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美人すぎる国会議員と行く異世界旅  作者: Y.イヨネスコ
第二章 湿布怒濤篇

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天羽々矢


 不意に石礫を食らった川姫の体表が粘液を撒き散らしてはじけ飛ぶ。そこへ5.56mm弾を撃ち込む。うねる触手が細切れになりながらも本体への直撃を防いだ。

 距離を取ろうとするのを後背からの石礫で足止めしたがわずかに躱され、粘膜上を滑ってダメージを与えきれなかった。

 石礫の連射速度がまだ足りてないので反応されはじめているのだ。

 そこで奥の手を使う。


 石礫の散弾だ。1個ずつではなく何十個もまとめてアスポートしたものをぶつけてやる。スリングの遠心力が加わっているのでサイズは小さくなったが威力は倍増している。

 初めからこれを使えばよかったねとシロミと笑いあったがアスポートで取り込むのを体得するのに苦労したスキルだ。

 どうだ効くだろ。

 先手だ。とにかく先手を取り続けるんだ。

 後手に回ったらかなわない気がする。そん危機感にあおられて攻撃の手を休めない。


「マモジー、川姫の援軍だ!」


 ドン吉の切迫した報せにザワザワとした地鳴りが重なる。

 アノマロカリスやマーレラのような古生物風クリーチャーが大地を這ったり宙をヒラヒラと泳いで押し寄せてくる。

 何が「地の利はない」だ。大嘘つきめ。

 対抗してM2重機関銃をアスポートした。


「撃ちまくれドン吉!」

「ブヒヒーン」


 ドン吉の蹄がトリガーを押し込んだ。

 もう片方の脚で狙いをつけている様はまるっきりカートゥーンアニメだ。ますます現実離れしてきたぞ。

 早く勝負をつけないと数の暴力に蹂躙されてしまう。と、川姫が水の壁を周囲にぐるりと巡らせた。まずいぞ、これじゃダメージが半減してしまう。

 水壁からスプラッシュとともに太い触手の束がほとばしる。


「ぐあっ!」


 やられた。左手ごと小銃を持っていかれた。

 半分になった89式を投げ捨てとっておきをお見舞いしてやる。

 重さ百kgほどの岩を崖の上から力一杯ぶん投げてもらい地面に当たる寸前にアスポートしたものだ。おそらく衝撃力は百トンをくだらないはずだ。

 水壁のない真上からリリースしてやる。

 グシャッという手応えがあった。

(やったか)というフラグ台詞を呑み込んで手榴弾で追い打ちをかける。


「これしきで!」


 体表の蠕動物をを失ったタリーモンスターそっくりの頭部と上半身が現れた。潰された下半身を引き千切って這い出てくる。そろそろ石礫の残弾が心もとない。

 パンツァーファウストをぶち込みたいが至近すぎるうえに左手がないので無理だ。

 SFP9の9mm拳銃弾とまだ豊富にある矢を間断なく射掛けつつ思案する。

 するといつぞやの花畑でピンチを救ってくれた光の矢がタリーモンスター部を貫いた。

 断末魔の悲鳴とともに川姫は倒れ伏した。


「まさか天羽々矢(あまのはばや)を持っていたとは……かくなる上は」


 視界が白濁した。

 周囲が上下左右もわからない空間へと変貌する。


「そこで朽ち果てるがいい」


 川姫の声が遠ざかっていく。

 浮かんでいる重機関銃を回収するとドン吉がふよふよと近づいてきた。


「マモジー、ひどい有様だな」

「やられたよ」


 左手首から先がなくなっていた。ブギーマンの癒やし布を巻き付けておく。出血や痛みはなくなったが再生はどうなんだろ。


「閉じ込められちまったな」


 ドン吉が(こうべ)をめぐらせる。


「出口を探そう」

「どうやって? マーキングでもしてあるのか?」

「マーキング?」


 そう言われてまだ湿っぽい股間を押さえる。


「そういやマーキングしてあるわ」


 この空間に来た時の小便の水溜りを思い出す。

 俺はアスポートで新しいズボンと下着に履き替えドン吉に跨った。


「レッツゴー!」

「ヒヒン!」


 ドン吉が鼻をヒクヒクさせながら遊弋(ゆうよく)しはじめた。


 俺は『天羽々矢』と川姫が呼んだ光の矢を思い返していた。花畑に出現した際は元世界の祈りが具現化したのだと考えたが、ライブ中継の切れているこの空間でも放たれたということは俺の内部に元々あったということなのか。

『天羽々矢』は記紀に登場する天津神の証のようなアイテムだ。

 なぜそんな御神器を持っているのか自分でもわからない。物部氏の共通ストレージのようなものに格納されているのだろうか。

 それとも俺はニギハヤヒの役割を与えられてしまったのか。

 考えても詮無いことは記憶の底に沈めてしまおう。年寄りはそんなことに拘泥している暇はないのだ。


 やがてドン吉は停止し眼前の空間に黄色い染みが浮遊していた。


「見つけた」

「ここだな」


 俺は自らの結界を右手に集中させた。

 空間が干渉しあい徐々に川姫の異空間が破れはじめた。


「負けじゃ」


 背後に十二単衣の美しい女性が現れた。川姫だ。


「こうもあっさり白骨迷宮を抜けられるとはな。持って行くがいい」

「ちょっ……それって」


 いわゆる玉手箱的な何かを差し出してきた。


「元の世界に必要なのだろう?」


 俺は意味を察し受け取った。

 その瞬間辺りは現実の川原になっていた。

 生を実感する。

 俺は座り込み右手の玉手箱を置いた。

 疲れたよ。ふと思いつき四方来堂の柏餅をアポーツした。製造年月日を確認すると襲撃された日より三日も過ぎていた。

 こうしてはいられなかった。予定ではそろそろ国境の砦付近に到達しているはずだ。

 三日ぐらいならと玉手箱の紐を解き蓋を開けると白い煙が立ちのぼった。

 まるで浦島太郎のおとぎ話だが65歳の老人は老人のままだ。


 川姫の物語が流れ込んできたが俺という粗いフィルターは受け止めきれず残滓だけが頭の片隅にこびりついた。わかったことはまず川の禍獣を操っていたのは川姫で何者かの供物を受け取り願い事をかなえただけなのだ。

そして川姫はやっぱり古代生物で異能生存体のような存在だったということだ。

 何回も大量絶滅を生き延びゲミニスにまで飛ばされ、神さえ殺すという天羽々矢を受けてなお死にきれなかった。

 川姫の背負っている運命の意味を俺は知らない。かつて存在した生命の記憶、証なのか、それとも天津神が降臨する前から世界にいた土着の国津神の執念なのか。


 もしかして大量絶滅はTHE Dことディーモンの仕業かもしれない。

 思いつきだが可能性はありそうだ。

 人類絶滅は手始めで……ぐむ!

 またやってしまった。餅が喉に!!

 ドン吉!

 俺は柏餅の包装紙に描かれた稚拙なハイムリック法のイラストを見せた。

 ドン吉はうなずき、お尻を向けた。

 待て!

 制止は間に合わず強烈な後ろ蹴りが俺の肋骨をまとめてへし折った。

 柏餅を吐き出しながら俺は吹っ飛んでいった。


 

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