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プロローグ

 ――――サマーシーズン到来!



 今年もあの『熱い夏』がやってくるっ!



 ザ・ラン



 若き勇者たちの『熱い夏』を見届けろ!



 ザ・ラン



 記念すべき第10回大会。その栄誉は一体誰の手に!?



 ザ……ブチッ





「へあっ? あれ? ちょっノノギ君っ。なんで……」


 腕を組んでくぎ付けになってるメガネ。暗いブラウン管にうっすら映ってる、これが僕だ。


「ナナヲ君、今日何回目? もういいよ、うるさいよ、気が散るよ」


 乃野木和八(ののぎかずや)。なんだかいつもエラそうな後輩。グラブコンポーネントを不器用な手でいじってる。いっつも熱心に調整してる割に精度が悪いんだ。……性格出るよなぁ。


「えー? ここからがいいとこなのに」


「『スプリングフェスMVR、クロックワークス!』でしょ。『スリンガー藪坂、今季の意気込みを語る!』……もう覚えたよ」


 小佐田与一(おさだよいち)。我らがふとっちょスリンガーのよっちんは、今日も漫画読みながらチョコを齧ってる。部室にあるゲーム機や本のほとんどがこいつの私物。山積みの本の中にはエロ本も大量に混じってるし、ほんと何しに来てんだろ…。


「むぅ」


「……そんなことより、今回はちゃんとエントリーしたんだろうね?」


「そうそう。また忘れたら次は半年後だよ。大丈夫?」


 ふん。そう来ると思った。僕は自信ありげな笑みを浮かべ、スナック菓子の空き袋やネジやプラスチック片が転がるテーブルの上に、3つのカートリッジを放り投げてみせた。

 

「へへっ」


 簡素なラベルが貼られたディスクカートリッジ。マジックで書かれたM2の文字に二人は目を丸くした。


「二番! ってことは…」


「確か、一番は春フェスのシードチームだよね。それじゃつまり……」


 ダン! 僕はテーブルを叩いて立ち上がった。


「そう! あの天下の高原台西高! その精密な作戦から『時計仕掛け』の異名を持つ、あの!」


「…うるさいな、『クロックワークス』だろ。聞いたよ、もう今日ずっと……」


「うーん。どうなの? Dハイ常連校でしょ。春フェスの動画見た? あんなのとバディランとか嫌な予感しかしないけど」


「よっちん、弱気言うなって。確かにやばい相手だけど、逆に言えば! だからこそ我らが蓬工高ダンジョン部の実力を、世に知らしめるチャンスじゃん!」


 振り上げたこぶしを見上げる二人の視線が冷たい。


「……ホントは機械工学部だけどね。部長入れても4人。弱小オブ弱小」


「ナナヲ君さぁ。……まだ半年じゃん。公式ランなんか一度も出てない。……絶対勝てないって」


 乃野木。情けないやつめ。


「だからこそじゃん! あのクロックワークス! 別に負けたって爪痕残せればいいんだ。新学期には話題になってるよ、きっとっ!」


「んー、まあね。確かにね…。目立てば部員増えるかもってのはあるなぁ」


 さすが我が部のエース。話が分かる。


「だろ? 盛り上がればたぶん予算も増えるし、そしたら部室の格上げだって夢じゃ……」


「はあー、分かりました、分かりましたよ。……で? 作戦は?」


 乃野木が頭を振りながらアゴをかき始めた。こうなったらもう一押しだ。


「先輩のお二方がやる気なら付き合うけどさ。でも、やるからにはちゃんと勝つ気でやろうよ。前衛としてノープランは困る」


「もちろん! 作戦ならちゃんとあるよ。で! それが! いま組み立ててるこの『新兵器』ってワケ」


「おおーっ」


 パチパチ。二人の歓声が相次ぐ。


 部室棟のはじっこ。ひび割れが目立つ打ちっぱなしのコンクリの壁。ヤニとカビが染みついた天井。サビと埃にまみれたロッカー。このボロい小部屋がすべての物語の始まる場所! 僕らの夏が! 『熱い夏』が、いよいよ始まったのだ!――――




 ――――おおーっと、早い! 強い! クロックワークス! 早くもフラッグを取得! なんと、第1フロアのテイクダウンはわずか3分25秒! これはすごい! 驚異的です! 他を寄せ付けない、圧倒的な実力! ではここでいったんリプレイを交えつつ、スタジオで解説の――――




 ――――西暦2012年8月26日。快晴。海鳴りのような歓声が、抜けるような青空に吸い込まれていく。こうして僕らの『熱い夏』は、あっけなく幕を閉じた。

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