俺の奢りだ
「俺の奢りだ。みんな好きなだけ飲んでくれ!」
俺は大声でそう宣言した。
人生で一回は言ってみたい台詞の一つだ。
「おーっ!!!」
冒険者たちがギルド併設の酒場でジョッキを高く掲げた。
スタングレネードを爆発させたお詫びという体だ。
懐はレリックを売却した代金で膨らんでいるので大盤振る舞いしても問題ない。
いざとなれば奥の手のアポーツもあるし。もちろんシロミには内緒だ。例の金のインゴットの件もあるので建前上禁じ手としている。
俺は鬼族グループ、シロミは獣人族グループに分かれて情報収集をしている。
命が懸かっているのでさすがの俺もノンアルコールでテーブルを回っている。
「大規模な取り締まりができないのをいいことに盗賊や山賊があちこちに巣食ってやがる」
自称"弓名人"に"鉄壁の男"やら"百発百中"なんて二つ名たちが老人初心者にアドバイスなど情報を大量投下してくれる。
「騎士団も頑張っちゃいるが国境には近づけないんで逃げられてばかりでさ」
「とくにヤバいのが『マンマル』の息がかかった連中で、ありゃ軍人くずれか民兵だな」
どうにも物騒な話しか出てこない。
予想ルートは三つあってそれぞれ山越え、平地、川沿い。阿弥陀くじのようにそれぞれのルートは横線で結ばれ、遠回りながら山から平地に下りさらに川沿いを進むことも可能だそうである。
もっとも過酷なのがその逆で川から山越えを目指すのはよほど足腰に自信がない限りおすすめできないそうだ。ただもっとも禍獣や賊の心配の少ないルートなので比較的安全だという。
明日は顔合わせと簡単な打ち合わせのみでルートは秘密という話だ。嫌な予感しかしない。
禍獣は川沿いには旅人を水中に引き込むタコアシや大ワニガエル、カワクモなどが生息している。平地はグレーウルフ、サーベルドッグ、ヘルアントなど群れで襲ってくる種類が要注意。山越えはデスバード、猩々、カットベアなど大型が怖いという。聞いているだけで恐ろしい。
端から異世界を転移者二人だけで旅するのは無謀だったと今更ながらに思い知らされる。
いかにエクストラや権能があっても現地ガイドは必須だったのではあるまいか。とはいえニューオオガ村やアニルさんのキャラバンも人手を割く余裕はなかったのだ。
そういえばエクストラやヌシの権能でいくつか興味深い話があった。
基本的にエクストラは一人につき一つだが似たような系統のエクストラなら二つ三つ持っていることがあるそうだ。
初めから二つというのはなく、レベルアップで枝分かれしてそれぞれ成長するようだ。
たとえばジグロの視線感知とシロミの敵意感知のように。どちらも目隠しで近接戦闘できるようなエクストラではないはずなのにそれ用に成長させてしまっていた。
遠見から千里眼、索敵から隠身といった具合だ。要は育ったエクストラ名など大枠の区別でしかなくエクストラ持ちの数だけエクストラがあると考えたほうがいい。
ヌシの権能については移譲どころかそもそも知られていなかった。ヌシはヌシであり退治した者が新たなヌシになるとか聞いたこともないいと口々に言われた。
うーむ、解せない。転移者特典なのかなと考えていたらスレッジハンマーを振り回してドアごと俺を吹っ飛ばした大男が私見を披瀝した。
「ヌシというのはあちこちに居るがダンジョンそのものがヌシのような気もする。土地に住み着いたような得体のしれれなさを感じるんだよな」
なるほど隧道ダンジョンをクリアして、ヌシ同様に1億人の地形図をゲットした身としては同意せざるを得ない。さらに大男は続けた。
「突然現れた新しいダンジョンなんか特に見たこともない魔獣がいて本当にこの世のものかと思うよ。もしかしたら地獄とか別世界に通じているんじゃないのか」
な、興味深いだろ。ダンジョンが異世界に通じているとか発想力ぶっ飛んでる。だが俺にとって妙に説得力があるのも事実だ。
もし通じているのではなく異世界から転移してきたとしたら、転移者が地球人に限らなかったら……その姿かたちは一様ではないはずだ。
ダンジョンであったり、あるいは『虚無の歩哨』のようなものかもしれない。
事によると異世界転移者同士のサバイバルゲームだったりして。だとすればギガースとかが異世界人を襲う説明がつく。
俺にダンジョンボスを倒され踏破されたダンジョンやヌシにとっては俺が『虚無の歩哨』のようなものかもしれない。
想像たくましいかもしれないが考察の一つとして覚えておくべきだろう。
シロミはどうしているかと見ればネコ耳少女をモフっていた。くっ、羨ましいぞ。
今度はキツネ耳娘の尻尾だ。その隣にはホルスタインお姉さんがひかえている。
代われ、金を払うから代わってくれ。
すると俺の視線に気づいたのかシロミが獣人族を伴ってやって来た。
何事かと鬼族に緊張が走る。
「今日のことを謝りに来たわ」
(マモさん立って。まず私たちがお手本を見せましょう)
シロミは俺の背中に手を当てた。
さすがだよ国会議員。立ち上がり二人で鬼族と獣人族に向かって深々と頭を下げた。
「「あらためてお詫びします。今日はいきなり魔工品を爆発させ迷惑かけてごめんなさい!」」
「お、おう……いいってことよ」
「驚いたけれど怪我もしてねえし」
「そうとも俺らはタフな冒険者ぞろいだからな」
「そうよそうよ、漏らした奴はいたかもしれないけど」
「あたいを見るな」
どっと笑いが起きる。
「元はと言えば……」
スレッジハンマーの大男が不穏な口を開きかけると鉄棒を振りかざしていた虎男が進み出た。
「ツッチーさん、いきなり鉄棒で殴りかかってすまなかった。痛かっただろ、このとおりだ勘弁してくれ」
「ちょっ、いや……あんなもん撫でられたようなもんだ。テツさんこそ骨は折れてねえか」
「折れちゃいないがビッグホーンに体当たりされたとき以来の衝撃だったよ」
「そ、そりゃすまなかった、人にハンマーを振るうなど申し訳ないことをした」
「ツッチーさんには仲間がいつも世話になっているし、いいってことよ」
「はい仲直り」
シロミがジョッキを二つ持ってきた。
ツッチーとテツはジョッキを合わせると太い腕をクロスさせて乾杯をした。
それを皮切りにあちこちで謝罪と感謝の言葉がかわされはじめた。
和解の雰囲気にのまれたのか大男のツッチーが泣き出した。泣き上戸だったのかよ。
「グスッ、おいらは可愛い辺境伯のお嬢様に怖い思いをさせた奴が許せなかっただけなんだ」
「なんだお前もララ様のファンだったのか」
「タトゥーだって彫ってあるぞ、ほれ」
胸元から笑顔がのぞいた。
「くそ、いいな。毛皮じゃなければ俺も彫りたかった。だからこれだ」
テツはブロマイド写真を取り出した。なんだこのロリコンどもと思ったら我も我もとララお嬢様のブロマイドやイラスト、グッズの自慢が始まった。
なんだこの優しい世界は。
(やるじゃないかシロミ)
(どさくさ紛れでお尻にさわるなエロ爺。それと敵意をむけられているから注意して)
どこからか和やかムードに水を差すチリチリとした感覚が伝わってきた。
それはギルドを出ると殺意に変わり宿屋に向かううちに囲まれていた。
そして水道橋の下を潜るところで道を塞がれた。
こいつらいい気分を台無しにした代償は高くつくぞ。




