持つべきもの
俺たちは検問所で足止めを食らっていた。
領都『オヅヌ』を目前に身元の怪しい者は追い返されていた。
国境を越えるにはここで通行証を発行してもらう必要があるので困ったことになった。
「だからニューオオガ村など聞いたこともないと言っておるだろ」
「わからん人だな新しくできた開拓村だと説明しているだろ」
延々とこのやり取りが続いている。
ハミコ様が書いてくれた身元保証書が通用しなかったのだ。
これだから頭の固いお役人は厄介だ。
「そもそもお前たちには角がないではないか」
「異世界からの転移者だからな」
「胡散臭いにもほどがある」
「事実だから仕方ないだろ」
「これ以上しつこくすると牢にぶち込むぞ」
そんなやりとりを見かねたのかぞろぞろと屈強な警備係が集まってきた。これは力ずくで追い返されるかも。
「何か他に身元を明らかにする物はないのか。なければあきらめて出直すことだ。来たタイミングが悪すぎたな」
年かさのチョビ髭を生やしたおっさんが最後通牒を突きつけてきた。
辺境伯の跡取りが誘拐されたばかりでピリピリしているのはわかる。
実行犯の野盗が身代金目当てではなく、何者かの依頼と手引きがあったと自白したそうだ。
他にと言われても公的な文書はハミコ様の物以外になかった。
私的なものなら……。
「あとはこんな物ぐらいしかありませんが」
俺はニューオオガ村で撮りまくった思い出の写真を貼りつけたアルバムを出した。
集合写真などダイさん達にもプリントして渡したが自分用に作ったのだ。
シロミとか今どきの人はデータのままで特別な1枚以外は印刷しないようだが、俺の年代だとアルバムに収めないと落ち着かないのだ。
「なんだこれは? 写真か?」
「写真ですよ」
言ってからこの世界には白黒写真しかないことを思い出した。やっちまったかな。
鮮やかなカラー写真を警備係たちが代るがわるのぞき込む。
「ほー色付き写真とは凝っているな。む、これはケンドー隊長か」
一人がスカーフェイスのケンドー隊長に反応した。他所でも隊長呼びなのか。
どうやら白黒写真に彩色することはあるようでホッとする。
「ああそうですね、開拓村の先遣隊長をつとめていました」
「以前『マンマル』が攻めてきたとき我々の部隊で民兵の隊長だったな」
「おい、こっちはダイとジグロじゃないのか!」
「そうです。二人とも強いですよねー」
「ダイのオーバーエッジやジグロの視線感知にはどれだけ助けられたことかわからん」
どうやら風向きが変わったようだ。
獣人族との戦役の際、徴兵されてきた鬼族の中でもこの三人は群を抜いて強かったようだ。
正規軍さえ一目置く存在だったという。
「通行を許可する」
三人と酒を酌み交わす写真を見てチョビ髭はそう言った。やっぱり持つべきものは友だな。
これで国境を越えることができる。
領都『オヅヌ』は文物に溢れ活気に満ちた交易都市だった。
初めて見る獣人族やドワーフ、エルフに目を奪われてしまう。
そんなお上りさん状態の俺をシロミががっちりガードする。彼女のシャドー・ウィスパー改めホスト・センサーが掏摸や物盗りの気配をひしひし感じ取って俺に共有してくる。
俺の気配察知は人の多いこんな場所では役に立たない。
アスポートで荷物の大半を預けてあるので俺たちは旅人に見えない軽装だ。興味をなくせばそれでよし。膨らんだポケットやポーチに興味を示す輩にはシロミがガンを飛ばした。
俺たちが向かうのは冒険者ギルドだ。
ワクワクが止まらんぜ。
冒険者ギルドは3階建ての立派な建物だった。
冒険者ギルドの組織については総元締めはドワーフの国『アルビス』にあり全てを統括しているという。それを可能にしているのは通信のエクストラだ。各支部に配属されていて情報の交換をしているそうだ。
冒険者ギルドの中には強者の気配がゴロゴロしている。
大剣を背負っているシロミさんだけが頼りだ。そのきつい眼で睨みをきかしてくれよ。
意を決して頑丈そうな分厚いドアを開ける。
閉めた。
大乱闘の真っ最中だった。
ドアが破壊され俺は吹っ飛ばされた。




