【鏡のアカウント2】
― フォローリクエスト ―
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第一章 ──消えた社員
広告代理店「セブンスリンクス」。
そのオフィスの片隅に、ひとつの空席があった。
そこには、以前まで 大隈詩 が座っていた。
彼は、二週間前に突然姿を消した。
会社の説明は「体調不良による長期休職」。
しかし、誰もそれを信じていなかった。
理由はひとつ。
──詩のSNSが、今も更新され続けているからだ。
毎晩0時ちょうど。
「mirror_utaya」というアカウントから投稿が上がる。
タイトルは決まってこうだ。
> 「#今日の鏡」
そこに写るのは、見覚えのない部屋。
左右が反転した家具、窓の外には光のない夜景。
その中央で、笑っているのは間違いなく大隈詩やだった。
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第二章 ──新人・瀬川美月
俺の名前は 瀬川美月。
大隈詩やの後任として、この会社に採用された新人デザイナーだ。
入社初日。
詩やの使っていたデスクに案内され、
そこに残されていたノートPCを開くと、
壁紙が真っ黒な鏡の画像だった。
ファイルの中に「MIRROR_DATA」というフォルダがある。
不安を覚えながら開くと、SNSのリンクがずらりと並んでいた。
その一番下のURLに、見慣れない文字列。
mirror_utaya
クリックした瞬間、画面が暗転。
黒いモニターに、ぼんやりと人の顔が浮かび上がる。
大隈詩だった。
彼は笑いながら言った。
> 「後任が来たんだね。君も、“フォロー”するんだろ?」
画面が勝手にスクロールし、アカウントの紹介文が表示される。
> 「#新しい鏡を募集しています」
その文字を見た瞬間、背筋に冷たいものが走った。
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第三章 ──フォローリクエスト
その夜。
帰宅してスマホを確認すると、通知が一件。
「mirror_utaya」からフォローリクエスト。
怖くて拒否しようとした。
だが、指が動かない。
まるで意志を奪われたように「承認」を押してしまった。
直後、DMが届く。
> 「#ありがとう、美月さん」
> 「#あなたの鏡を見せてください」
スマホのインカメラが勝手に起動した。
画面には俺の顔。
その背後に、何かが動いた。
黒い影。
輪郭が揺れ、鏡のように反射する人影。
そいつが、俺の肩越しに覗き込んで笑った。
――それは、大隈詩の顔だった。
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第四章 ──消える社員たち
次の日、会社に行くと、経理の木下さんが休んでいた。
同僚の優斗が言う。
「昨日、木下がインスタに変なストーリー上げてたんだよ」
「鏡の前で笑ってる動画。……で、今朝にはアカウントごと消えてた」
その瞬間、俺のスマホが震えた。
フォロワーが一人減っている。
確認すると、プロフィールアイコンが灰色に変わり、
やがて“鏡”のマークに変わった。
次々にフォロワーが消えていく。
最後に残ったのは、ひとつのアカウント。
mirror_utaya
DMが届いた。
> 「#君の世界も反転を始めた」
オフィスのガラスに映る自分の姿が、
左右逆に動き始めた。
時計の針が、逆回転する。
社員たちの会話が、逆再生のように耳に流れ込む。
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第五章 ──反転のオフィス
夜。
誰もいないオフィスに戻った。
詩やのデスクの下に、黒い手鏡が落ちていた。
裏面には、英語の刻印。
> “FOLLOW ME”
拾い上げた瞬間、鏡の表面が揺れた。
オフィスが、反転した。
壁の時計の針が左回りに動き、
パソコンのモニターには、大隈詩やが立っている。
「やあ、美月」
「君のフォロワー数、ゼロになったね」
詩やの背後には無数の鏡が並び、
それぞれの鏡の中に、見覚えのある社員たちが閉じ込められていた。
みんな笑っている。
“鏡の向こう”で、笑い続けている。
詩やが手を差し出した。
「次は君が、“こちら側”を管理する番だ」
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終章 ──新しいアカウント
翌朝。
セブンスリンクスの公式SNSが更新された。
投稿のタイトルはこうだった。
> 「#ようこそ美月」
投稿主は、mirror_mizuki。
フォロワーは一人だけ。
mirror_utaya。
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【あとがき】
“フォロー”とは、本来「誰かのあとを追うこと」。
だが、SNSの中では、その意味はねじれている。
フォローとは、“誰かに見られ続ける契約”だ。
見られることで存在が証明され、
見られなくなった者は、鏡の向こうに沈む。
あなたのフォロワー一覧にも、
名前の横に「mirror」がついたアカウントがいないだろうか?
もし、いたら――
決して“承認”してはいけない。




