虚無の歩哨
※第三者視点
於 御菓子司『四方来堂』
新たに買った大画面テレビで小田野銀鏡の恋模様を鑑賞していた段名くんは妻の夜目子に話しかけた。
「夜目子ちゃん、このアズマって野郎どう思う」
政府から配布された新たなプリントはアズマという人物が怪しいような内容だった。
「ものすごくイケメンよね」
「いやそういうんじゃなくて」
「美男子に悪い人はいないでしょ」
なんという暴論。
「段名くん、物部さんがまたうちの商品をアポーツしたよ」
「まさかまた草餅じゃないだろうな」
「ううん大福餅」
段名くんは嫌な予感がした。
そしてテレビではなぜか戦闘が始まっていた。さっきまでのラブコメ展開はどこへいった。
爆発がシロミを襲い段名くんが手に汗握ったところで夜目子さんの悲鳴にも似た叫び声が耳をつんざく。
「いやー、段名くん段名くん!」
「どうした夜目子!」
「物部さんがまた喉を詰まらせた!」
「あんのジジイ、うちの店を潰す気か!」
目を白黒させる物部守の背中を鬼娘が叩くが効果がない。
高身長の鬼娘は物部守を逆さ吊りにして揺する。
「よし、そうだ、娘さん頑張れ!」
「そうよ、あと少しよ!」
それでも詰まった餅は出てこない。
ついに両足を抱えて振り回しはじめた。
ハンマー投げのように加速していく。
「そこだ、行け! ジャイアントスイング!」
「神様お願い、お願いーっ!」
二人の祈りは天に通じ、大福餅は吐き出された。そして勢い余って物部守も飛んでいき泉に水柱が上がった。
「良かったよぉ夜目子」
「段名くん今度こそだめかと……」
抱き合い崩れ落ちる。
何か対策をしないと店の存続に関わると二人は強く思った。
✳ ✳ ✳ ✳
シロミはとっさにバックステップし辛うじて爆発の衝撃を半減させた。
(やっぱりアスラー様はこうでなきゃ)
炎獄の貴公子は炎と爆発の芸術家だった。アズマが風呼びと知った時のショックは大きかったのだ。
それがここへきて突然の爆破攻撃。
「ふひひひ」
嬉しくて変な笑いが漏れてしまった。
(こいつ笑ってやがる。まさか戦闘狂か)
アズマは恐怖した。
砂のつむじ風で目を潰す。視界を奪ったところでナイフを投げる。
風の道に乗ったナイフの切っ先はシロミの喉笛に一直線だ。それを籠手で弾かれた。
(獲った!)
そうアズマは確信した。
ナイフを追っていた真空刃が喉を裂くはずだ。
だがあっさりと躱された。
まるであらかじめ来ることがわかっていたかのようだ。
(この女に小手先の技は通用しない。ならば最大火力で攻めるのみ)
再び黒い玉を作り出しシロミの頭上に飛ばす。
着火!
爆発!
シロミは跳ね飛んで逃げた。
しかし爆風が来ない。
アズマはありったけの力で爆縮させていた。そして一穴をあける。
360度に広がるはずのエネルギーが一方向に噴出した。その破壊力は数十倍となる。
シロミは木偶人形のように吹き飛ばされた。
「ヒャハハハーッ!」
シロミは額から血を流しながら立ち上がり哄笑する。
これほど楽しいことはないとでもいう様子だ。
(さすがはアスラー様、お見事です)
生で炎獄の貴公子の攻めを受けることができたのだ。ファンとしてこれ以上のご褒美はなかった。
それを見たアズマは震え上がってしまう。
土下座して命乞いをしようと膝を折りかける。
ふいにシロミの笑い声が途絶えた。
アズマの背後の空を見上げている。
そこには天を衝くような巨人がそびえ立っていた。
「虚無の歩哨……」
もっともポピュラーといえる巨神型だった。
遊びを中断された子供のようにシロミは不機嫌に地面を蹴った。
石畳がまとめて砕け散る。
「すぐ終わらせるから続きは後でね」
アズマに微笑み巨神に向かって駆け出す。それを見てアズマは安堵のあまり腰が抜けてしまう。
そのころ物部守は溺れ死にそうになっていた。




