転移者狩り
※ 第三者視点
「遅くなりました。ただいまより現在の『ゲミニス』の状況をご説明申し上げます」
ブリーフィングルームに遅れてやって来たキンジローが挨拶もそこそこにレジメをめくる。
そんな様子にシロミはまたぞろ何か異変が発生したことを察した。
「生存している転移者は25名、半月ほどで7人がお亡くなりになりました」
キンジローの鎮痛な表情にいつもは陽気な4人も粛然として俯いた。
「ただし内1名はキリストの再来と騒がれた復活者ヨシュア氏であり、またもや生き返りました、ただし!」
顔を上げた4人に喜ぶのはまだ早いとばかりに追加情報をほりこんだ。
「ヨシュア氏のエクストラがノスフェラトゥ・ゲヌス、すなわち吸血鬼の血脈と判明しました」
「あちゃー」
アキ子が声を上げ、シロミはなんだかキリスト似の男が実は不死身の吸血鬼の始祖だったという設定のコミックを読んだような気がしたがタイトルが出てこなかった。
「ヨシュア氏は逃亡中です。その逃亡先がなんと」
正面に二つある大画面の片方に洞窟の映像が流れた。
「いわゆるダンジョンであります」
「それは単なる地下ということなのかそれともファンタジー小説的なダンジョンという意味ですか?」
「モンスターが出たり宝箱が落ちているファンタジーのダンジョンです」
「宝箱!」
シロミの疑問にキンジローは不用意に答えてしまいアキ子が食いついた。
「どうどう落ち着け」
さゆりが鼻息も荒く立ち上がったアキ子を無理矢理座らせた。
「続きをどうぞ」
さゆりはたじろいでいるキンジローを促した。
「あ、ああ……失礼しました宝箱は出ておりません。もののたとえでしてモンスターとその倒した後のドロップ品が確認されました」
「ドロップ品!」
「だからいちいち立たないの」
またもさゆりに押さえつけられる。
「問題はヨシュア氏の死亡原因がおそらく殺害であったことです」
キンジローはとんでもない情報を次から次へとぶっ込んできた。
「ヨシュア氏の『誰に殺られたのかわからない』という旨の独り言と状況証拠からこれまで死亡原因不明の転移者中の何名かは殺された可能性が出てまいりました」
「はいー、どの程度の可能性ですか?」
「CHPではかなりの確度と考えているようです」
「それは転移者狩りを行なっている者たちがいるということですね」
タカコのあとをシロミは引き継いだ。
「物部守さんのこともあります。個別の案件なのか組織立って動いているのか知りたいところです」
「もちろんです。本部やCHPでも分析を急いでいるので何かわかり次第お知らせいたします」
そして「シルヴァのファミリー」拡大など生存者の話題に移り、マイノリティながら普通の人間の確認、さらに各地のヌシらしき噂話が紹介された。
「こちらの世界同様に神と怪物という二面性がありまして、あるヌシは禁足地を守護するガーディアンであり、また別のヌシは悪いドラゴンであったりしますがいずれも転移者と遭遇しておらず噂段階です」
「うわドラゴンかぁー、じゃあ勇者とか魔王の情報は上がっていませんか?」
「ない、ようですね……」
シロミの反応の良さにキンジローは微苦笑を浮かべた。
画面上の物部守は久々にこちら世界の食べ物をアポーツしていた。
パック入りの稲荷寿司だった。
どこの商品か突き止めメッセージを貼り付けないといけない。すでに対策本部の業務から離れているのにシロミはついつい考えてしまっていた。
物部守は寿司を手土産にしてピラミッドにミズク様詣でをした。
しかし現れたのはフサフサの二本の尻尾を垂らしたケモ耳少女だった。
『ミズク様の使いのコヨリです』
『使い?』
『分霊でもあります』
『そうでしたか、それでミズク様は?』
『ここを去りました』
『去った? どちらへ?』
『存じません。ただ元の世界で玉藻の前が大人気と知りファンに会いに行くと申されていましたので帰還の方法を探しに出たのでは?』
『盛りすぎたか』
『何か?』
『いいえこっちの話。いないものは仕方ないのでコヨリ様、このお寿司を代わりにお納めください』
じゅるりとヨダレを垂らして受け取ったコヨリ様はハッとして真顔に戻った。
『物部守、ミズク様より言伝があります』
『どのような言伝ですか?』
『それでいいのか、人間』
『たったそれだけ?』
コヨリはこくりと頷いて寿司を手にしたまま消えてしまった。
『あ、ちょっとコヨリ様! お伺いしたいことが!』
『これよりはただの稲荷神としてお相手します』
声だけがこだましてそれっきり現れることはなかった。
まさにキツネにつままれたような顔で物部守は立ち尽くしていた。
なんとも曖昧な言葉を残していったものだとシロミは思った。
しかし「それでいいのか、人間」のあとには「いいわけがない」という反語が続くはずだ。
内省を求めているようだけど物部守の背負っている役割の大きさを勘案すると「自分の使命に気がつけ」ともとれる。
シロミには物部守に伝えたいことが山ほどあった。
転移者狩りからも守らなければならないし、ジリジリとした焦燥に炙られるばかりだった。




