ダンジョンボス
「シロミ、ちょっとテストさせて」
俺は二の腕に触れ89式のマガジンを交換してみた。
だめだ、失敗した。
「何?」
「シロミのマガジンもアスポートで交換できないか試してみたが無理だった」
「じゃあこれなら?」
「おっ」
マガジンを入れ替えることができた。
「どうやったの?」
「アスポートに同調した感じかな」
検証してみると接触していなくとも近距離ならシャドー・ウィスパーが感知してシンクロすればアスポート可能と判明した。
「つまりいやらしい目的には使えないってことね」
「何ノコトデショウカ?」
「とぼけても駄目よ。すべてまるっとお見通しなんだから」
「お、恐れ入りましたぁ!」
シャドー・ウィスパー舐めてたわ。まさかこれほど感度がいいとは思わなかった。完全にホスト・センサーにランクアップしている。進化しているのは俺だけじゃないってことだ。これは降参するしかなかった。
そして出発直前に事件は起きた。
ブービートラップを解除しようとしたらドン吉が思い切りラインに引っ掛かったのだ。
キーンと軽い金属音がして安全ピンが抜けた。
また世界がスローモーションになって走馬灯が回りそうになる。初恋のミヨちゃんのスカートまくりを毎日のようにしたっけ。
「Ohー、モーレツ!」
対抗策で毛糸のブルマを履かれるようになって悲しかった。
おっと思い出に浸っている場合じゃない。フリーズ状態を強制解除して手榴弾をアスポートで消した。
どっと冷や汗が流れる。
たしか5秒で爆発するんだよな。何秒ぐらい固まっていたかよくわからない。これはうかつに取り出せないぞ。
「どうしたの、顔色が悪いわよ」
シロミが反対側のトラップを解除して戻ってきた。
「心臓が止まりそうになった」
「やめてよ、心臓マッサージや人工呼吸するの私なんだから」
しまった心臓よなぜ止まらなかった。
心臓麻痺で死ぬのが楽しみになってきたぞ。
などとバカなことを考えながらダンジョンを奥へ奥へと進んでいく。
相変わらず一本道だ。
「ダンジョンは成長するとかいう話だよな」
「資料ではそうなっていたわね」
「とすると生まれたてのダンジョンなのか」
「あるいはひたすら伸びるだけの成長とか」
「それは勘弁してほしい」
昆虫型モンスターを倒しながら進み、そろそろ俺が歩き疲れたころようやくダンジョンの終わりが見えた。
大きな扉が行く手を遮っていた。
ゲームならボス部屋だろう。
俺もシロミも中には何の気配も察知できない。入室してから湧くのかもしれなかった。
小休止して装備品を整える。銃の手入れも欠かせない。
考えたくはないが重機関銃が通用しなかった場合に備えて擲弾やパンツァーファウストとカールグスタフも出してドン吉に載せる。
なんだかかっこいいぞドン吉。
「行くわよ」
「おう」
シロミが扉を蹴破って突入する。
ええーっ! 普通に開けるものと思っていたのにびっくりだ!
扉の内部は学校の体育館ほどの広さと高さだった。
床が光ってからせり上がるようにポップされたのはアシダカ軍曹にカマキリの腕をつけたようなモンスターだった。クモキリとでも呼ぼうか。
巨大なのが一体と小型サイズが十から二十ほどだ。脚や腕の鎌が長いので大きく見えるが胴体はそれぞれ大型犬と小型犬くらいか。
「俺はでかいのを狙う」
「あいよ」
ポップしきる前に掃討してやる。
囲まれたら勝ち目はなさそうだ。
俺の重機関銃とシロミの89式が火を吹く。
本体は鎌で弾かれたが脚を二本破壊できた。
というか鎌の強度が異常すぎるだろ。
小型クモキリは89式小銃で通用するようだ。
動き出した。
速い!
しかも跳ねながら四方八方に散らばりやがった。大型クモキリは壁に取りつき駆け上がって天井から俺たちを見下おろす。
あの位置では仰角がとれない。
シロミは3点バーストで着実に仕留めているようだ。
(尽きた)
言語ではなく感覚として伝わってくる。アスポートで瞬時に弾倉交換をする。目視の必要もないくらいピンポイントで把握できてしまう。
こちらはパンツァーファウストをぶっ放す。なんと小型クモキリを盾にしやがった。
次はカールグスタフだ。構えると同時に衝撃が走った。
この感じはカットベアやジグロさんにヘルメットを割られた時と同じだ。
「このっ!」
まずは無反動砲を撃つ。
今度は背嚢を切りつけられた。大型への命中を確認もせず肉弾戦に突入だ。
シロミも大剣を振り回している。
あの半径には近寄れん。
こっちは拳銃とサバイバルナイフだ。仕事柄ナイフの方が扱いやすい。
刺す、撃つ、切られる。刺す、撃つ、切られる。刺す、撃つ、切られる。
もう俺はズタボロだ。
数回繰り返したところで眼前にボスキャラのクモキリが降ってきた。当たったていたようで鎌を一本失って本体もかなりのダメージを受けている。
俺のアーマーが防弾プレートごとバッサリいかれて落ちる。
落ちてきたときに切られたのか? 気づかなかった。とんでもない切れ味だ。
「おりゃーっ!」
シロミが腹部に激突した。ギガースの大剣が深々と根元まで突き刺さっている。そのまま切り上げるが大型クモキリは止まらない。
体液をぶちまけながら暴れまわる。
俺は再び重機関銃M2をぶちかまそうと駆け寄り、そして転倒した。
三脚架に足を引っ掛け転がっていたパンツァーファウストとカールグスタフに突っ込んで強打した。すげえ痛い。
「危ない!」
シロミが叫んだ。
凶悪な鎌が振り下ろされてくる。とっさにカールグスタフで受け止めると先端がすっぽりと穴にはまった。
閃いた俺は破裂寸前の手榴弾をその中にアスポートしてやった。
爆発。
爆圧は筒の前後から吹き出し鎌を砕いた。
クモキリが軋むような悲鳴を上げる。
俺も床に跳ねた破片を受けたが寝転がっている暇はない。
手を伸ばしてM2のトリガーを押す。至近から頭部に12.7mm弾の集中砲火をくらってついに怪物は崩れ落ちた。
子分の小型も殲滅ずみのようで静かだ。
もう動きたくない。
「マモさん」
シロミの心配そうな声がした。
よし、ここは死んだふりだ。
人工呼吸カモン!カモーン!
あれ? まだ?
待っていてもシロミは近づいてすら来なかった。
「最低……」
軽蔑の声音だった。なんだよもう。
あきらめて俺は起き上がる。
あ……俺のボロ布になった戦闘服からブラジャーが丸見えになっていた。
「この変態」
「いや違うんだ」
「こっち来るな」
「これは正当防衛というか緊急避難というか……」
俺はアスポートでビキニアーマーをとっさに装着していたのだ。おかげで大怪我をせずにすんだ。ナイス判断だろ。
だからそんな虫ケラを見るような目で俺を見るのはよせ!




