キンジロー
※ 第三者視点
「おはようございます、大泉金次郎です。このたび小田野銀鏡さんのあとを引き継ぎ本部長補佐となりました。よろしくお願いします」
将来の首相候補と目されるサラブレッド議員が挨拶をした。
早朝、彼の前には4人の異世界召喚候補が並んでいる。すべてのスケジュールをキャンセルし親兄弟、友人知人との別れをすませてここに臨んでいた。
誰がいつ召喚されるかわからないが万全の態勢をつくるため「人類存続対策本部」がバックアップしていた。
すでに簡易的な健康診断で問題なしとの結果がでていた。
「物部守氏と異世界人のやりとりで突発的な召喚はなさそうであると判断されました。
まずは開拓に協力し足元を固めてから呼ぶという趣旨の発言が確認されました。
もちろんいつでも対処できるよう準備は怠るわけにはまいりません」
シロミたちには自衛隊準拠の作業服、防弾ベストなどが支給され小火器まで装備している。
もちろんあつかい方を心得ているのは元自衛隊芸人のタカコだけだろう。
さらにいつでも担げるように総重量50キロの背嚢と雑嚢のパッケージが傍らには置かれていた。
異世界の物部守の動向によっては即座に装着される。
「では装備品の説明とそれぞれの使用方法を担当の自衛官からしていただきます」
最初に行われたのは心構えと医療キットの内訳だ。
衛生課隊員によって簡単な装備品の説明のあとマンツーマンでのコーチが始まった。
「まず自分が生き残ることを優先し、その次に救命です。救命処置は受傷後10分以内を目安に致命的外傷たとえば大量出血、肺に穴が空く気胸、気道閉塞に対処ダメージコントロールをします。
では、これが広域スペクトル抗生物質、万能薬と思ってください。次にクロルヘキシジン、消毒薬ですね。強力な鎮痛剤、輸液キット、コンバットガーゼは止血剤入りです。止血帯とこれはチェストシール、胸に空いた穴を塞ぐ物です。縫合キット一式に……」
休む間もなく矢継ぎ早に叩き込まれる。覚えるとか理解するとかは後回しだ。ひと通り見せてやらせて頭の片隅にでも残っていれば儲けものといったスタンスである。
頭がパンクした状態で昼休みに入る4人。
「まさかこんなに覚えることがあるとは思わなかったわ」
「はい〜、まだ序ノ口です〜。銃火器のあつかい、異世界の基本知識、得られるかもしれないエクストラ能力の概要とかもあります〜」
吉田さゆりがボヤきタカコが脅す。
「応急手当てのようなものは仕方ないけどあとのマニュアルや知識はタブレットの中にあるからそう不安がることもないよ」
「そういえば強力な鎮痛剤って麻薬だよね。あと持ち物の中にプラチナとか金銀財宝もあるんだよね」
安心させようとするシロミに神経と眉の太いイモトアキ子がかぶせる。
「異世界でも価値があるらしいからね。先立つものは必要ということ」
「これを資金にして現代科学知識のチートで大金持ちになれるかな」
シロミに異世界ロマンを語るアキ子だった。
「科学知識で何すんですか?」
「タコ焼き作ったりカレーやラーメンを売る」
「ガクッ!」
タカコの問いかけにボケをかますアキ子。お約束のズッコケまで、お笑い芸人がいてよかったとシロミは思った。
本気ではないと信じたい。
「わたしはやっぱり異世界無双してみたいな、あの猪突アーマーでさ」
物部守が威武岐から受け取った具足は直線的な動きを強化する効果があった。ストレートは破壊的だがフックは普通の威力しかないと言った具合だ。
しかし残念なことに老人ムーブの物部守は重すぎると文句を言って着用しない。
「わたしのタックルも強化されるのか試したい」
「さすが金メダリスト、今でもじゅうぶん殺人的だとは思うけど」
シロミは呆れたがあの美しい銀色の鎧兜一式は着てみたいと思った。
「それにしても皆さんよく食べますね。わたしも大食いだけど負けます」
「いやアキ子さんは大食いじゃなくゲテモノ食いでしょ」
「いや好きで食べてないから」
そこへ顔色を変えたキンジローが入って来た。
「みんな大ニュースだ!」
「子供でも産まれるようになりましたか?」
小走りでやって来たキンジローにシロミが先回りして言った。
キンジローは持っていたタブレットの画面を見せた。
「正解! シロミさんの言うとおりだ。放送が途切れていたオーストラリア人のコンテンツが再開された」
「それってどういうこと?」
「死んだ人間が生き返ったんだ」
「どうやって?」
「それはまだわからない。ただエクストラの内容が不明のまま死んだので、もしかしたら復活とか不死身の能力とも考えられる。それともう一つ……」
そこでキンジローは言葉を切り沈黙した。
「おいおい間を取りすぎ。テレビならカットされるよ」
遠慮なくアキ子が突っ込んだ。
「本部長にはまだ伏せるように言われたけどどうせバレるから言うか」
キンジローは吹っ切れたように息を吐いた。
「死んでしまった転移者の責任というか失われてしまった一億人の肩代わりできるとわかった」
「おおー」
拍手が起きた。
「ただし命がけだ。つまり引き受ける側の一億人の未来を失うリスクがある」




