天敵
冒険者登録は思っていたより簡単だった。
申告内容を通信のエクストラ能力の世界共鳴でドワーフ国『アルビス』の統括本部に送って一元管理するのだ。
あちらではどのようにデータが扱われているのか知らないがデータベースのようなエクストラがあっても不思議ではない。
異世界出身だと面倒なのでホーク君の前例に倣って別大陸『ミッドニア』の出身ということにした。ちなみにこの大陸の名は『バイポーラ』だ。
エクストラ能力についてもアポーツとシャドー・ウィスパーとそれぞれ一応正直に申告した。それ以上なんだけどね。
このアポーツだがさらに進化して使わなかった分の呼び寄せが蓄積していくようになった。つまり貯めていけばそれなりに大きな物も呼び出せる。今のところ重量換算で100kgまでいけそうだ。相変わらず乗り物はマウンテンバイクだけどね。
分割でも使用できて連続アポーツが可能になり使い勝手がかなり良くなった。
「あのホムラって奴はどんなエクストラなの?」
「ホムラさんはうちのトップで火焰師、パイロマスタリーですわ」
受付嬢は誇らしげに語った。フィンガートーチの上位能力らしく火炎放射や火の玉を射ち出せるそうだ。
いやらしいのは火炎特化のインバリアブルフォース、要は不燃の力場を展開できることだ。
これで2個目のスタングレネードを無効化したのだろう。
これを使われると俺たちの近代兵器は完全に鉄クズ化してしまう。
まさに天敵のような存在といっていい。
とっさに十八番のインバリアブルフィールドを展開したらスタングレネードが不発になった、ラッキー! というところだろう。
この世界にはまだ爆発的燃焼をする黒色火薬はない。
アズマによれば粉塵爆発やギリシャ火薬のようなのものは知られているそうだが。
ホムラはその程度の文明レベルでスタングレネードの特性を分析してみせたクレバーさもある。油断ならない相手だ。
もし敵対することがあれば銃器を知らなくとも間違いなくインバリアブルフィールドを使ってくるだろう。
できればやり合いたくない相手だった。
(大丈夫、いざとなれば猪突アーマーでぶちかますわよ)
シロミが査定室へ向かう途中に接触してきた。
「あら仲良しさんですね。もしかしてご夫婦か恋人同士?」
控えめに手を繋いだ様子を見て受付嬢が聞いてくる。
「ただの娘です」
「違います。祖父です」
「はあ? いくら若見えでもそれは無理があるだろ」
「ではビジネスパートナーということで」
「じゃ、それで」
「やっぱり息の合った仲良しですね」
たしかに不本意ながらホスト・センサーのおかげなのか戦闘中のストレスはなかった。
査定室では査定人とかいう脂ぎったおっさんが値段を付けるようだ。アニルさんの鑑定士と違いはあるのかな。
アスポートでどんどんヴェノムストーンとかレリックを出していくと驚かれた。自分がアポーツした物ならともかく異常な量だったようだ。
「ストレージとか収納のエクストラは存在しないんですか?」
「聞いたことがないのう」
「わたしもエクストラはほぼ把握しているつもりですが少なくとも冒険者ギルドの所属ではいませんね」
(このぐらいにしておこう)
「これで全部です」
シロミが肩に手を置いて制止したので打ち止めにする。
「どれどれ」
査定人がまず手にしたのはビキニアーマーだ。
「ほほう、これはエピック級ではないか」
レア、稀級の上で秘級とかいうやつだ。
「魔工品との違いはあるんですか?」
「もちろんだとも。防御力が魔工品とは比べ物にならんし壊れても勝手に直っていく優れもんだ」
「その……使用済みですが査定に響きますか」
シロミが余計なことを言いやがった。
すると査定人が鼻の下をのばした。あっ、このおっさん勘違いしたな。
「問題ない。色を付けておこう」
余計な一言ではなかったが複雑な心境だ。臭いを嗅ぐんじゃねぇぞ。
その後ダンジョンの情報提供をして終わりかと思いきやギルドマスターのガロンから呼び出された。
案内された執務室に入るとホムラとその仲間らしい冒険者たちが待っていた。
「指名依頼をしたい」
ガロンが依頼書を提示してきた。
「俺たちにそんな暇はないのだが」
「私たちは急いで国境を越える必要があるんです」
「国境は一時封鎖されているよ、例の誘拐騒ぎのせいでね」
相変わらずニヤニヤ笑いのホムラが告げる。
「だからこその依頼ともいえる。話は最後まで聞いてくれ」
「わかった。続けてくれ」
「獣人国『マンマル』からの駐在武官ネオに国外退去命令が出た。ネオはこの『オヅヌ』の領事館に滞在中だ。それを『マンマル』側の領都『トウチョウ』までホムラのパーティーと共に護衛してほしい」
「よろしく」
ホムラがまた気色悪いウインクをした。シロミは能面の無表情でスルーして問い詰める。
「どうして冒険者が護衛する必要があるのですか? 軍や騎士団もいるでしょう?」
「そうだ勇気凛々とか」
「リンリン騎士団ね」
「そうそれ」
シロミに訂正された。
「国境には緩衝地帯があって下手に辺境伯の軍を動かせば不測の事態が起きる可能性がある。だから少数精鋭の騎士団員と冒険者で護衛することになった」
「残念だけど俺たちにそれだけの実力はないよ」
「ダンジョンボスを二人で倒す力量があれば充分さ。それに物資を運ぶのにそこのアスポート持ちの爺さんがいれば移動速度も上がるってもんだ」
ホムラめ、個人情報とかザルの世界にしても耳の早いこって。こっちもホムラのパイロマスタリーの事を知っているからお互いさまか。
あとはパーティーを組んでいる仲間も相当な強さとエクストラ持ちのはずだ。
できれば危ない橋は渡りたくないが虜囚となっている転移者の身が心配だ。
元世界からの最新情報では生きては帰れないという苦役につかされることになったようだ。
(どうする?)
(やりましょう。国境を越えるにはこれが一番早そうです)
「わかった、護衛依頼をこなしたらあとは自由にしていいんだな」
「もちろんだとも」
ガロンは請け合ったがなんだか、そう、きな臭いというか、俺たちのようなギルドでの信用も実績もない新参者に依頼する仕事じゃないのは明らかだった。
これは死んだって誰も困らない人選だ。
贖罪の山羊にでもするつもりか。




