表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編怪奇談  作者: 森の漢
6/12

【玄関の呼び鈴②ポストの手紙】

― Mirror Outside ―


(『玄関の呼び鈴』続編)



第一章 ──外に出た男


 気がつくと、雨が降っていた。


 玄関の外。

 ドアは閉まっている。

 手を伸ばしても、ノブに触れられない。


 まるで、自分の存在がそこに認識されていないかのようだった。


 「……なぁ、開けてくれ」


 声を出しても、音が自分に跳ね返るだけ。

 家の中では、もうひとりの“自分”が静かに動いていた。

 その背中は、紛れもなく 大隈詩 のものだ。


 だが──あいつは笑っていた。


 それは、詩が生涯一度も浮かべたことのない笑い方だった。



第二章 ──世界の継ぎ目


 雨はやまず、夜が続いていた。

 道を歩くと、見慣れた町が少しずつ違って見える。


 信号は点いているが、車は通らない。

 家々には灯りがあるが、人影はない。


 歩いても歩いても、

 町の風景がゆっくりループしているように感じた。


 時計を見た。

 午前2時12分。


 ……あの呼び鈴が鳴った時刻のまま、

 針が止まっていた。


 「俺は……“外”に出たのか?」


 そのとき、足元に何かが落ちているのに気づく。


 濡れた封筒だった。

 ポストのマークが描かれている。


 裏には、自分の名前があった。

 「大隈 詩」宛。



第三章 ──ポストの手紙


 封を切ると、紙が一枚。


 > 『君は中と外を間違えた。

 >  君の影は家の中に残っている。

 >  君が戻りたければ、

 >  “ポストの中”を覗きなさい。』


 それだけ。

 インクが滲んでいて、最後の行だけ赤い。


 「ポストの中……?」


 詩は自分の家の前に戻った。

 ポストの口を覗くと、暗闇の奥で何かが動いた。


 目だった。


 真っ黒な瞳が、こちらをじっと見上げている。


 手を入れようとした瞬間、

 中から“逆に”腕が伸びてきた。


 冷たく、湿った手。


 それはポストの中の“詩”だった。



第四章 ──ポストの中の家


 引きずり込まれた瞬間、

 世界が反転した。


 狭い通路。金属の壁。

 奥に、小さな“ドア”がある。


 覗くと──見覚えのあるリビング。


 だが、家具はすべて鏡のように左右反転していた。

 そしてテーブルの上には、もうひとつの封筒。


 > 『内側の君が眠り始めている。

 >  完全に溶ける前に、元に戻らなければならない。

 >  ただし、戻るには“代わり”が必要だ。』


 代わり?

 誰の?


 詩が顔を上げると、ソファに“誰か”が座っていた。

 白い服、髪の長い女性。


 こちらを見て微笑んだ。


 「やっと、来たのね──うたやさん。」



第五章 ──記憶の女


 彼女は自分の名前を知っていた。


 「あなた、覚えてないの?

  前にも、来たのよ。

  この世界に。」


 「前……?」


 女は小さく笑った。

 「外に出たのは、今回が初めてじゃないの。」


 詩の頭の中に、断片的な記憶が浮かぶ。


 鏡の前に立つ自分。

 インターホンを押す手。

 無表情な顔。


 ──あれは全部、自分だった。


 「あなたは“呼び鈴”に囚われた人。

  外と内を繰り返す存在。」


 女の声は優しいが、どこか底が冷たかった。


 「戻りたいなら、代わりを見つけて。

  次の“訪問者”を。」



第六章 ──訪問者


 その夜、再びポストが鳴った。

 カタン、という音。


 覗くと、一枚の新しい手紙。


 > 『次の夜、呼び鈴が鳴る。

 >  出なかった者が、“代わり”になる。』


 詩は震えた。

 それはつまり──誰かを犠牲にしなければ戻れないということだ。


 窓の外を見た。

 隣家の老婦人がポーチの掃除をしている。


 詩の手が震えた。

 ドアの前に立ち、

 指を伸ばす。


 ピンポン。


 ──押した。



第七章 ──反響


 老婦人の家の中で、鈴の音が響いた。

 しばらくして、カーテンが揺れる。


 彼女がドアを開けようとした瞬間、

 世界がひずみ、空気が反転する感覚。


 詩は息を呑み、後ろに倒れた。


 視界が白く弾ける。


 気がつくと、

 玄関の中に立っていた。


 家の中──

 “戻れた”のか?


 リビングの時計は動いていた。

 午前3時10分。


 時間が進んでいる。


 「……終わったのか」


 安心した瞬間、ポストの中から音がした。


 カサ……カサ……


 封筒が一枚、投げ込まれた。


 > 『おかえりなさい。

 >  あなたの代わりに、外に出た人へ感謝を。』


 裏には、震える筆跡で名前が書かれていた。


 「大隈 詩」



終章 ──外の詩


 その夜。

 町の防犯カメラが、ある奇妙な映像を記録した。


 真夜中の道路を歩く人影。

 髪が濡れ、顔はぼやけている。


 手には白い封筒。

 ポストの前で立ち止まり、

 ゆっくりとそれを投函する。


 その封筒には──

 「大隈 詩 宛」と書かれていた。


 やがてその人物は、カメラの視界から消える。

 だが最後の一瞬、

 画面に“もう一人の大隈詩”が重なって映っていた。


 まるで、鏡の中から覗くように。



【終】


『ポストの手紙 ― Mirror Outside ―』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ