スウォーマ
翌朝けたたましい警鐘の音で俺は目を覚ました。
またグレーウルフが襲ってきたのかと飛び出してみると、朝焼け空を陽炎のようなものがゆらゆらと形を変えながら迫っていた。
「スウォーマだ」
「とんでもない大群ね」
「子供たちを避難所へ」
「ええ」
ダイ夫婦はじめ移住組も慌てふためいていた。これはどうやら尋常ではないらしい。
スウォーマは空飛ぶスライムといえばわかりやすいか。薄くなって空を漂うように移動するのだが群れる習性があり、大型の獲物には合体して襲いかかるらしい。
弾むでもなく潰れるでもなく落下の勢いをころして降り注いでくる。一匹ずつは手の平サイズだが地上で次々と合流しあちこちでコタツぐらいの大きさまで膨れ上がっていた。
なんだかゲームで見たような場面だ。
「うわーっ!」
見張り台の若者が足を食われた姿で転げ落ちてきた。近くの隊員が松明の炎を押し当ててスウォーマを退治する。
パシャリと俺の頭にもスウォーマが落ちてきた。
「うひゃっ」
ドロリとした粘液がツバから垂れてくる。
「心配するなツノに裂かれて死んだよ」
ダイさんが肩を叩いて教えてくれる。
ケンちゃん特製ヘルメットに助けられた。
ありがとね。
「全員屋根の下に入れ!」
ケンドー隊長の指示がとぶ。
とにかくスウォーマが落ちきるまでは戸外に出られなかった。
スウォーマは油分でもあるのか表面を薄い虹色で彩り歩くくらいの速度で這いずってくる。
小さい個体なら切り刻めば死ぬがある程度の大きさになるとダメージが入らなくなる。
アグネスさんが電撃を放つ音がこだました。どうやらこの建屋の裏手あたりで戦っているらしい。
大きくなったスウォーマ同士がくっつきはじめた。これはまずいかもしれない。
地面を覆いつくしたら孤立してしまう可能性があった。
忍び寄ってくるスウォーマを踏み潰す。フィッシングブーツ履いてて良かったよ。
見張り台の若者の足は爛れていた。潰れて粘液状態になると無害だが生きているスウォーマに包まれると消化液が分泌されるようだ。
ドチャリと軽自動車サイズのスウォーマが落ちてきた。屋根の上で合体を繰り返していたみたいだ。
「くそ、窓からも入って来やがった」
板きれで塞いだだけの窓からヌルヌルとはみ出してくるスウォーマをチュウさんが棍棒で叩き潰した。
アンズさんやケンちゃんたちは大丈夫だろうか。
昨日といい今日といいここが未開拓だった理由がわかった気がする。
ブーツを這い上がってきたスウォーマをショウさんが松明で払ってくれた。
「このままじゃジリ貧だ。まずアグネスたちと合流するぞ」
ケンドー隊長を先頭に先遣隊の若者たち、お父さん軍団と続く。俺は例によって殿だ。ビリ、ドベともいう。
建物の中を通って反対側に出ると向かいの2階部分にアグネスたち女性隊員はいた。すでに路地はスウォーマが川のように埋めつくしアグネスたちの建物に流れ込んでいた。
「アグネス! 電撃はまだ出せるか!」
「あと2、3発で尽きそう! スウォーマが階段を上りはじめたわ!」
これは一刻の猶予もなかった。
それにしてもなぜあちらの建物にばかりスウォーマは流れ込んでいるのだろう?
そもそもスウォーマはどうやって獲物を探知しているのか? 視覚はなさそうなので匂い? それとも体温?
上空から獲物を襲うとなると体温かもしれない。
一人だけ肌の露出面積の広いお姉さんがいるのでその可能性が高かった。
それに合体してしまうと動きの方向が制限されるのかもしれない。
「火を使いましょう」
俺は提案して荷物から酒瓶を何本か取り出した。
「火炎瓶か?」
「その中身の油です」
なんにせよ火に弱いのは確かなので木切れやそこら辺に生えている枝葉を刈っては油を振りかけて着火していく。
ただの油ではない、粘性をもたせ燃焼時間をのばす工夫をした特別製だ。たちまち炎の壁がスウォーマをいくつにも分断した。
アグネスの雷が落ちてスペースを確保すると続々と飛び降りてくる。若いって凄い。1メートルの高さでも捻挫する自信があるわ。
幸いスウォーマの雨はもう止んでいた。
燃料となる草木はどこにでもあるので炎の壁を作りつつスウォーマの中に取り残された隊員を回収しながら避難所をめざした。
そろそろ油が残り少なくなってきたのでガソリンを酒瓶にアポーツする。これでしばらくアポーツは使えないが仕方ない。
炎と電撃で血路を開いていく。アグネスさんももう残弾ゼロだ。
避難所はあの壊れた鳥居の向こうにあるらしく参道から拝殿のような遺跡を越えるとかつての本殿だろう小さいピラミッドが屹立していた。ピラミッドは泉の真ん中にありスウォーマはまだ見当たらない。
どうやって渡るのかと思ったら浮橋だった。
アンズさんがピラミッドの中段あたりの穴から出てきてロープを投げ受け取ったダイさんたちが浮橋をたぐり張り寄せていく。
そういえばピラミッドの内部構造が大昔の出雲大社に似ているという都市伝説を聞いたことがある。
神社とピラミッド、そうおかしな取り合わせではないのかもしれなかった。




