初ダンジョン
「くそっ」
俺は手の平に拳を打ちつけた。
「まだ引きずっているの?」
「ああ、失態、醜態だ」
幻覚とはいえあんな安っぽい後付け設定の過去回想に嵌められて泣かされたのが悔しくてならなかった。
誰かに同情するならともかく、あれは自己憐憫だ。
自分を憐れむなどみっともないにもほどがある。
「テレビの視聴率もラーメンと動物と子供には勝てないというから気に病むことないよ」
「はははテレビね、確かに今この瞬間も放送中なわけだが」
俺はかたわらのドン吉をアピールした。
今はドン吉から降り金属棒を取り外したフレイルを杖にして歩いているところだ。
「みなさーんエアプのドン吉くんですよー! サカリのついた可愛い動物さんですよー!」
「マモさん、ふざけない」
「緊張をほぐしただけだよ」
街道の先は隧道の暗闇へと消えていた。
どうやって掘ったものか2トン車が通れるほどの広さだ。
「穴を掘るエクストラでもあるのかしらね」
「シャドー・ウィスパーに反応は?」
「ないみたい。ヌシの権能には?」
「特にない。ただテリトリー外に出たらしく探知範囲がかなり狭くなった。せいぜい柔道場ぐらいの広さか」
もう何十kmも先の反応を拾うような事はできなくなっていた。同じく10m四方ほどの小さな結界も張れるが移動中は無理だ。
「不意打ちさえ防げれば充分よ」
シロミは猪突アーマーを展開した。そこへ大剣を背負いチェストリグに無線機器、水筒やナイフなどを装備していく。
俺もボディアーマーに防弾プレートを挿入して鉄帽にヘッドライトを装着、グローブやブーツに履きなおす。
ドン吉にもアスポートしたタクティカルベストやブリーチングツール、ロープにフック、医薬品、携帯食、ライトなどを取り付けて準備万端だ。
「いざ」
「お、おう」
シロミが先頭に立ってその後に続く。
しばらく歩いて違和感に気づいた。
「おい、明るくなってないか?」
「ライトを消してみましょう」
闇に沈むはずの隧道内がぼんやりとした薄明かりに包まれていた。
「どういうことだ」
「壁が発光してるのかな」
「来た!」
「前方から3体! 殺気マシマシよ」
やって来たのは巨大なゲジゲジというかカマドウマのような怪物だった。
「ウォーッ!」
「ギャーッ!」
悲鳴を上げて89式をフルオートで撃ちまくる。とっととくたばれや。
生理的に厳しい外見だ。
弾痕から体液をまき散らして迫ってくる様子は悪夢のようだった。
マガジンが空になったところですべてのゲジカマは倒れた。
すると蒸発するように消え去りレリックが残った。
「禍獣じゃなかったのか」
「ダンジョンモンスターということ?」
俺はレリックを回収した。ヴェノムストーンのようだった。
「ダンジョン化してるようだ。引き返すか?」
「そうね他の道を探しましょう」
だが帰り道をどこまで進んでも出口にはたどり着けなかった。
「これは奥に進めということか」
「またあれと戦うの?」
「猪突アーマーとギガースの大剣なら瞬殺だろ」
「いやだー。ミサイルで吹っ飛ばして」
「こんな狭い所で使ったらヤバいだろ」
あきらめてへっぴり腰で奥を目指すことにした。
幸いなことに道のりに分岐はなく無駄に折れ曲がったり狭くなったりするだけだった。
序盤の初心者向けかな。
「待て」
俺は権能に反応した地面をフレイルで叩いた。
ごそっと土がなくなり大穴が開いた。落とし穴かよー。底には剣山があった。
ゲームと違って現物を見ると血の気が引いてしまう。油断大敵だ。
ドン吉を曳いてゆっくり進む。頼むから暴れないでくれ。
俺たちを待ち構えていたのはゴキブリが幼稚に見えるクリーチャーだった。
たとえるならウデムシに劇団何とかみたいな名前の虫の触手を足したような怖気を震うモンスターだった。
何とかかんとかみたいなびっしりと毛の生えた触手を振り回して迫ってくる。
もうね、知ってるのに名前がすぐに出て来んのだ。
太くておぞましい4本の触手に阻まれて89式の弾が通らない。
ヤバい。押し込まれる。
俺は落とし穴に落とされた。
思い出した。クロスジヒトリだ。




