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美人すぎる国会議員と行く異世界旅  作者: Y.イヨネスコ
第二章 湿布怒濤篇

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政治談義その2


 ※ 第三者視点


「なるほど人質を取って地方の富を強制的に中央で消費させる、参勤交代とは恐ろしく陰湿なシステムを考え出したものね」

「中央集権と地方分権が絶妙なバランスだったしね」

「これを導入されてはたまらん。シロミの胸にしまっておいてくれ」

「さらに武士階級は特権を持つ代わりにいざとなれば切腹という形で責任を取る。今の故郷の政治家に一番欠けている進退の潔さが当時は機能していたの」

「失礼します」


 メイドたちが手指のメンテナンスにうつる。

 爪を切り、磨き、ジェルを塗り込んでほぐしていく。


「江戸の経済思想の一つは『経世済民』といって世を治め、民を救うことで。商人を肥え太らせることが目的じゃないの。

 商人を階級の最下層に置いたのは金を持つ者が政治まで支配する金権政治を防ぐための知恵だったのに今はその順序を逆転させてしまった。金を持つ者がルールを書きかえ額に汗して働く者が報われない世の中になってしまったわ」

「その優れた江戸時代はどうして終わってしまったのだ?」

「一つは諸外国からの圧力、もう一つは財政難。古い物々交換の石高制と実体経済としての貨幣社会の歪みかな。時代の過渡期だったのよ。ちょうど現在の『キアラ』に似ているわね」


 あの時代にできることは質素倹約と産業振興ぐらいだ。もし江戸時代にうまく貨幣経済に移行でき国債発行とかできていたら、財政問題で幕藩体制が潰れることはなかったのかもとシロミは考えてしまう。


「剣や弓矢ではなくお金が原因で滅びることもあるのだね」

「歴史が教えるのは古臭い制度が倒れるとき次にくるのは必ずしも自由な民主主義ではないということよ。さらに強力な軍事独裁か、あるいは他国による植民地支配。わが国の先人たちはそうならないよう新時代に対応するため必死になって技術や知識を吸収したわ」

「シロミは江戸時代の何を理想としているの?」

「鎖国ね」

「あら意外。時代に取り残されるんじゃなくて」

「祖国が今、移民や外資に侵食されているのは門戸を開きすぎたから。制限しコントロールすることで外国の宗教や資本による精神的、経済的侵略を防がないといけないの。デカップリング、切り離しが必要なのよ。そういう意味での鎖国政策」

「フェイシャルエステに移りますね。背もたれ倒しますよー」


 リクライニングチェアになっていたようでゆっくりと仰向けになっていく。

 顔に泥パックのようなものが施されその間に首からデコルテにかけてリンパマッサージなのか指が撫でていく。


「とても気持ちいいわね」

「彼女たちのエクストラは若返り(リジュビネーション)よ」


 これまでの『ゲミニス』の情報にはなかったエクストラだ。元世界ならとんでもない代金を取られそうだった。


「貴女の話を聞くに商人や貨幣経済が重要に思えるわ。私の国では賄賂が横行していて商人たちが私腹を肥やしているけれど、貴女の国ではそれが国そのものを動かしているのね。それはもはや王のいない専制政治ではないかしら?」

「我が国が滑稽なのはね財界とか他国の利益のために政治が歪められ、政策のビジョンがないから戦略的な国家100年の計が立てられず、その場しのぎの戦術的な給付金や目先の増税減税を繰り返して国民を誤魔化していることよ。

 土台である経済がもはや国民を豊かにするためではなく、特定の権益を守るための集金システムに成り果てようとしている」

「ずいぶんと辛辣ね。でもようやく貴女の本音を知れた気がしたわ。そこで立ち入った質問だけどあの物部守というおじいちゃんとはどういう関係?」

「私が命を賭けても守りたい人。できれば片時も離れたくないくらい」

「あらあら引き離してごめんなさいね。では部屋は一緒の方がよろしいかしら」

「ぜひお願い。でもベッドは別々で」

「そのように手配させるわ。彼は貴女にとって特別な人なのね」


 わざと誤解させる言い方をしたシロミはクスクス笑いをこらえきれなくなってしまった。


「政治家という人種はね真実を一つ隠すために、千の言葉を積み上げる生き物なの。私が今こうしてあなたに語っていることもどこまでが真実かわからないわよ」

「ではその(たぐい)まれな弁舌で『キアラ』と我がキタノール領を評価してもらえるかしら」


 シロミは乾きかけた泥パックの下で言葉を選んだ。


「国境が封鎖されている割に『オヅヌ』はずいぶんと賑わっているというのが第一印象ね」

「そこは蛇の道は蛇、というやつよ。都からの要請には応えているつもりだけど国境線は長いから抜け道をすべて塞ぐのは不可能。わかるでしょ」

「はい領民が飢え死にする心配はないと理解しました」

「都の奴らには軍事境界線でも妾にとっては大事なマーケットなのよ。領民に不満が溜まらないよう適度に緩めておかないとね」


 ノンノンがしたたかな人物だと確認できた。案外ゆるゆるなマモさんとも気が合うかもしれなかった。


「英邁な領主を得て民は幸せですね。意思決定も早くて羨ましいです。民主主義は決定速度が絶望的に遅くてしかも人気取りに走りやすいのが欠点です。しかも大人数で決めるから責任の所在も曖昧になります。ただ……」

「ただ?」

「次の代のララお嬢様、さらに次の代まで優秀な領主が続くとは限りません。そこが不安材料ですね」

「一瞬の迷いが領民の死に直結するから誤りなく判断を下すようにはしているけれど、たしかに失策が続けば侵略か暴動で辺境伯領なんて簡単に消滅してしまうでしょうね。

 貴女の国では決められない政治のせいで救えるはずの命がこぼれ落ちたことはない?  そのとき手続きは正しかったと胸を張って言えるの?」

「完璧ではないけど可能な限り善政は敷いているとしか」

「思うに民主主義というのは責任を1億人に薄めて、結局誰も責任を取らない仕組みのことではないのかしら?  妾が間違えればこの首が飛ぶ、物理的にね。王政の誠実さはその命のやり取りにあると思うのよ。特定の組織や 民衆の機嫌を取るために未来を切り売りするなんてそれは独裁者の暴政よりも救いようがない緩やかな自殺ではないかしら」


 シロミは舌を巻いていた。同時刻マモルがエクストラを舐めていたと反省したように、シロミもまた中世レベルのちょっとましな地方領主と舐めていたことに恥じた。


(これは思考のギアを何段も上げないと)

「けれど民主主義には間違えたときに自分たちで修正できる余地があるわ。専制は王が狂えば国が滅びるまで止まれない。私たちは王の気まぐれに運命を委ねるほどお人好しではないの」

「ええ、王が道を誤って滅び遺跡と成り果てた伝説もあるものね。諌めるべき家臣団も甘い汁を吸うことに夢中になっていたら『キアラ』だっていつどうなるか……そうね国の安全を担保するシステムがあれば少しは安心かもしれない。それが貴族階級の権限を削ぐものだとしても」


 日本の政治における検討は判断を先送りするマジックワードだがノンノンは違った。


「決めたわ! シロミ、あなたキタノールの参謀になりなさい。報酬はいくらでも出すわ!」

「とても魅力的な提案ね。ノンノン様、私の国ではね暴動は起きないわ。でも代わりに静かな沈没が起きている。

 誰もリーダーシップを取らずみんなで手を取り合って沈みゆく泥舟の上で公平な配分を議論しているの。独裁者の横暴なら首を跳ねれば済むけれど、国民全員が少しずつ無責任になるシステムの腐敗。これは外科手術ができない分もっと厄介なのよ。

 だから私はこのキタノールや『キアラ』で試してみたいの。あなたの決断力という劇薬に私の国の手続き(・・・)という包帯を巻けば少しはマシな国が作れるんじゃないかってね。でも私たちには果たすべき使命がある。だからこの国にはとどまれないわ」

「それは冒険者としての仕事?」

「違うわ、もっと崇高で重大な役目があるの。だからごめんなさい!」

「残念、世界をひっくり返す魔女を手に入れられるかと思ったのに。いいわ、でも妾たちは友だちとして仲良くできるわよね」

「はいノンノン様」

「ノンノンと呼び捨てて。何かあったら相談に乗って。妾、私も貴女たちの役目にできるかぎりの協力はさせてもらうわ」

「ありがとうございます」


 磨き上げられた二人の女傑は手を取り合った。


 

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