政治談義その1
※ 第三者視点
アロマの香りに満たされた空間でシロミとノンノンはガウンを纏い温かいハーブティーを挟んで向かい合っていた。
「あのスマホという写真機は素晴らしい物ね。あなたの国はとても豊かな国なんでしょうね。どんな王様が治めているの?」
「諸外国と比べてとてもいい国だと思いますが王様はいません。正確には政治には関わることがないんです。国を治めているのは国民の代表たちですね」
「では『マンマル』のような各部族の族長や領主による合議制ということかしら」
「まあ似たようなものです」
「リンリン団長からあなたは賢者だと聞いています」
「故郷でほんの少し政治に関わった経験があるだけですよ」
ノンノン・キタノールは身を乗り出した。
「ほう、シロミはもしかして貴族なのか」
「とんでもない、政治はもっと市民参加型になっています。私はただの一般庶民ですって」
「では貴族のように政を行う血統はいないということか。そのような素人集団で国がまわるものなの?」
そう言われてキンジローの顔が思い浮かんだ。
「たしかに世襲議員と呼ばれる、貴族ではありませんが代々政治に関わる血統はいますね」
「それを聞いて安心した」
世襲という名の擬似貴族制を思うと『キアラ』の専制君主制を笑えない。
地盤、看板、鞄、 選挙区を親から引き継ぐ世襲議員が跋扈し議会が事実上の「貴族院」と化そうとしている。日本の権力構造の硬直化を招く原因でもある。
だがノンノンは専門職という捉え方のようだ。しかし素人集団とは言ってくれたなと反発も覚える。
「優秀な官僚もいますしね」
「なるほど。だが有能すぎると実権を握られかねないのでは」
「まったくその通りです。選挙で選ばれていないから国や国民に対して無責任なところがありますね。あと融通がきかない」
「あははは、どこでも役人は同じとみえる。腐敗はどうだ?」
シロミはこの女辺境伯への見方が変わりつつあった。専制君主制の『キアラ』にあってかなり英明なようだ。
「官僚の腐敗も政治家の腐敗も少ないですね。すぐに退場させられますし、なによりマスコミの格好の餌食よ」
「マスコミとは?」
「ああそうか……辺境伯、あなたの国で何かが起きたとき民はどうやってそれを知るの? 街角の噂話、あるいは領主が張り出す公報、広場の触れ役、あとは吟遊詩人、そんなところかしら。
マスコミというのはね、その噂話や触れ役をひとつの巨大な商売にまとめ上げ、国中の人間の目と耳を独占した集団のことよ。通信のエクストラをすべての民衆が持っているようなものね」
「それは素晴らしいことではないか」
「ところがねマスコミという巨大な機構は影響力を持ちすぎた。彼らは真実を伝える義務があると言いながら、実際は自分たちが望む物語を売る商売人になってしまったわ」
「なんと、事実を伝えるのではないのか」
「事実なんて切り取り方一つでどうにでもなるそうよ」
「物事には裏と表があるということか。そうだ、妾のことは辺境伯ではなくノンノンと呼びなさい」
「かしこまりました、ノンノン様」
「敬語も不要だ。ではその市民参加型の政治の裏の顔も教えてくれないか。おっと用意が出来たようだ。続きはあちらで話そう」
「お待たせいたしました」
メイドがふかふかの椅子にいざなう。
どうやら足先の手入れらしい。
今度は隣り合わせに会話が始まった。
シロミは気が重かった。民主主義の欠点、限界は嫌というほど身に沁みていたからだ。
思わずため息をついて話しはじめた。
「私たちの国は民主主義という名の政治形態です。原則は多数決による意思決定となります。これが厄介で国民に選ばれた政治家は集まって党を作ります」
「なるほど多数派工作だな」
「だから議会で議論をして賛否を問う以前に、党の中で調整されて国会審議を形骸化してしまっているの」
「ふむ、一つ確認したいのだが国の人口は何人ぐらいなのだ?」
「1億二千万人。議員は七百人ちょっと」
「とんでもない数ではないか! それだけの数の人間をよくまとめられているものね」
「何百年も前はバラバラの国同士が争う戦国時代だったのよ」
「それを統一した者がいたということか」
「ええ、三人の英傑がバトンタッチをするように国をまとめ上げたの。その完成形が江戸時代。私の理想に近い社会よ」
「ぜひ聞かせてくれ」




