元通りだ。さすが。


「ナナヲ君、さすがに今回は時間がかかったね。コアユニット以外ダメだったからねぇ」


 部長。ひょろ長い枝のような見た目だけど、我が部の大黒柱だ。家が超お金持ちで、個人用のカーボンプリンターまで持ってる。部の予算だけじゃ賄えない色んな事をやってくれてる。控えめに言って神のようなお方だ。


「うーむ? 前より良くなったんじゃ?」


 ぐったりとした機械人形をまじまじと観察する。ボディには『あの時』の傷が目立っている。でもそれ以外の部分、腕や足のパーツはもとの安っぽい艶消しグレーじゃなく、光沢のある真っ黒な素材に変わっていた。頭部は広告で見たこともある、青いラインアイが三本並ぶ最新式のセンサーヘッド。すごい!


「さす部長っ! スゲーっすよこれっ」


「ははは、大げさだなナナヲ君。中古パーツもだいぶ流用してるから、実はそんなでもないんだ」


「いやいや、十分っすよ。これなら次はいけますって絶対! 次は…」


 ……。


「あれ? 乃野木は?」


 ……おや?


 二人の間に気まずい沈黙が流れる。重たい空気を制するようによっちんが話しだした。




「……それが。……乃野木君なんだけど、部活辞めるかもって話なんだ」


「……え!?」


 コーヒーカップを持った部長が奥に引っ込んでしまった。


「え? で、でもやっと修理終わったしっ。……だって……これからじゃん! ……ホントに?」


「本当だよ」


 開けっ放しだった部室のドアのほうから声がした。……乃野木。


「……本気?」


 乃野木は答えなかった。そしてゆっくりと部室に入ってきて、ドカッとよっちんの向かいのイスに腰を据えた。深呼吸をしたあと、感情を押し殺すように一言つぶやいた。


「……ニュースの動画見たでしょ?」


「……」


 動画。心当たりはもちろんあった。『あの大会』のあと、さんざんコスられた苦い思い出だ。




 事件は第1チェンバーの開始直後に起こった。


 スターティンググリッドのシグナルがブルーに変わり、三体のモートロイドが一斉に起動した。前衛(スレイヤー)の乃野木、中衛(スリンガー)のよっちん、後衛(スカウター)の部長。伝統的なナロートライアングル陣形だ。


 開始1分が経過。ゴブリンタイプの影獣(シャドウ)の群れで構成される、典型的な第1ウェーブを順調に突破したチームの前に、一体の中型ボスが出現した。ガーゴイルと呼ばれる悪魔のような姿をした影獣だ。空を飛ぶ敵へのセオリーはただ一つ。翼をスリンガーが破壊しスレイヤーが仕留める。ありきたりで対処法も確立されてる簡単な相手。……のはずだった。


 ……おそらく、原因は相手チームの成り行きをちらりと見てしまった事なんだと思う。すでに第2ウェーブを突破せんとする、相手のすさまじい勢いに圧倒されてしまった。焦りがあった。そして、乃野木はあの『新兵器』を使ってみることにしたんだ。


 この判断が間違いだったとは思わない。……武器を作ったのは僕だしね。ただ、その威力を誰もが過小評価していた。ライトサーベルは珍しい武器じゃない。問題なのはそのコアにつけた部品の方だった。……そう。……僕のせいだ。


 空高く飛ぶガーゴイルを一撃でぶち抜く巨大な光の剣。そういう風になるはずだったライトサーベルからは、目が眩むような光が洪水のようにあふれ出していた。その閃光のせいで撮影用のカメラドローンのすべてが、その全容をとらえることができなかったほどだ。


 ズシン。ダンジョンの外にまで響き渡る轟音と振動。衝撃波だけで六機のドローンが墜落した大爆発。爆心地である乃野木のモートロイドは木っ端みじんに砕け散り、すぐそばにいたよっちんと部長の機体も、それぞれ大破して壁に打ち付けられていた。


 ……。


 本当の問題はここからだった。……大会の後、武器の規約違反が指摘されたんだ。禁止パーツがあるのは知ってる。でも、それは軍が使うような強力な兵器を禁止するもののはず。……それに今回の事例が該当する、とされてしまったんだ。


 ……確かにそうだったのかもしれない。結局、調査のためにと乃野木の機体も武器も、ボディ以外のほとんどが運営に回収されて帰ってこなかった。そして――――。




「……汚名だよ」


 禁止パーツを公式大会で使った高校生。警察沙汰というわけではないし、大会としても出場停止とか追放とか、そういう厳しい措置はしなかった。一時の悪意のない過ち。……けど、リアルタイムで拡散した動画の方は違う。


 初戦で起こったこのド派手な事件は、瞬く間にネットニュースになった。記録的な4連覇のクロックワークスとは対照的に、まったくネガティブな意味で僕たちのチーム、『ジャンクヤード』の名前は持て囃されたんだ。


「……本当にごめん。乃野木君」


「いや、良いんだよ。……別に。ナナヲ君もチームの事を思ってやったことでしょ」


「……で、でもさ。その……。こうやって新しい機体ができたことだし……。次は。……次はきっとうまくいくよっ」


 乃野木が顔を背けた。


「次なんかないよ、ナナヲ君……」


「……で、でも」


 乃野木がゆっくりと立ち上がり、背を向けて部室の窓を覗き込んだ。遠くの景色を眺めながら続けた。


「……父さんがさ。ニュースを見たんだ。普段ネットニュースなんか見ないんだけど……今回はこっぴどく叱られてさ。まあそれはいいんだけど――――」


 乃野木の家は町工場を営んでいる。そこそこ有名な企業の下請けもやってる大きな工場だ。教育熱心な家庭で、勉学をなにより優先することと、その活動内容に高専に進むための意義があること。この二つがクラブ活動の条件だったのだという。


 なるほど、確かに機械工学部。名前だけは実技演習の場所だと言えなくもない。けど、実態はこうだったわけで、そして……あの事故だ。




「――――まあ、そういうわけでね。もしかしたら命の危険も、となるとさ。さすがに押し切れなかったよ」


 ミアズマテックはダンジョン内でしか使えない。しかし、そんなことは親には関係ないのだ。昔を知ってる世代の大人ならなおさらだろう。わずかでも危険なものを触らせたくない親の心境もわかる。……けど。


「……でも、じゃあどうするのさ?」


「困ったねぇ」


 部長がやっと口を開いた。


「ナナヲ。もう分ってるでしょ?」


 いつの間にか立ち上がっていたよっちんが肩をポンと叩いた。


「は?」


「3人しかいないんだからさぁ。……もうそれしかないじゃん」


 もう一方の肩を乃野木が抑え込んだ。


「へ? どういうこと?」


 カチャリ。部長がコーヒーカップをテーブルにそっと置いた。


「……きみが操縦するんだよ、ナナヲ君。前衛(スレイヤー)をきみがやるんだ」




――――――――――




「――――本当に、こんなトコにあんの?」


 不安そうなよっちんの声をしり目に、僕はズカズカと林の中に分け入っていった。夕日はすっかり暮れてしまって、夜の闇があたりを覆い始めていた。


 ガチャン、ガチャン。多脚型のモートキャリー《タランチュラ》が、足音を響かせながら最後尾に続く。巨大なクモのような六本の足を軋ませながら、胴体に積まれた二つのコンテナを重そうに揺らしている。その頭部のヘッドライトの明かりだけが頼りだ。二人の影と木立の影が混ざり合って細長く伸びる。


「うん。この辺……」


 しばらく歩くと、少し開けた広場のような場所に出た。へこんだ窪地には、不法投棄されたと思われる壊れた家電や瓦礫、ごみ袋が山のように積みあがっている。


「はぁ、はぁ……。こ、ここ? ……え、あ? これ?」


 息を切らしながらよっちんが追い付いてきた。

 

「これだよ。ほら……」


 ヘッドライトに照らされているゴミの塊。そのただなかに何気なく置かれている小さな石像を指差した。ゆっくりと近付いたよっちんが、興味深く目を凝らす。


「これは…」


 首をかしげてにっこりと笑ってる、赤い前掛けをしたお地蔵さんだ。昔話とかでよく見るようなやつ。でも、よーく見るとうっすら向こう側が透けていて、ヘッドライトの明かりが通り抜けて青白い影を落としている。ホログラムのようにザラザラとした輪郭がちらつく。


「!? これって、まさか……。バックルーム!?」


 バックルーム。カテゴリー1の低層ダンジョン。エントランスしかないため、瘴気も影獣(シャドウ)も発生しない。他のカテゴリーのダンジョンと違い、その入り口が周囲の環境に溶け込むよう、巧妙に偽装されて配置されるのが特徴だ。


 その性質から、たいていは発見と同時に攻略されてしまう。宝箱を取るだけで消滅してしまうからね。……でもこれの場合は少しだけ様子が違った。


「あっ! 前言ってた『お宝』って、もしかしてこれのこと?」


 僕は黙ってうなずいた。




 それは夏休みの前にまで遡る。


 僕は、いつものようにマックス――――飼ってる犬の名前だ――――の散歩に出かけた。時間帯もちょうど同じぐらいだったかな。


 その日、いつものコースを外れてみようと思った。特に理由はない。ただ、ちょっと成績の事で親と揉めたから、時間を少しだけずらして帰ろうとしただけなんだ。まあとにかく、道を外れて林の中に入ってみた。


 すると、マックスが何かにひきつけられて、ふいに強くリードを引っ張った。たぶんゴミの臭いにひかれたんだと思う。そうして引っ張られるうちに、このゴミ置き場を見つけたってわけだ。


 違和感にはすぐ気付いたけど、まさかダンジョンの入り口だとは思わなかった。何の気なしに頭の部分をさすってみると、途端に周囲の景色が四角い部屋に変わってしまった。……噂話で聞いたことがある、バックルーム。これが……。無機質で明るい部屋の中央には、壁と同じ色の真っ白な台座があった。僕とマックスは、胸を高鳴らせながら台座に近づいて行った。


 膝ほどの高さの長方形。セラミックのようななめらかな質感の台座の上には、ひし形のくぼみに合わせて宝石のような物体が収まっていた。――――バックルームは一つの宝だけが収まっている。……これが宝? 恐る恐る手を伸ばしたが、その正体にはすでにピンと来ていた。


 カコッ。


 宝石は抵抗なく取れた。片手に収まるアメジストのような紫色をした、ひし形の発光体。手に取ってみてわかった。やっぱりそうだ、これは《レイクリスタル》だ。……ライトサーベルのエネルギー源に使うやつ。……たぶんね。




「ああ。それが『例の』……」


「……そういうこと」


 ギアショップのとは全然違う、見るからに高純度な結晶に見えたんだ。それで、密かに乃野木の《ヴァイパー》のスペシャルウェポンに組み込んでみた。……それが大失敗だった。武器のガワが付いてこれなかったのか、パワーリレー規格との相性が悪かったのか。まあとにかく、原因は分からないけど、知っての通りのあの結果ってワケ。


「ん? ちょっと待って。お宝はもう取ったんだよね? ……じゃあなんでまだポータルがあるんだい? 普通、お宝が無くなったらバックルームも消えちゃうでしょ」


 そこだ。そこがこのダンジョンの奇妙なポイントだった。




 お地蔵さんの頭を手のひらでひょいと触れると、周囲の景色が明るい白に塗りつぶされていく。正方形の無機質な部屋には、僕とよっちんとタランチュラだけが取り残された。


「これは……」


 ひし形のくぼみが残る台座の向こう側の壁に、灰色の煙がゴウゴウと渦巻いている。歪んだ空間の向こうにどこかの景色が見える。


「ポータルの中にポータルが……。こんなの見た事ないね」


「……そうなんだ。クリスタルを持ち上げたら、『これ』が出てきた」


 よっちんが頭をひねっている。


「クリスタルが何かのカギだったってことかな。それがきっかけで、ポータルが開いた……」


「……たぶんね。先生とか図書室とか……いろいろ調べたけど、似たような話が無くってさ。もっと分かってから二人を誘うつもりだんだけど……」


 霧のポータル自体はそこまで珍しくない。カテゴリー3程度の中層ダンジョンでよく見る形だからね。だけど、ダンジョンの構造物の壁に、更に入り口ができる現象は見た事がなかった。

 

「ほう……。ふふ。で? 今日、『攻略(クリア)』するわけだ」


「もちろん! 僕の練習も兼ねてだけどねっ。……よっちんだってそのために来たんだろ?」




 クモのような姿のタランチュラの頭部を叩くと、眼のようなタッチパネルが黄色に変わってスレイブモードが解除された。ガチャガチャと六本の足を器用に折りたたんで腹ばいになると、パシュッとコンテナのフタの油圧ロックが外れる音がした。


「さて……」


 胴体を挟んで左右に分かれ、二つのコンテナの蓋を同時に押し上げた。膝を抱えて丸まったモートロイドが固定されているのが見える。


「もしかしたらだけどさっ。未発見のカテゴリーかもしれないよねっ」


「まさかっ。せいぜい広めのホーンテッドマンションってとこでしょ。4以上はゲートウェイがいるって聞くしね」


 うずうずとしながらガイドレールを組み立てる。両肩を吊り下げた状態のモートロイドがスライドして引き出されると、自動的に直立状態に移行してスタンバイモードに入った。サルベージワイヤーを固定して背面のスロットを開く。


「アシプロ使ってたら練習になんないよ?」


 コンテナに収納してあるカートリッジを物色してる僕をよっちんが覗き込む。


「えー? あんまり慣れてないんだからさぁ」


「うーん。……まあ今日はどっちもパッドだし、仕方ないかな」


 四七のラベルが貼られたカートリッジをスロットに差し込んだ。僕のお手製の戦闘対応プログラムだ。ウィーンというディスクの回転音がして、後頭部のパネルに『ready』の文字が浮かぶ。


 カラになったコンテナは、ちょうどコックピットのように変形して座れるようになっている。僕はそわそわと腰を下ろしてメガネを外すと、有線式のヘッドセット付きゴーグルを引っ張りだして装着した。


「行ってみよーっ」


「ははっ。お気楽だなぁ」


 肩の固定が解除される。ゴウン、キィィン。視界にノイズが走り駆動部のうなる音がする。頭部のパイロットランプの点滅が青い点灯に変わり、二体のモートロイドがゆっくりと歩きだした。




 ――――この時。僕たちはまだ、このダンジョンの本当の意味を理解していなかった。僕たちが意気揚々と操縦席に収まった頃、夜よりも暗い瞳でお地蔵さんを見下ろしている『その子』の姿にも気付いてはいなかった。

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