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短編怪奇談  作者: 森の漢
3/12

【鏡のアカウント2】

― フォローリクエスト ―



第一章 ──消えた社員


 広告代理店「セブンスリンクス」。

 そのオフィスの片隅に、ひとつの空席があった。


 そこには、以前まで 大隈詩おおすみ・うたや が座っていた。

 彼は、二週間前に突然姿を消した。

 会社の説明は「体調不良による長期休職」。

 しかし、誰もそれを信じていなかった。


 理由はひとつ。

 ──詩のSNSが、今も更新され続けているからだ。


 毎晩0時ちょうど。

 「mirror_utaya」というアカウントから投稿が上がる。

 タイトルは決まってこうだ。


 > 「#今日の鏡」


 そこに写るのは、見覚えのない部屋。

 左右が反転した家具、窓の外には光のない夜景。

 その中央で、笑っているのは間違いなく大隈詩やだった。



第二章 ──新人・瀬川美月


 俺の名前は 瀬川美月せがわ・みづき

 大隈詩やの後任として、この会社に採用された新人デザイナーだ。


 入社初日。

 詩やの使っていたデスクに案内され、

 そこに残されていたノートPCを開くと、

 壁紙が真っ黒な鏡の画像だった。


 ファイルの中に「MIRROR_DATA」というフォルダがある。

 不安を覚えながら開くと、SNSのリンクがずらりと並んでいた。

 その一番下のURLに、見慣れない文字列。


 mirror_utaya


 クリックした瞬間、画面が暗転。

 黒いモニターに、ぼんやりと人の顔が浮かび上がる。


 大隈詩だった。


 彼は笑いながら言った。

 > 「後任が来たんだね。君も、“フォロー”するんだろ?」


 画面が勝手にスクロールし、アカウントの紹介文が表示される。


 > 「#新しい鏡を募集しています」


 その文字を見た瞬間、背筋に冷たいものが走った。



第三章 ──フォローリクエスト


 その夜。

 帰宅してスマホを確認すると、通知が一件。


 「mirror_utaya」からフォローリクエスト。


 怖くて拒否しようとした。

 だが、指が動かない。

 まるで意志を奪われたように「承認」を押してしまった。


 直後、DMが届く。


 > 「#ありがとう、美月さん」

 > 「#あなたの鏡を見せてください」


 スマホのインカメラが勝手に起動した。

 画面には俺の顔。

 その背後に、何かが動いた。


 黒い影。

 輪郭が揺れ、鏡のように反射する人影。


 そいつが、俺の肩越しに覗き込んで笑った。


 ――それは、大隈詩の顔だった。



第四章 ──消える社員たち


 次の日、会社に行くと、経理の木下さんが休んでいた。

 同僚の優斗が言う。


 「昨日、木下がインスタに変なストーリー上げてたんだよ」

 「鏡の前で笑ってる動画。……で、今朝にはアカウントごと消えてた」


 その瞬間、俺のスマホが震えた。

 フォロワーが一人減っている。

 確認すると、プロフィールアイコンが灰色に変わり、

 やがて“鏡”のマークに変わった。


 次々にフォロワーが消えていく。

 最後に残ったのは、ひとつのアカウント。


 mirror_utaya


 DMが届いた。

 > 「#君の世界も反転を始めた」


 オフィスのガラスに映る自分の姿が、

 左右逆に動き始めた。


 時計の針が、逆回転する。

 社員たちの会話が、逆再生のように耳に流れ込む。



第五章 ──反転のオフィス


 夜。

 誰もいないオフィスに戻った。


 詩やのデスクの下に、黒い手鏡が落ちていた。

 裏面には、英語の刻印。


 > “FOLLOW ME”


 拾い上げた瞬間、鏡の表面が揺れた。

 オフィスが、反転した。


 壁の時計の針が左回りに動き、

 パソコンのモニターには、大隈詩やが立っている。


 「やあ、美月」

 「君のフォロワー数、ゼロになったね」


 詩やの背後には無数の鏡が並び、

 それぞれの鏡の中に、見覚えのある社員たちが閉じ込められていた。

 みんな笑っている。

 “鏡の向こう”で、笑い続けている。


 詩やが手を差し出した。


 「次は君が、“こちら側”を管理する番だ」



終章 ──新しいアカウント


 翌朝。

 セブンスリンクスの公式SNSが更新された。


 投稿のタイトルはこうだった。

 > 「#ようこそ美月」


 投稿主は、mirror_mizuki。

 フォロワーは一人だけ。


 mirror_utaya。



【あとがき】


“フォロー”とは、本来「誰かのあとを追うこと」。

だが、SNSの中では、その意味はねじれている。

フォローとは、“誰かに見られ続ける契約”だ。


見られることで存在が証明され、

見られなくなった者は、鏡の向こうに沈む。


あなたのフォロワー一覧にも、

名前の横に「mirror」がついたアカウントがいないだろうか?


もし、いたら――

決して“承認”してはいけない。


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