シルヴァとヨシュア
※ 第三者視点
シルヴァとその家族は世界中のアイドルとマスコットだった。
浅黒い肌にくりくりとした眼はややブルーを帯びてよく輝いている。
艷やかな黒髪はゆるやかにカールがかかっていて濃いめだ。
赤ちゃん言葉をよく喋りよく笑いよく泣く。
愛くるしくて元気だ。
そんなまだ這い這いもできないシルヴァの面倒をよく見ているのは異世界の動物たち。
特に禍獣と呼ばれる凶暴な生物たちはファンに守護神あつかいされている。
十二神将とか勝手に名付けてて推しキャラを作ったりしている。
中でも四神として人気が高いのはさまよえる山パルヴァトゥリ。
岩肌そのままの装甲をまとった巨獣で体表が板状の岩で覆われ、苔や小花が自然に生えている。六足で亀のように重厚だ。目は金色でいつも眠そうにみえる。
次に王鳥グルダラ。金色の四枚羽根で獅子の胸筋と黒鉄色の爪、太く鋭いくちばしを持つ。王鳥にふさわしい風格だ。
その次のアクニャンタは黒曜石のように黒い獣だ。たてがみの内側に青い燐光が脈動していた。
猫科と鹿を合わせたような俊敏な体つきで尾の先が燭台のように絶えずゆらゆら光っている。
最後のジャラニンはカワウソと龍の混血のような姿で愛嬌のある顔つきをしていた。
緑の鱗に水かきのある四肢。周囲には常に水玉がいくつも浮いている。
他にも牛王スーラバ、密林の母熊ダラニ、大地の子プリティヴィカ、円環翁チャクラサーなどいずれも一癖も二癖もある強者ぞろいだ。
密林の奥地にもかかわらずここにやってくる冒険者は多い。一攫千金を求めてタフで傍若無人なパーティーが常に何組も徘徊していた。
彼らの最大の目的は伝説の禍獣の墓場を見つけることだ。そこにはヴェノムストーンが山ほど眠っているいう。
今もまた一組、大金持ちを夢見て冒険者パーティーが密林を進んでいる。だが彼らは少々シルヴァの寝床に近づきすぎた。
円環翁チャクラサーが環形彷徨を発動した。
たちまち方向感覚を失い冒険者たちは同じところをグルグル回りはじめた。
疲れ果て食料が底を尽きはじめたころを見計らって母熊ダラニが現れ大木をへし折っただけで一目散に逃げ出してしまう。
こうして今日もシルヴァの安寧は守られたのだった。
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ヨシュアはダンジョンに籠っていた。
ダンジョンといってもヨシュアのいるダンジョンは洞窟ではなく大邸宅だった。洞窟は地下部分だ。
枝分かれして無限に続くかと思える廊下と無数の部屋。そして複雑に入り組んだ階段で構成されたダンジョンだ。
ヨシュアはのんびりと豪勢なベッドで横になっていた。なぜなら外界よりここの方が安全で快適だからだ。
ヨシュアが転移した場所はどこかわからない街道だった。見たこともない種族が行き交う道端に座り込み茫然自失となっているとなぜか食べ物やお金を恵んでくれる旅人たち。
見た目は違ってもそこに情を感じたヨシュアは気を取り直し、あてもなく歩きはじめた。
ほどなく大道芸人一座と知り合い仲間に入れてもらえた。
彼らもまたはぐれ者の集まりであり身を寄せ合うようにして生きていた。
ヨシュアは風俗習慣にも無知なので道具も言葉も使わないパントマイムを始めた。
これが受けた。
バラエティショーで見た芸人の物真似だったが次第に評判をとりはじめた。
見えない壁に風船、綱引きを演じて最後にムーンウォークをやってみせると大喝采だ。
座長に褒められ仲間からも一目置かれるようになっていった。
そんなある日、公演を打っていた町で殺人事件が起きた。たまたま買い物で近くにいた他所者のヨシュアが疑われあっさりと絞首刑に処されてしまった。
ヨシュアが息を吹き返したのはその三日後だった。野ざらしで鳥や動物に食べられるはずだったヨシュアの周りには、屍肉をあさりに来たはずの鳥や動物たちの死骸が転がっていた。
虫の息だった動物に手を伸ばすと掌から生命力を吸収しているのが自分でもわかった。
その後大道芸人一座と合流するも気味悪がられて居心地が悪くなり脱退してしまった。
それから大きな街にたどり着きパントマイムで日銭を稼ぎながらその日暮らしをしていたが気づいたら殺されていた。
首をはねられ自分の目で身体が倒れていくのを目撃した。
だが犯人の姿は視界には入っていなかった。
それからが悲惨だった。
死体を回収なのか検分なのか到着した役人をエナジードレインしてヨシュアは復活した。
衆人環視の中で人を殺して首を付け直したのだ。
わざとではない。
身体の方が吸血鬼の本能に従って勝手やったのだ。
それから吸血鬼狩りが始まった。
その時追っ手から自分がノスフェラトゥ・ゲヌスというエクストラだと初めて知らされた。
切られ、刺され瀕死となりながらも相手の生命力を奪って生きながらえようやくたどり着いたのがこの大邸宅ダンジョンだ。
ある日忽然と街外れに出現したこの大邸宅は冒険者ギルドでダンジョン認定され来訪者を待ち続けていた。
破壊することも燃やすことも不可能なこの建物の中は迷路でモンスターが闊歩していて倒すとなにがしかのドロップ品を残して消えた。
その存在を知ってはいたが中に入ったことはなかった。しかしもう自分にはここしか逃げ場ないと駆け込み今に至る。
豪華な部屋には風呂やトイレ、ふかふかのベッドまで完備されていた。
食事はモンスターからエナジードレインすれば足りた。しかもドロップ品付きだ。
たまに遭遇する冒険者と取り引きするようになってからは食料や衣服、情報も入手できて不自由はない。
敵は孤独と退屈と謎の襲撃者だ。
なぜ、どうやって殺されたのかわからない。もしかするとこのダンジョンの中までやって来るかもしれなかった。
ヨシュアは今日も今日とてダンジョン内を探索する。たまに強いモンスターや罠に殺されることもあるがしばらくすると生き返るので問題なかった。




