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短編怪奇談  作者: 森の漢
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【玄関の呼び鈴③鏡の設計者】

― The Designer of Reflection ―


(『玄関の呼び鈴』三部作・完結編)



第一章 ──繰り返す街


 朝になっても、街は変わらなかった。

 空気は薄く、太陽の光は少しだけ鈍い。


 道を歩く人々は笑っているが、

 彼らの足音は、どれも同じリズムで響いていた。


 「パタン、パタン、パタン……」


 まるで一つの録音データを再生しているように。


 大隈詩おおすみ うたやはその中を歩きながら、

 手にした封筒を見つめていた。


 > 『あなたは戻れた。

 >  けれど、あなたが戻った世界は、もう“中”ではない。

 >  あなたがいる場所は、境界そのものです。』


 ──差出人は、

 「設計者アーキテクト」と名乗る者だった。



第二章 ──設計者の住所


 手紙の裏には住所があった。


 「千代田区〇〇三丁目9−0 反響研究所」


 ネットで調べても、そんな場所は存在しない。

 だが地図アプリを開くと、

 その地点に“ピン”が刺さっていた。


 詩は吸い寄せられるように向かった。


 建物は古びたビルの地下にあった。

 プレートには確かに「反響研究所」と刻まれている。


 中に入ると、白い廊下。

 壁には、何枚もの鏡が掛けられていた。


 どれも微妙に歪んでいて、

 映る自分が“ほんの少し違う”。


 笑っていたり、怒っていたり、泣いていたり。


 どれが本当の顔か、もうわからない。



第三章 ──研究所の男


 奥の部屋で、白衣を着た男が待っていた。


 年齢は五十代ほど。

 顔は穏やかだが、瞳の奥が光を反射しない。


 「ようこそ、大隈詩くん。」


 詩は言葉を失った。

 その男の声は──自分と同じ声だった。


 「君は今、“第三層”にいる。

  内でも外でもない。

  観測する側の層だ。」


 詩は震える声で問う。

 「……“設計者”って、あんたか?」


 男は微笑んだ。


 「私は“設計者”ではない。

  私は、“呼び鈴”の試作体だよ。」



第四章 ──呼び鈴の正体


 男は棚から一冊の古いノートを取り出した。


 ページには、複雑な回路と図面。

 中央に「反響装置(Echo Device)」と書かれている。


 「人の意識は、常に“内”と“外”に分かれている。

  本来ひとつだった存在を再接続するために、

  我々は“呼び鈴”を作った。」


 「再接続……?」


 「そう。

  君が押したあのボタンは、ただのインターホンじゃない。

  “自分自身を呼ぶ装置”だ。」


 男はゆっくりと笑う。


 「だが、ほとんどの人間は自分を受け入れられなかった。

  だから、鏡の世界に閉じ込められたまま、

  永遠に呼び続けている。」


 詩は息を呑んだ。

 「……じゃあ、俺は?」


 「君は、成功した最初の被験者だ。」



第五章 ──試作体の願い


 「君の中と外が融合しかけている。

  だから君は、どの層にも属せない。」


 男の声は静かだった。

 「君が完全に統合されると、鏡の構造が崩壊する。

  “世界”という概念そのものが、ね。」


 詩は後ずさりした。

 「ふざけるな……。俺はただ、元に戻りたいだけだ!」


 男は微笑んだ。


 「戻るには、ひとつだけ方法がある。

  “設計者”を殺すことだ。」


 「……それは誰なんだ?」


 男は鏡の方を指差した。

 「そこにいるよ。」


 詩が振り返ると、

 鏡の中の自分が、ゆっくりと口を開いた。


 > 「やっと、気づいたか。」



第六章 ──鏡の設計者


 鏡の中の“詩”は笑っていた。


 「お前が押したボタンで、俺は生まれた。

  呼び鈴の仕組みを作ったのは──“お前”自身だ。」


 映像が脈打つように歪む。

 研究所の男の姿も、鏡の中の詩の姿も、

 同じ輪郭に重なっていく。


 「この世界は、お前が作った“構造”なんだよ。

  外に出たいと願った瞬間、

  お前は“外”そのものになった。」


 詩の視界が白く裂けた。


 無数の鏡が砕け、

 反射する自分が何百人も現れた。


 「うたや。戻るか? それとも創るか?」


 どこからか声がした。


 詩は血のように赤いボタンを見つけた。

 ──あの“呼び鈴”と同じ形。


 指を伸ばす。


 ピンポン。



第七章 ──反転


 音が鳴った瞬間、

 全ての鏡が暗くなった。


 静寂。


 やがて、ひとつの画面に映像が浮かぶ。


 普通のリビング。

 普通の夜。


 ソファに座る男。

 画面の中の彼が、こちらを見た。


 「……俺は、大隈詩。」


 その声と同時に、

 詩の身体が透けていく。


 自分の意識が画面の中へ吸い込まれていく感覚。


 最後に聞こえたのは、

 外から鳴るインターホンの音だった。


 ピンポン──



終章 ──“中”にいる誰かへ


 映像の最後に、文字が現れた。


 > 『反響研究所・設計完了』

 > 『実験体:OOSUMI U. 統合率:100%』

 > 『次の呼び出しを開始します──』


 画面が暗転し、

 再び玄関のカメラが映った。


 誰もいないポーチ。

 だが、音だけが響く。


 ピンポン。

 ピンポン。

 ピンポン。


 そして、カメラの奥。


 あなたの顔が、ほんの一瞬だけ、

 映った。



【終】


『鏡の設計者 ― The Designer of Reflection ―』

(玄関の呼び鈴 三部作・完結)


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