異世界準備
※ 第三者視点
小田野銀鏡は20式5.56mm小銃の射撃訓練を終えて89式小銃とどちらにするか考えこんだ。
20式は防錆性に優れていて異世界での運用には適していそうだが89式の3点制限点射も捨てがたかった。
「89式でお願いします」
思案の末89式を選んだ理由は3点バースト以外に銃口に擲弾発射器をそのまま取り付けられる機構が気に入ったからだ。シロミ的にロマン武器だった。
愛銃の選択がすんだのでこれから手入れなどを含めた運用方法を習うことになる。
こういった選択は色んな装備品になされ4人それぞれの個性が反映された。
吉田さゆりはなんとロシアのAK-47を希望した。映画で見たという理由だがベストセラーなので賢い選択かもしれなかった。
タカコは最新の20式でイモトアキ子はトリガーハッピーなMINIMI軽機関銃だ。
通信機など機材の使用方法から射撃訓練、行軍訓練、戦闘訓練、格闘訓練とケガをしない範囲で繰り返される。
さすがに射撃はタカコが群を抜いて優秀で格闘は当たり前だが吉田さゆりだ。
行軍ではイモトアキ子が無類のタフネスさを見せた。
そして戦闘訓練ではシロミが常に最適解を示してクレバーさを発揮した。
「シロミさんて喧嘩っ早いでしょ」
「えーわかる?」
格闘訓練後に吉田さゆりがシロミに肩を組んできた。
「そりゃもうプロですから、アマレスの」
「バレちゃったか。実は子供のころは毎日が戦争でした」
男まさりでいじめっ子との連日の攻防を思い出してしまう。
それから空手を習い始めてようやく落ち着いた。精神修養のおかげというより男子たちがビビってしまったのだろう。
「アドバイスするなら後の先を心がけること。それだけで心に余裕ができるよ。わたしの場合は構えるだけで先制パンチになるからダメだったけど」
そう言ってパワフルに笑った。この数日で4人の距離はあっという間に縮まっていた。
「今わかっている能力の中から選ぶとしたらみんなはどんなエクストラが欲しい?」
その日おしゃべりの内容は異世界の特殊能力エクストラになった。口火を切ったのはシロミだ。
「わたしはだんぜん飛行なんだけど」
「あはは、高所恐怖症で低空飛行してるエクストラ持ちいたね」
吉田さゆりはそんなショート動画見て笑ったことがあった。本人からしたら笑い事ではなく他のエクストラがよかっただろう。
「わたしだったら高度1万メートルぐらい飛び回れるわ」
「酸欠で気を失わないようにね」
「はい~、わたしは安全第一で自己再生がいいです〜」
タカコは高い治癒能力を希望した。
「わたし……」
「さゆりちゃんは鋼鉄化でしょ。聞かなくてもわかるよ。わたしゃもう鑑定一択で。お宝ゲットでウハウハの生活をしたいもん」
「失礼ね当たっているけど。アキ子は異世界に何しに行くつもりなの?」
「そりゃ……あれ? わたしたち何しに行くんだろ。マモルおじいちゃんの介護とか?」
爆笑する4人だった。
配膳が終わり食事を開始しようとしたタイミングで警報が鳴り響き食堂のいくつもあるテレビ画面がすべて異世界の物部守に切り替わった。
「転移準備開始!」
指揮官の号令のもと何度も訓練した異世界セッティングが開始された。
4人は着せ替え人形のようにされるがままだ。セッティング要員は彼女たちより厳しい練習を何度も重ねたのだろう一分とかからずに装備し終えて確認にかかった。
「鉄帽よし! ゴーグルよし! ……」
「状況説明をします。物部守氏はさらわれた仲間1名、アグネスさんを救助するため単身川沿いを遡っています。現時点でアポーツはインターバル中で武器のたぐいは携行していません。
敵勢力は人数、正体ともに不明。なんらかのステルス技術もしくは隠密のエクストラを所有していると推測されます」
シロミは鶏の唐揚げをほりこんだところだったので口をモグつかせている。すごく美味しいのに全部食べられないのが悔しかった。
「なおアポーツはインターバル中ですが以前女性タレントの召喚を試みたときもインターバル中でしたので可能と考えられます」
総重量50キロの装備は重かったが周囲の自衛隊員が支えてくれている。
「転移に巻き込まれたらゴメンね」
「望むところです」
頼もしい返答が返ってきた。
「食べますか?」
「え?」
補助している隊員が尋ねてくれた。
「唐揚げ、食事の途中だったので」
「ありがとう、お願いします」
待機時間は長かった。
食べ終わってもまだ状況は変わっていなかった。
物部守はゆっくりと歩き、すぐにぐったりと休憩して這いずるよう進んでいく。
(あ、これは牛歩戦術だ)
シロミは国会の採決でしばしば使われる時間かせぎと同じだと気づいた。
アポーツができるようになるまで引き伸ばすつもりだろう。
日本国民プラス半島の二億人が見守っているのだ。インターバルが短くなるよう祈る。
『急げ、何をしている!』
『いやあ杖を置いてきちゃったんでどうにも膝と腰が辛くて歩けないんですよ』
突然焦ったようにせかす声がしたが悪びれず言い訳をしている。
急に場面が切り替わった。
映し出されたのはチュウとショウという鬼族の男たちだった。
彼らの前にはさらわれたはずのアグネスが倒れていた。
『アグネスしっかりしろ!』
『うーん』
『目を覚ませアグネス!』
『あれ? どうしたの?』
状況がのみこめないアグネスにチュウとショウは顔を見合わせた。
『はめられた!』
『マモルさんを追うぞ!』
『ちょっと二人とも!』
『ついてこい!』
アグネスを置き去りにして走り出す。
「さらわれたように見せかけただけ?」
「姿を消すような隠蔽方法を使ったということ?」
食堂がざわめく。
シロミは時系列から声の主が単独でやっているように感じた。
アグネスを隠して物部守一人に行かせ、自分はアグネスを離れた所に放置、その時点でアグネスに対する隠蔽はとけ、物部守を追ったらすぐに追いついてしまい慌てて尻を叩いた。
これで辻褄は合っているはずだった。
ほどなくチュウたち3人は息せき切って物部守に追いつき辛うじて難なきを得た。
「異世界装備解除、始め!」
シロミは身体的には軽くなったが精神的にはさらに事態を重く受け止めていた。




