オオツノ
俺はクマ避けスプレーに手をかけて距離をとる。
するとジグロは左腕で目をかばう仕草を見せた。
視線感知てそういうことか。どこを狙っているかわかってしまうんだ。
俺はニューナンブのグリップを握る。
すると今度はサイドステップしながら間合いを詰めてきた。
正面を見据えたまま視線を下方に移さなかったのに足が狙われらていると感じたのだ。
スプレーも拳銃もジグロは初見で予備知識もまだもらっていないはずだ。
これは思っていたより厄介だぞ。
滝の方へと逃げ出す。
と見せかけ、どさくさ紛れに至近のブギーマンへ発砲した。銃弾は手応えなく崖に火花を散らした。しかし俺自身はブギーマンに接触して転んでしまう。
なんだ触れられるんだ。
襲いかかってくるジグロにスプレーを噴射してかわす。
が、まったくかわせずヘルメットに直撃をくらってしまう。カットベア製のツノがへし折れた。このツノで勢いが削がれなかったら死んでいたかもしれない。
ケンちゃん師匠ありがとね。
目は守ったもののカプサイシンを吸い込んだジグロが激しく咳き込む。
その隙に崖にとりつき滝の上を目指して登りはじめた。そろそろ体力の限界だ。ものの30秒も動けなかったな。
ジグロが後を追って登りはじめる。剣を持ったままなのに早い。
俺は火のついた爆竹を落としてやった。
パンパンと爆ぜる花火にびっくりしたジグロがゴロゴロと転落してしまう。大した怪我はないようで安心した。
アスポートは時間が止まるらしく、花火に点火して預けるとその状態で取り出すことができる。火をつける手間が省けて大変よろしい。
さらにアスポートの応用で拳銃のリロードに挑戦中だ。これができるようになれば火力がアップするはずだ。
崖や滝といっても華厳の滝みたいな垂直の瀑布ではなく急斜面を流れ落ちるタイプだ。
とはいえかなりの斜度がある。緩くて30度、天辺あたりはほぼ90度だ。平均すると50度近いのではないか。
スキーなら滑るというより飛び降りる感じだ。
見上げると隻眼で4本ツノの鬼神がニヤニヤと俺を見下ろしていた。ただまともなツノは1本もない。すべて折れたり欠けたりしていた。
もしかすると威武岐にやられたのかもしれない。
「なにヘラヘラ笑ってやがる、このツノ折れ腰抜け野郎! 今からコテンパンにしてやるからそこでおとなしく待ってろ!」
俺がそう怒鳴りつけると明らかに鬼神は狼狽した。
「わ、儂が見えているのか?」
「ごめんねオオツノ様ー! その臭いジジイに触られて隠形がとけちゃったー!」
「この間抜けめが!」
オオツノは大きな石を俺に投げつけはじめた。失敗した。余計なこと言わなきゃよかった。
それにしてもこの漂う小物感はなんなのだ。
とはいえ当たったら大変なので拳銃を撃ちながらちょこちょこと避けるがお互いにまるで当たらなかった。ひどい低レベルの戦いになってきたぞ。
これはいっきに登った方が賢そうだ。
最後の体力を絞り出して直登する。
うん、これはダメだ。すぐに力尽きてしまった。登りきっても動ける気がしない。
張り出した岩陰で休憩がてら弾をこめる。
「出てこい卑怯者!」
オオツノが苛立っていた。
お前に言われたかねえよ。
「これを見ろ!」
「アーッ!」
クロト君の悲鳴が聞こえた。
見ればまたミノムシのように宙ぶらりんになっていてその頭上にオオツノが岩石を落とそうと構えている。
「やめろ!」
俺はたまらず飛び出した。
「ふはは、避けるなよ」
そう言って俺に向きなおり岩を投げおろした。そして明後日の方向に転がっていく。
このノーコンめ、お前にはがっかりだよ。
俺はじりじりと高度を上げていった。
あと少しというところでとうとう直撃コースが左肩にぶつかった。
「小田野銀鏡! 来い!」
俺は叫び、岩塊とともに転げ落ちていった。
でも小田野銀鏡は崖の上に転移されるという確信があった。
くそ、この高さ、俺は助からないな。死を覚悟した。




