楽園の傷
※ 第三者視点
密林を進む総勢17人の探検隊。
ヴォイド教団から派遣された5人に現地冒険者4人とポーター兼ガイド8人の構成だ。
「そろそろ迷路地帯です。僕たちはここから方向感覚を失いました」
「へえ、これは禍獣がいたずらをしているね。どれどれ……これは相当なもんよ。霊験師にもこれほどの使い手はなかなかいないかも。さてはかなり年季の入った老禍とみた」
若い剣士にさらに幼く見える霊験師が応じ、手印を結んで環形彷徨を破りにかかった。
「ハクシ殿にしてはずいぶん手間取っているな」
「ふふふ、暇にあかせて何重にも迷い道を組んであるわ。でも所詮は獣、単純な繰り返しにすぎないからあとは進みながら解いていきましょ」
「おいおい大丈夫なのか?」
「隊長さん、慎重なのはいいけどこうしている間にも破られた迷路を繕ってるのよねぇ。元を断たないとそれこそ堂々巡りになっちゃうよ」
隊長と呼ばれたヴォイド教団の戦士長は決断した。
「道を切り拓け」
命じられたエクストラ持ちたちがハクシの指さした方向に無形の刃を放つ。
木々は倒されそこに探検隊は踏み入る。そしてまた刃のエクストラが発せられる。
「うふっ、仲間を真っ二つにしたくなかったらあたしよりも前で射たないでよ」
ハクシはそう警告した。それを聞いたポーターたちが震え上がる。
「本当にこんなところに転移者なんているのかよ」
「ここに転移してきたと本部の大神官様からお告げがあったんだとさ」
「それとこのあたりが迷路化した時期も符合しているそうだ」
教団員と現地冒険者が交互にダストデビルを放っていく。
円環翁チャクラサーは自分目がけて一直線に進んでくる一団に慄いた。
かつては全身を包んでいた迷彩柄の毛皮も今はあちこちで毛が抜けハゲだらけだ。そのみすぼらしい猿臂を伸ばし赤ん坊の守護団に出動を促した。
樹禍のヴァナスティ、鳥禍のパクシラ、蟲禍のキータラ、犬禍のルクシャ、犀禍のソーマニャがただちに侵入者を取り囲んだ。
ヴァナスティが放射霧を発生させる。
「来るぞ防御陣形!」
「おう!」
突然の霧に隊長が号令した。ポーターを中心に冒険者たちが周囲を警戒する。
「敵数五。前方に二つ、左右と後方に一つずつ」
ハクシが告げ、前方から地響きが近づいてくる。
「前方に多重シールド!」
「おう!」
たちまち幾重にも光の壁が形成される。そこに犀禍のソーマニャが突進してきた。三本の角がガラスのように壁を割っていくが最後の一枚で止められた。そこをすかさず隊長が長剣を閃かせ首を刎ねた。
それと同時に左右から犬禍のルクシャ、蟲禍のキータラが襲いかかった。それぞれの牙は受け止められたが体格差で押し倒す。上になったルクシャを槍が貫いた。キータラにも切っ先が突きつけられるが滑らかで硬質な外殻に弾かれてしまう。
「陣形を崩すな! 後方来るぞ!」
助太刀しようとする部下たちに隊長が注意する。後方から朧な影が突入してきたがぶつかることなく影と重なってしまう。
「上だ!」
その叫びも虚しく鳥禍のパクシラの爪が冒険者とポーターを切り裂き空に消えた。
その隙にキータラと傷ついたルクシャも抵抗する冒険者に咬みつき霧の向こうに連れ去っていく。
「おのれ化け物どもめ!」
「待て、追うな!」
若い剣士を隊長が制止した。
「そこ!」
ハクシが法具の矢を射る。
悲鳴が上がり霧がさーっと晴れていく。
樹禍のヴァナスティが火柱となっていた。
「仲間を助けないと」
「だめだ」
「そんな……」
「見捨てるわけではない。まず傷の手当てをして立て直そう」
連れ去られたのはどちらも現地冒険者だった。悔しそうな若い剣士もまた怪我をしているが気づいてさえいないようだった。
「ファムー!」
剣士は妹の名を呼んだ。
犬禍のルクシャは力尽き倒れていた。
ルクシャに連れ去られたファムはそのかたわらで痛む肩を押さえてしばらく呆然していたが赤ん坊の泣き声で我に返った。
そしてヨロヨロと立ち上がり声のする方へ歩きはじめた。




