接触篇
俺はカナヅチだった。
なぜか浮かないのだ。力の入れすぎとか息継ぎができないせいとか原因はあるだろうが、そもそも水が嫌いだ。シャワーを顔に浴びるだけで窒息感に襲われてしまうのだ。
だからあっぷあっぷしながら溺れて沈んでいくしかなかった。
おや、足が水底に着いたぞ。
蹴って浮き上がる。
そしてまたあっぷあっぷしながら沈降していく。沈みきる、また浮かんでは沈む。
「マモルちゃん遊んでる場合じゃないよ」
死にかけてんだよ!
ハミコ様が浮橋を寄せて助けてくれた。
「イモールさんは?」
命の恩人であり俺を泉にぶち込んだ張本人の姿をさがした。
「あそこだよ」
ハミコ様が空を指した。
イモールさんは剣を手に飛んでいた。
エクストラはスカイロード系だったのか。
その先には超大型の巨人か巨神の兵みたいなのがそそり立っている。
ハミコ様が地方史の授業で教えてくれたギガースとかいう歩く災害だろう。
「結界は大丈夫かな?」
「長くは保たないそうだよ」
「早く逃げないと」
「一人で逃げな。私らは戦うよ」
こんな時にミズク様が居てくれたら狐火か妖力的な何かで撃退してくれただろうに。
『それでいいのか、人間』
ミズク様の言葉がふいに蘇った。
もしかするといき過ぎた神頼みを戒めていたのか。
だからコヨリ様もただの稲荷神として分をわきまえた応対をするようになったのかもしれない。
「俺も逃げませんよ」
これでもニューオオガ村のヌシなんだから守ってみせるさ。
俺はほたほたと駆けだした。その横をハミコ様がとてとてと追い抜いていった。
「お先に失礼」
ボリューミーなハミコ様にまさか抜かれるとは想定外もいいとこだ。さすがにへこむわ。
見張り台に着いたころには上に登る余力も残っていなかった。
「肩を貸しましょうか」
へばっていたところに声をかけてきたのはアズマだった。
首がヒヤリとした。
防弾チョッキの首周りアーマーはどの程度機能してくれるだろうか。鉄帽は泉に落としてきてしまったか、無い。
「何もしませんよ」
爽やかな好青年を演じているが俺は騙されないぞ。ちゃんと風呼びの上位エクストラがあるのを知っているんだからな。
ホルスターから9mm拳銃SFP9を素早く引き抜く。もうニューナンブじゃないんだぞ。なんと15発も撃てるのだ。
だが銃口のフロントサイトが引っ掛かって取り落としてしまった。
銃はアズマの足元にすっ飛んで転がった。
「どうぞ」
「あ、こりゃども……」
親切にも銃を拾って渡してくれた。
だがそれとこれとは別だ。あらためて拳銃をつきつける。
「これは異世界の武器だ。変なまねをしたら撃つ」
「待ってください! もう降参です。さっきも護衛の女の人にあやうく殺されるところでした。どうか許してください」
アズマは膝をついて懇願しはじめた。
あれ? シロミさん、ちゃんと護衛の仕事してたんだ。アズマが転移者狩りだとよく気づけたな。
さてどうしたもんか。ギガースを何とかするのが先決だが首チョンパはごめんだ。
鈍く低い衝撃音があたりを響もした。
「シロミさん凄え!」
上から歓声が降ってきた。
もうギガースと戦ってるようだ。こうしてはいられなかった。
「俺を背負って上まで連れて行け」
「はい」
アズマは素直に背中を向けた。
「行きます」
「あーっ!」
俺を乗せると一気に見張り台までジャンプしやがった。ちびったじゃねぇか。でも濡れてるからわからんか。
「飛ぶ前にことわりいれろや」
「すいません」
見張り台の人口密度は高かった。
ハミコ様やアニルさんはじめ隊商の人たちに混じってケンちゃんやクロト君もいた。
「ハミコ様どんな状況ですか?」
「シロミちゃんとイモールちゃんでなんとか足止めしているところだね」
イモールさんが顔の周りを飛び回って注意をそらし、その隙にシロミさんが左足にショルダーアタックをぶちかましていた。
大気が大きく波打つような重低音が轟く。
ギガースが揺らいだ。シロミさん半端ない。どこでそんな高速タックルを覚えたの。
ギガースの左足首が大きくへこんでいた。
ケンドーはじめ村の男どもは遠巻きにしている。倒れたらいつでも駆け寄って袋だたきにするつもりだろう。
「俺たちも行くぞ」
「わかりました」
アズマの両肩に掴まった。
「アズマ、妹を頼むぞ」
アニルさんが声をかけた。
「愛するイモールは僕の命にかえても守ります」
あらら、これはもしかしてそういうこと?
シロミさんご愁傷さま。
俺たちはエアクッションの上を跳ねるように急行した。
その時ついにギガースの振り払った手がイモールさんをかすめた。錐揉み状態で墜落していく。
「死なせるもんか!」
アズマが両手を突きだした。
陽炎のように景色を揺らす輪っかが連続で発射された。うぉーデンジロ◯先生みたいだ。
ぎりぎり間に合ってイモールさんは空気のリングに包まれふわりと着地した。
だが援護を失ったシロミさんが蹴飛ばされてしまう。派手に水しぶきを上げてお掘りに転げ落ちた。
「シロミさん!」
「イモール!」
それぞれの元へ慌てて駆けつける。
ミズク様は力を与えるとか、すべては女を呼んでからの事だと言ってたけどギガースに対抗するにはシロミさんのシャドー・ウィスパーは受動的なエクストラだし、猪突アーマーも俺の持ち物だからそれほどありがたみがない。
正直なとこ期待はずれだった。
装備は解除されアミュレットに戻っていた。威武岐さんどんどん便利になっていくね。
シロミさんは俺と違い泳げるようで、お堀端まで自力でたどり着いていたので手を差し伸べ引き上げた。
(くっそ重いぞ大女。ぎっくり腰になっちまうだろ)
(どうしてアスラー様じゃなくてエロ爺なのよ。てか重いだの大女だの禁句連発するな)
「え?」
「え?」
「「え゙ぇ゙~っ!!」」
俺たち二人の心は愛と信頼でつながった。
誤解を招く言い方をしないで! 接触テレパスだからね。




