表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美人すぎる国会議員と行く異世界旅  作者: Y.イヨネスコ
第一章 異世界転移

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/64

揺籃塾

 ※第三者視点

 

 青空の下、建物の壁に粗末な黒板を掛け、まだ低い日差しの陰で物部守の学校「揺籃(ようらん)塾」は開校した。

 揺りかごからの成長を期待して武市総理が命名したものだ。


『ポポンタの種を3個、リップチューの球根を4個植えました。花はいくつ咲くでしょう』

『はい!』

『はい!』

『はい、はいっ!』

『ではケンちゃん』

『春になるまでわからない!』

『正解! 他に答えは?』

『はい!』

『はい!』

『はい先生!』

『ではクロト君』

「七つです」

『大正解!』

 

「かかか、なんて授業をしてやがる」

「あら素敵な先生じゃない」

 

 麻生田副総理と武市総理はモニター前に並んで腰掛け授業参観中だ。

 物部守からの相談を受け超特急で作成したカリキュラムの成果を微笑ましく見届けていた。


 文科省や外務省、NGO、NPO団体の協力のもと異世界学校のあり方が検討された。

 異世界の文化、ニーズ、特殊性を深く理解し、尊重することが推奨され、時期尚早であるとの意見が大半だった。

 しかし教育に待ったはなく、実行可能な部分から実現させていくという判断のもとノウハウとモデルが提供された。

 

 現地指導者、ハミコ様との信頼関係がすでに醸成されていたため日本政府からもGOサインが出された。

 

 学科としては古今東西の共通言語ともいうべき算数は必須科目だ。

 物部守が提案したタブレットを使った授業は持続可能性の点から不採用となってしまった。

 国語や地理・社会、理科についても異世界への理解度が足りないとして現地教師の採用が望まれた。

 

 ただニューオオガ村民から臨時講師を何人か選び日替わりで授業をしてもらうことになった。

 ハミコ様から鬼族の歴史、伝統、伝承が語られ、これは物部守や小田野銀鏡のみならず視聴している地球側にとっても貴重な情報となった。

 またダイさん講師の農業講座、チュウさん講師の狩猟採集講座、大工のショウさん講師による図工、アンズさんスモモさん姉妹による家庭科裁縫授業が予定され塾としてそれなりの体裁は整った。

 識字率を少しでも上げるためケンドー隊長はじめ知識のある者が知っている文字を教えているがいささかおぼつかない。早急にまともな教師が欲しいところだった。


 小田野銀鏡は保健体育を担当して衛生とスポーツを教えている。

 

「へえ、教師姿も様になってるじゃねえか」

「ホイッスルが妙に似合ってますね」


 シロミはラジオ体操を教えているところだった。


『腕を前から上にあげて大きく背伸びの運動

 はい!  1、2、3、4、5、6……』

 

 向学心、向上心を養い、決して上から目線の価値観の押し付けではなく共に未来を創るという意識を忘れずに、そうカリキュラムは締めくくられていた。


「まずまずの出来でしたわね」

「日本国民すべてが授業参観していると思うと笑えてくるね」

「教えたがりがうるさそうですけど」

「違いない」

「ではそろそろディーモンのプロファイリング結果、よろしいでしょうか」


 キンジローが麻生田と武市に声をかけた。


「どんな内容か楽しみね」

「今のところ群盲象を撫でるの有り様ですからな」

「元はインドの諺でしたわね」

「ニューデリーでさんざん聞かされました」


 キンジローによる総理レクが始まった。

 通常は官僚の仕事だがキンジローは本部長補佐として覚醒していた。


「The Dことディーモンはきわめて現代的な放送倫理に基づいて映像作りをしています。

 これは先ごろの小田野銀鏡さん入浴シーンを見ても明らかな通りです」

「TV時代劇の入浴シーンを思い出してしまったぜ」

「まさしく麻生田本部長のご指摘の通り。排泄シーンについても差し障りのない映像および音声となりこれはコンテンツとしての質を下げないため、ひいては視聴率を下げないためと推察されます。

 ときおりカットインされるアップや場面転換も同様に我々の理解度を上げ観測の質を高めるためであると分析されます。

 それは各転移者ごと、すなわち国民性、民族性、宗教観に合わせたコンテンツ作りをしていることからも明らかです。

 ただそれが日本人を、人類を理解しているかとなると疑問でこちらの習俗に合わせているだけだろうというのが専門家の意見です。

 でなければ密林に裸の赤ん坊を転移させたり、要介護の老人や身体障害者を砂漠やツンドラの真ん中に放り出したりはしないはずです」


 武市総理は大きく何度もうなずいた。


「このディーモンおよび『ゲミニス』について天体物理学者たちより極めて重要な仮説が提唱されました」


 キンジローは大画面に太陽系のCGを映し出した。地球が太陽の周りを公転し、太陽が銀河系外縁を周回し、銀河系もまたグレートアトラクターに引かれどこかへ向かっている。


「すでに聞きおよんでいるかと思いますが370 km/秒と考えられていた地球の移動速度がなんと1,350 km/秒と判明しました。

 これにより従来の標準宇宙モデル、ラムダCDMが息の根を止められました」


 ラムダCDMモデルのΛ(ラムダ)とは宇宙定数(ダークエネルギー)のことで、CDMはコールド・ダーク・マターの略だ。

 それぞれ宇宙の68%、27%を占め通常の物質は5%しかないとされていた。


「受け売りとなりますが標準偏差σ(シグマ)という考え方が素粒子物理学にはあって確信度を表します。

 たとえば3σなら確率1/270判定で証拠発見とされ、ヒッグス粒子のように5σ越えなら350万分の1で偶然のはいる余地はなく、新しい物理現象発見と認められ世界に発表されました。

 今回の地球速度のσは5.4σで偶然も誤差も計算間違いもないほぼ100%確実な物理現象です」

「なんでも地動説が天動説に取って代わったのと同じくらいのパラダイムシフトらしいわね」

「そこで新たに脚光を浴びたのがM理論とホログラフィック原理です。

 M理論のMはマジックやミステリーなど色々な意味を持たせているため特に何かの略というわけではありませんが先日ノーベル賞を受賞した日本のミノルスキー理論がその代表となっています。

 簡単に言えば宇宙は因果関係の不連続な集合体ということで、簡単にいってもよくわかりませんが」


 キンジローは苦笑しながら続けた。


「一方ホログラフィック原理はM理論で説明される宇宙は2次元情報の投影された立体映像みたいなものだという考え方です」

(小田野銀鏡が聞いたら喜びそうな理論だ)

 

 キンジローの説明に麻生田は2次元推しの「オタのシロミ」を連想した。

 

「ここからが本題です」

「やっとかよ」

「もう一杯いっぱいよ」

「大丈夫です、あとはわかりやすいので。

 いわゆる(エン)と呼ばれる状態は一つの物から二つに分かれて投影された映像というか影絵のようなもんだと思ってください。

 本来は同じ形ですが平らなスクリーンとデコボコのスクリーンでは違って見えます。それでも右手を動かせば右手に相当する部分がどちらも動きます。

 これが一人の死亡と1億人の不妊という対応する関係になります。

 つまり『ゲミニス』は異世界でもなければパラレルワールドや地球の未来でもありません。歪んだ鏡に写ったこの世界そのものなのです。

 そしてディーモンは世界の外から2次元情報にアクセスできる存在といえます」

「てことはなんだ、ゲミニスにも俺や総理がいるってことか」

「どんな形でかはわかりませんが存在するはずです」

「まるで『胡蝶之夢』みたいね」


『胡蝶之夢』は荘子の一編で、はたして今の自分は蝶々が見ている荘子として生きている夢なのか?  それとも荘子が見ている蝶々になった夢なのか? という話だ。


「あーっ! それだ!」


 武市総理の言葉に麻生田が思わずスパンと膝を叩いた。


「物部守にまとわりついているアグネスとかいう電撃鬼娘、こっちの世界では漫画の架空の登場人物だが『ゲミニス』では実在の人格という対応する形なんだ」

「そんなことがありえるの?」

「そう考えるとしっくりくる。物部守の夢の中説とか、一人と1億人とかより一対一で対応している分まだましだろ」

「いみじくも麻生田本部長がニューデリーで演説した梵我一如、本質的に同一であるという考え方、思想が大正解なのかもしれませんね」


 キンジローの大正解というワードに武市総理はこの総理レクが異世界の揺籃塾と大して変わらないように思えた。

これは子供が頑張って足し算や引き算を学び文字を覚えている過程と同じなのだ。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ