パンツァーファウスト
「使い方わかる?」
「全然」
「だよな」
パンツァーファウストを前に譲り合う形になったがここは男を見せる場面だ。
俺はグイッと肩に担ごうとして固まった。
腰がビキッといってしまったのだ。絶対にお掘りでシロミさんを引っ張り上げたのが原因だ。
「すまん、ぎっくり腰になった。代わってくれ」
時間停止物のAVのように俺は持ち上げようとした姿勢のままそう言った。
シロミさんはため息をついてパンツァーファウストを構え、狙いを定めると即座にトリガーを引いた。もう少し躊躇とかありそうなもんだがシロミさんに迷いはなかった。
そしてパンツァーファウストはド素人でも簡単に撃てて当たり前のように命中する性能を有していた。
見事に左足首を破壊しギガースは横倒しとなった。
そこへ待ってましたとばかりに鬼族が殺到する。狙うはギガースの首だ。
ギガースが腕を振るうと何人かがまとめて吹き飛ばされる。
このままだと被害が大きくなってしまう。
「シロミさん、これを」
俺はC4爆薬と起爆装置をアスポートした。
武器としては使えないがこういった破壊目的ならいけるはずだ。
「アズマ、シロミさんに協力してやってくれ」
なぜか俺の陰に隠れているアズマに頼んだ。
シロミさんは嬉々として二人一緒にギガースの首に取りつきセット、脱出、爆破といった手順を組み立てた。
「行ってきまーす!」
シロミさんはアズマに後ろから抱きかかえられ喜色満面、夢見心地のようだ。
旋風のエクストラでひとっ飛びにギガースへとたどり着く。
ボーッとしてしくじるなよ。
一人彫像のように取り残され俺にできることはない。ただ顔を捻って成り行きを眺めるだけだ。
あーあー嬉しそうにしなを作っちゃってまあ。初めての共同作業ですってか。
くねくねするな恥ずかしくなるわ。
あっ、わざと怖がってるふりして抱きついたな。見てて痛いからもうやめてくれ。
ケンドー隊長やアグネスが顔に牽制攻撃をかけてくれている。
ギガースは貼りつけられたあの粘土みたいな物に脅威を感じていないのだろう。
そして攻撃陣の撤退に合わせて起爆させた。
凄まじい爆発の炎と衝撃波、黒煙が立ちのぼりギガースの頸部が半分以上切断されていた。
その腕が力なく地に落ちる。
なんとか村を守ることができたようだ。
勝ち鬨が上がる。
ギガースは消滅し頭があった場所に大剣が一振り残された。また腰にきそうなレリックを残してくれたな。勘弁してくれ。
「アズマー!」
イモールさんだ。
回復して文字通りアズマのところへ飛んできたようだ。
アズマと手を取り合って喜んでいるシロミさんには気の毒だがボーナスタイムは終了だ。残酷な現実と向き合ってくれ。
アズマとイモールは人目も憚らず抱きあい勝利を称えあった。
シロミさんは茫然自失の虚脱状態だ。
何が起きているのか目には見えているが頭の中には届いていない、いや精神が自我を守るため理解を拒否しているのだろう。
シロミさんはその夜から自室に閉じこもり三日三晩泣き明かしたようだ。
先達として言わせてもらうがこれは必要なことだ。
気持ちにケリをつけず中途半端な折り合いをつけてしまうと後々尾を引いてしまうだけだ。
少年時代の苦いあれこれにけじめをつけず、逃避したり誤魔化した事ども。
それらは整理されないままこの歳になってもドブのメタンガスのようにゴボッと脈絡もなく湧いてくる。
そのたびにヒキーとかウキャーとか奇声を上げて頭を叩く羽目になるのだ。
三日後、泣き腫らした目で自室から出てきたシロミに俺は告げた。
「楽しい失恋旅行に出かけるぞ」
殴られた。
傷心旅行のほうがよかったか。
俺は日本政府からの要請が書かれたハンバーガーの汚れた包装紙を恐る恐る差し出した。




