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美人すぎる国会議員と行く異世界旅  作者: Y.イヨネスコ
第一章 異世界転移

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ブギーマン


 バランスを崩して転がり落ちる俺を受け止める手があった。

 ジグロだ。

 いつの間にかすぐ下まで迫っていたようだ。

 

「大丈夫か?」

 

 さっきまで俺を殺そうとしていたとは思えない柔らかい声音だ。

 

「この外道がー!」

 

 頭上から女の怒声とタタタンという銃声が降ってきた。


「上に俺の仲間がいる。助けてやってくれ」

「わかった」


 ジグロはほぼ垂直に切り立った最後の縁までいっきに駆け上がった。まるでボルダリングの選手みたいだ。

 加勢したいがもう登れそうになかった。

 左肩がひどく痛む。五十肩と同じくらい痛くて腕があがらない。

 そうだもう一匹下にいたぞ。


 俺は勢いを殺しながら滑り落ちた。

 さてブギーマンはどこだ。

 すぐそばにいた!

 鬼神のところへ駆けつけようというのか、俺と滝の間にいた。行かせるかよ。

 俺は反射的に飛びつく。

 手応えあり!


「離せ!」

「臭いんだろ! 洗ってくれよ!」

 

 このまま落下すると死にかねないので組みついたまま流れ落ちる滝に身を投じた。


「ぎゃーっ! 死んじゃう!」

「そりゃいい!」


 急流に揉まれたブギーマンはしぼんでいき滝壺に落ちるとついに俺の腕から消えしてしまった。

 そういえば西洋の妖怪や魔物にはなぜか流水に弱いのがいたな。ブギーマンもそのたぐいだったのかもしれない。

 水圧にもがいて溺れそうになりながら浮かび上がった。


「マモル!」


 声がして何本もの手が岸へと俺を引っ張り上げてくれる。鬼族のみんなだ。追いかけてくれていたんだ。

 お礼を言いたいがもう少し待ってくれ。


「ゲホゲホーッ!」


 水を吐いた。様にならんね。

 ふと気がつくと右手にショールのような布切れを握りしめていた。ブギーマンの成れの果てだろうか。

 溺れる者は藁をも掴むというが本当だな。

 昔のことわざに感心していると爆発音した。

 鬼神オオツノが水しぶきを上げ滝の上から転落してくるのが見えた。


「逃げろ!」

「私がやる! 離れて!」


 俺が拳銃を取り出すとアグネスが制止してきた。滝壺に繰り返しこれでもかと電撃を放つ。

 何度も巨体が跳ね上がるのが見えた。

 やがて動かなくなったオオツノが浅瀬に流れ着きケンドー隊長の指揮でとどめが刺された。



 ✳ ✳ ✳ ✳



 オロカモン遺跡に戻る道中、小田野銀鏡から何が起きているのか聞かされた。

 衝撃だったのは俺の一挙手一投足がすべてライブ中継されていたことだ。


「今この瞬間も見られているってこと?」

「はい。たまにまったく別の場面になることはありますけど概ね物部守さんを映しています」


 俺は中空に手を降ってみた。


「どうしてわたしを選んだのか聞いてもいいですか?」

「え?」

「他にも吉田さゆりさんとかタカコさん、イモトアキ子さんという候補がいたじゃないですか」

「そこまで知られているのか。これだよ」


 俺はポケットから草餅の包装紙を取り出した。

 そこには麻生田太郎と小田野銀鏡の名前が読み取れた。


「次からはもっと大きな字で書けと言っといてくれ。名前以外は老眼でほとんど読めんぞ」

「ちょっと聞きましたかー! もっと大きな文字で印刷してくださーい!」


 空に向かって叫ぶシロミさんに鬼族がいぶかしむ。頭がおかしいと思われたかもしれない。

 どうも戦闘でスイッチが入ったようでハイになったままだ。

 それとも国会の質疑応答で見せている姿は猫をかぶっているだけでこちらが本性なのかもしれなかった。


 ちなみに自衛隊仕様だろう戦闘服を着用したシロミさんはブーツとヘルメット込みで俺と同じぐらいの身長にみえる。手にはライフル、腰にはピストルとナイフ。勇ましい出で立ちだ。

 その後ろを鬼族がシロミさんのゴツい荷物を担いで運んでいる。


「それで何億人もの未来を預かっているというのがよくわからんのだが」

「世界中から82人の人が選ばれこの異世界『ゲミニス』に来ています」

「そんなに来ているのか、俺一人かと思っていた」

「世界人口82億人あまりの運命を背負っているようで一人死ぬたびに1億人が子供を作れなくなっています」

「死ぬって、死んでいるのか?」

「私が来た時点で生存者25名、死者57名となっています」

「異世界に転移した時期は俺と同じなのか?」

「ほぼいっせいに転移したものと考えられます」


 とすると57億人の未来が失われて……あれ? おかしいぞ。


「うーん、ちょっと聞いていいか?」

「はい?」

「さっき俺の背中に何億人もの未来がって言ったよな」

「え?」

「一人に1億人だろ。俺だけ何億人とかおかしくないか?」

「1億人と言いましたよ」


 シロミさんの顔から表情がすんと抜け落ちた。先ほどまでとは別人だ。凄みのある美人になってしまったぞ。

 俺は立ち止まった。


「異世界ライブですべて見ていたなら俺がヌシになったのは知っているよな」

「存じています」

「ヌシになるといくつか権能が得られる」

「……」

「ブギーマンのように見えない敵を感じとる力とか嘘を見破る力(・・・・・・)


 ハッタリだ。

 政治家相手にこれ以上言葉でやり合うと危険だ。俺は再び歩きだした。


「あとでゆっくり詳しく聞かせてくれ」








 

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