ディスクロージャー
アスラーはシロミさんが一番好きなゲームの登場人物だ。ゲームでの設定は炎獄の貴公子という役割でヒロイン(プレイヤー)の攻略対象の一人らしい。
以前、スマホの待ち受けになっているので尋ねたら怒涛の推し自慢が始まったことがある。
ほとんど何を言っているのかわからなかった。
そして異世界のアスラーはアスラーではなくアズマという鬼族の学者だった。
ニューオオガ村に向かう隊商に便乗してここまで来たという。目的は遺跡の調査だ。
エクストラは生憎と炎ではなくありふれた風呼び、つまりブリーズバンドだ。
すでに遺跡には人が住み始めているので調査に協力するかわりに揺籃塾での講師をお願いしたら快く引き受けてくれた。
臨時とはいえこれで課題だった国語などの教科をまともに教えることができる。
何しろ識字率のアップは当面の課題だから大歓迎だ。揺籃塾はオープンなのでよく大人たちも混じって勉強しているのだ。
ちょっと今日はお母さん率が高いけど。
ケンちゃんたち生徒に混じってシロミさんも嬉々として授業を受けている。元気よく手を挙げているが当ててもらえず拗ねぎみだ。何やってんだか。シロミさんには翻訳くんがいるでしょ。
昨日は一日中アズマさんの後ろをこっそり付き歩いていたようだ。護衛という役割を完全に忘れているぞ。
もっともシロミさんだけじゃなく婦人会の面々もいたらしい。娯楽に飢えているからしょうがないね。
すぐに隊商とともに去ってしまうだろうから期間限定のイベント気分だ。
俺は呆れてバザールをのぞきに行った。
この隊商は予定されていたものでハミコ様が依頼し旧オオガ村を経由してきたのだ。
村での購入品はすでに納入済みでバザールでは村民相手に手工芸品を中心に様々な物が売られていた。
お金ならあるが物々交換もありだった。
そういえばそのことで一悶着あったっけ。
前提としてこの世界では基本的に貴金属類はアポーツできないようになっている。それがこの世界の理らしい。
そうでなければ貴金属の価値はないも同然になってしまう。他にも一部の薬品やレリックにも禁則が働くようだ。
俺はできるけどね。どうも理外の存在らしい。この世ならざる者とはこういうことかもしれない。
で、隊商が到着して挨拶に行った時のこと。
隊商のリーダーはアニルさんという鑑定持ち、エクストラはディスクロージャーという。
「あなたが噂の異世界人ですか。私がこの隊商のリーダーのアニルです。こいつが妹で護衛責任者イモールです」
アニルは口髭が似合うダンディでイモールはバレーボール選手みたいな高身長の美人だ。
刈り上げた髪型のせいでとても小顔に見える。 十頭身ぐらいではあるまいか。
「物部守といいます。こちら小田野銀鏡さん」
アスラーを見かけてから落ち着きのないシロミさんを紹介した。
「こちらの方も異世界人で?」
「はい」
「試しに鑑定をかけてもいいですか?」
「いいですよ」
シロミさんは即答だ。相変わらず男前だこと。
アニルさんの目がギラギラと光った。わかりやすいエフェクトだなぁ。
「やはり異世界の人や物には鑑定が通らないようですね。まるで何も見えない」
「そういうものなのですか」
「おそらく異世界の品だと思うのですが鑑定できない物を手に入れましてね。イモールあれを持ってきてくれ」
イモールさんが金属の箱をテーブルに乗せ、中身をアニルさんが次々と取り出した。
それは紛れもなく工具箱だった。
中からペンチやドライバー、メジャー、接着剤、レンチやボルト、ナットなどが出てきた。
それとは別にイモールさんは折りたたみ傘やレインコート、ライター、マグライト、スマホに充電器、免許証を持ってきた。
シロミさんが免許証を確認した。
「ヨシュアさんのです」
吸血鬼になってしまったとかいう男の名前だ。
俺は電池切れのスマホに自分のバッテリーを繋いだ。電源は入ったもののロックがかかっていた。
「おお、動くのですか」
「残念ながら持ち主以外は使えません」
興奮するアニルさんに釘をさす。
「これを譲ってください」
シロミさんが交渉を開始した。
しかしアニルさんはなかなか首を縦に振らなかった。そこで金のインゴットを取り出したところアニルさんの表情が変わった。
「まさかアポーツしたのですか!」
「金をアポーツなんてできませんよ」
すっとぼける。
すみませんアポーツしました。
アニルさんには何が見えているのだろうか。
オリジナルなら鑑定は弾かれたかもしれないがインゴットはこっちの世界でアポーツした物だ。これはまずかったかもしれない。
「これは元の世界から私が持ってきた物です」
シロミさんのフォローがはいった。俺は動揺を悟られないようこの後は鉄面皮のシロミさんに任せることにした。
結局交渉の末、俺のスマホと交換することになった。
ヨシュアさんのスマホをアポーツすればよさそうなものだが、なぜかこの手の電子機器はデータが失われたデフォルト状態になってしまうのだ。
あの時アニルさんにはアポーツしたインゴットだとバレていたのかもしれない。異世界的にアウトなので無用のトラブルを避けるため手を出さなかったとシロミさんと考察した。
「いらっしゃい、お一人?」
声をかけてきたのはイモールさんだ。
護衛任務は出発までお休みなので兄のお手伝いをしているそうだ。
売っているのは香辛料だ。一つ一つ丁寧に説明してもらって買うことに決めた。
「買うの? あとからアポーツできるでしょ」
「たいした量はできないよ」
「ふーん」
まるで信じていなかった。あれからアニルさんに何か聞かされのたかもしれない。
「ねえ、お金の代わりに異世界の物をちょうだいよ」
イモールさんは並んで立つとお尻が俺のヘソ付近にあった。セッシュウが欲しいぞ。
いや、胸の位置がちょうどいいのでこのままで。
ピチピチだった頃のソフィ・マルソ◯を凛々しくしたような美貌を見上げる。
「どんなものがいい?」
「そうね、甘い物がいいかな」
異世界でも女の子の好きな物は共通か。
俺は四方来堂の大福餅のパックをアポーツした。
例によってメッセージがプリントされているが読めない。
「一緒に食べよか」
俺が大福餅をガン見しているのに気遣ったのかイモールさんがそう言ってくれたので俺たちは泉のほとりに場所を移した。
「ここはいいところね」
ピラミッドを見上げてイモールさんはそうつぶやいた。
老眼鏡を取り出しメッセージを読んだ俺はそれどころではなかった。
『アズマなる人物、ヨシュア氏が殺された映像で近くにいたことが判明しました』
「こりゃまずい」
「あら美味しいわよ」
「そうじゃなくアズマさんのことなんだけど……う!」
そこまで言いかけたところでヌシの権能に強大な反応が現れた。とんでもない化け物がテリトリーに踏み込んできたのだ。
同時に近くで衝撃音が鳴り響き木々を激しく揺らす。
俺は大福餅を喉に詰まらせ死にかけていた。




