ドン吉ひとり旅
※ 第三者視点
ボス部屋に出現したクモキリの群れに飼い主の物部守と小田野銀鏡は銃を乱射する。
銃火と硝煙にドン吉は後ろずさる。リードの先はM2重機関銃の三脚架に結ばれていてそれ以上後退できない。
いやいやをするように首を振るがそんなことで頭部のホルターが外れるわけもない。
大型のクモキリが動き出しドン吉に積まれていたパンツァーファウスト3とカールグスタフが物部守によって取り外された。
ド素人の物部守は背後のドン吉にに気を配る余裕もなく次々と発射して燃焼ガスの爆風をドン吉に浴びせた。
(このジジイ熱いだろ!)
ドン吉はリードの範囲で逃げ惑う。
そこへ襲いかかってくる小型のクモキリ。
その鎌は物部守や小田野銀鏡のみならずドン吉にも向けられた。
だがその凶刃は防弾、防刃のタクティカルベストやブリーチングツールに阻まれてドン吉を傷つけることはできなかった。
ブリーチングツールとは建物に突入するためのバールや斧など様々な道具類のことだ。
(あっぶねーなこの野郎!)
逆にドン吉の怒りの後ろ蹴りをまともに食らい蹄鉄に頭を砕かれて消滅してしまう。
そして大型クモキリが天井から落ちてきてめちゃくちゃ暴れまわる。物部守が三脚架に蹴つまずきながらもM2を連射しようやくボスが倒された。
出口が開いた。
ドン吉は誘われるように踏み出した。
(あれ?)
リードはいつの間にか切断されていた。
(キャッホー!)
走る、走る。
自由への出口へとひた走る。
ダンジョンから脱出し、ただただ本能のおもむくままに駆け抜ける。
あの忌まわしいダンジョンから少しでも遠ざかりたかった。
腹が減り久々に草を喰む。ニンジンや果物もいいがオヤツばかりでは物足りなかったのだ。
食欲が満たされ元気一杯になったら次は性欲だ。盛りがついたからには一発やらねば収まらなかった。
メスを探して駆け巡る。
日暮れ時、ドン吉は漂ってきたメスの匂いを嗅ぎつけた。
誘われるように辿り着いた先には焚き火を中心に立派な騎馬の一団がいた。中でも白く輝く美しい騎馬に目を奪われる。
彼らはスウォーマに襲われていた。
騎士が剣と松明で追い払っているがすでに合体して巨大化したスウォーマが白い騎馬に迫っていた。騎士が槍で突いてももはやダメージは与えられない。
「隊長だけでも逃げてください!」
「バカを言え。若様の救出もできず私一人お前たちを置いて帰れるものか」
だがドン吉にはスウォーマなど目に入らない。
(お姉ちゃんやらせてくれー!)
白馬のお尻目がけて焚き火を飛び越える。
その拍子に破れた荷物袋からカールグスタフの弾頭がこぼれ落ちた。
弾頭は焚き火の中に転がった。
「なんだこいつは」
騎士たちは突然現れたドン吉に戸惑う。
ドン吉は白馬に盛ろうとするが脚の長さが決定的に足りなかった。
「ええい何をするか」
馬上の女騎士が鞭で追い払うがドン吉はひるまない。
だが業を煮やした白馬がついにドン吉を蹴り飛ばしてしまう。
目から火が出る衝撃にドン吉は転がりそのまま逃走した。
その後ろでカールグスタフの弾が破裂して巨大スウォーマを吹き飛ばしていた。
(痛たたたーっ!)
いつまでも目のチカチカが止まなかった。
それもそのはず、転んだはずみでスイッチの入ったフラッシュライトが点滅モードになっていたのだ。
しばらく走ると別の黒ずくめの一団が見えてきた。
(お尻ー!)
ドン吉の脚の回転数が上る
「兄貴なんか後ろから来る!」
「あんたありゃ化け物だよ!」
見たこともない目を刺すLEDの眩しすぎる光と浮かび上がる傷だらけ血まみれの赤い顔面に血走った双眸、泡立った涎を撒き散らす口。
「ビビってんじゃねぇ!」
リーダー格の男が剣を抜いて迎えうつ。すれ違いざまに斬りつけるが妙な手応えがして弾かれてしまう。
「なんだと!」
ドン吉はリーダー格の馬の周りをお尻を狙ってぐるぐると回る。
「こいつめ!」
何度も斬りつけるうちいつの間にかほどけたフック付きのロープが脚に絡まり横倒しに落馬してしまう。打ちどころが悪く失神してそのまま馬ごとぐるぐる巻きにされた。
「お頭!」
「兄貴!」
「あんた!」
仲間が助けようと駆け寄りドン吉に剣を叩きつけた。ブリーチングツールのバールに当たり火花が散る。それが医療キットから漏れたアルコールに引火した。
たちまち炎に包まれパニックになるドン吉。
炎の化身となったドン吉に蹴りまくられ黒ずくめの一団は右往左往した。そして縛られた子供を落としてしまう。
「あーん、痛いよー!」
子供がギャン泣きした。
「若様ー!」
泣き声に応じるかのように女騎士とその仲間が迫ってくる。
「お前たち逃げるよ!」
「へい!」
女が先頭を切って逃げ出した。そこにドン吉が体当たりして後続を巻き込み転倒、転倒、落馬、落馬。
「こいつ!」
女が絡みついてくるロープを引っ張った。その弾みでブリーチングツールのハンマーが頭を直撃して昏倒してしまう。
ロープを出し切りドン吉は炎の尾を引いて駆け去っていった。
ドン吉は見つけた川に飛び込んで火を消した。
火傷はたいしてしていない。たてがみと尻尾が燃えただけだ。そのままトボトボと川辺りを下る。
(うー、ひどい目にあった)
フラッシュライトは壊されてもう消えてしまっていた。
その代わりにケミカルライトがまとめてへし折れ、容器が破れているのか液体が漏れて身体やサイドバッグに染みて全身が光り輝きはじめる。
血はすでに洗い流されドン吉は今や神々しくさえあった。
「誰か助けて!」
女たちの救いを求める悲鳴がした。触手が川の中から伸びて女の子を水中に引きずり込もうとしていた。
洗濯しに来ていたのか衣類が散らばっている。
そこを通りがかる光のドン吉。
ぼとりぼとりとと斧とボルトカッターを落としていく。
まさに天佑、女たちは慌ててそれらを拾い触手を断ち切っていく。
ようやく女の子を水中から救い出したとき光り輝く神馬はどこにもいなかった。
そしてドン吉が去っていった方角を拝むのだった。
彷徨するドン吉は今度こそ同族のロマーの匂いを嗅ぎとった。
やがて野生ロマーの群れに遭遇した。
ハーレムだ。
メスに囲まれたイケ馬が睨みつけてくる。
ガンを飛ばし合う。
鼻を突きつけ合った。
首をぶつけ合い、噛みつき合い、前足で蹴り合った。
メスたちは遠巻きにその様子を見守っている。
お互い一歩も引かない男の勝負だ。
体格はイケ馬の方がはるかにいいがドン吉には鋼鉄の蹄があった。
メリケンサックで殴られているようなものでたちまちイケ馬はグロッキーとなってしまう。
イケ馬はふらふらとドン吉の前から去っていった。
正々堂々とは程遠いがドン吉は勝利した。
(よっしゃー、やりまくるぞ!)
棹立ちになったドン吉は何か固い物を踏んだ気がした。
また荷物からガラクタが落ちたのだろう。
ドン吉は気にも止めなかった。それが何か知らなかったからだ。
爆発、閃光、爆音、衝撃。すべてがドン吉に襲いかかってきた。
スタングレネードであった。
目を回したドン吉が我に返ったときハーレム喜び組はどこにもいなかった。
寂寞たる荒野にただ一頭佇立するドン吉からは憑き物が落ちたように狂騒の時は去っていた。
盛りが過ぎたのだ。
(あーニンジン食いたい)
ふと懐かしく思った。




