草餅ラプソディ
※ 第三者視点
於 御菓子司『四方来堂』
「おい夜目子! 早く来い! 物部さんがうちの草餅をアポーツしたぞ!」
「段名くん、とうとうこの日が来たのね!」
「ああ、わりと近所だから食べたことがあるんじゃないかと思ってたんだ」
「買い物に来た記憶はないけど、ほら法事とか集まり事でお客様たち買っていかれるもんね」
夫婦二人でテレビにかじりついていた。
近ごろは大手ショッピングセンターとかスーパーに客を取られがちで昔からの和菓子屋は風前の灯だった。
古くからの馴染みに支えられているが、皆さん寿命でお別れする時が最後のご利用となっている。
「でもこの草餅、うちの草餅ってわかるかしら」
「ネットの特定班を舐めるなよ。あの包装に貼った政府からのメッセージに屋号をでかでかといれておいた」
「その分メッセージが小さくなっちゃったけどね」
「海鮮丼の『葉ワサビ亭』やカレーうどんの『和辛子軒』なんか全国からお客さんが来て大繁盛だ。うちも明日から大変なことになるぞー!」
「儲かったら何を買う? 外車? 宝石? 家にする?」
「買え買え! 何でも買ってやる!」
景気のいい話をしていると物部守が草餅を喉に詰まらせた。
「あーっ、このクソジジイ何でいっぺんに飲み込むんだ!」
「だめよ死んじゃう! ご近所に顔向けできないわ!」
「近所どころか日本に居られなくなるぞ!」
「黒鬼さん背中をトントンしてー!」
「夜逃げするぞ! 夜目子ボーッとするな!」
段名くんが青い顔で立ち上がったところで物部守のつかえがとれた。安心して二人は放心状態になってしまう。
そこへ電話が鳴った。夜目子が受話器に飛びつく。
「はい、もしもし四方来堂、はい、そうです異世界の、はい!」
それから四方来堂の電話は一日中鳴り止むことはなかった。
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於 陸自駐屯地ブリーフィングルーム
小田野銀鏡はじめ召喚候補4人はすでに装備品をセットされ、銃を小脇に抱えて指は安全装置にかかっていた。
「解析班が草餅に政府からの最新メッセージを確認しました。追加の早く女性パートナーを呼んでほしいという内容入りのものです」
キンジローも臨戦態勢の4人を前に緊張気味だ。
物部守が走りだし何もない空間に向け発砲した。そして何かにぶつかったように転倒する。
(この人ブギーマンの居所がわかってる)
シロミは物部守の行動にそう確信した。
「あーっ! ダメーッ!」
黒鬼の振り下ろした剣がヘルメットを破壊してブリーフィングルームが悲鳴に包まれる。
物部守はしぶとく生きのび崖を登攀しはじめた。
爆竹で黒鬼を撃退したところでは歓声と拍手が湧く。
そして鬼神オオツノと物部守が対峙した。
子供を盾に取るオオツノに4人の女性から罵声が飛びまくる。
「ヘタレ野郎!」
「ゴミ、クズ、カス!」
「玉無しめ!」
「このチキンめ!」
その時が刻一刻と近づいている予感に浮足立っていた。
キンジローはヒステリー状態になりかけている4人に危機感MAXだ。
「みんな落ち着いて、冷静に対処してください」
『小田野銀鏡! 来い!』
ついに呼ばれた。
同時に岩塊が命中して物部守がひっくり返り頭から落ちていく。
そこで画面がブラックアウトした。
小田野銀鏡はもういなかった。
(物部守が死んだ?)
キンジローは膝が震えてしまいよろけた。
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於 首相官邸「人類存続対策本部」
麻生田本部長は武市総理と事の成り行きを見ていた。
不意の暗転は物部守チャンネルと小田野銀鏡チャンネルの二つに分岐したことが原因と推察された。
今二人の前には二つの大画面があった。それぞれ物部守と小田野銀鏡が主役として映し出されている。
「すぐにスタッフを増員させましょう」
武市総理の即決即断が発揮された。二人分の情報処理をすみやかに行う必要があった。
「小田野さんの活躍を見損ねたわね」
ライブ中継が再開したのは手榴弾とおぼしき爆発からだった。
「最大の収穫は連絡手段が確保できたことです」
「そうかしら? あれは日本にとっては厄介事よ」
世界各国からの要求や突き上げが予測できた。
すでに異世界へと女性一人が召喚されるとわかったニューデリー滞在時から各転移者への伝言や保護、合流といった要請が引きも切らなかった。
それらは取りも直さず物部守と小田野銀鏡に安全地帯を捨てて危地に飛び込めということだ。
さらに1億人の未来を肩代わりできると判明してしまっている。
現在妊娠中の女性が出産したらそこで打ち止めとなってしまう国や民族にとってはなんとしても威武岐のような魔物を討伐して欲しいのだ。
だが日本を危険にさらすような真似はできなかった。
「頭が痛いことね」
これから日本および物部守への要求は激しさの度合いを増していくだろう。




