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前編

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 好みに合わないと感じたなら、無理せずブラウザバックすることをおすすめします。

 これ、ガチなやつですので。


 ソード&マジックオンライン。

 フルダイブ型異世界ファンタジー風MMORPG。

 近年開発された、五感を再現することに成功したVR機器を利用して、拡張現実世界に意識を飛ばし、まるで現実とは異なる剣と魔法のファンタジー世界を楽しめるゲームの1つ。


 タイトルがシンプルなだけに、世界観も分かりやすい。それでいて、プレイ感覚はリアルで充実感が半端ない。


 このゲームはあくまで、剣と魔法……武器や魔法による戦闘が重視されていて、現実での運動神経がよくない人でも気軽に飛んだり跳ねたりしながら戦うことができるので、とても人気のゲームだ。


 素材を集めてのものづくりは自分ではできず、NPCにお願いする形なので、そこに不満を持つ人もいる。


 ものづくりよりも超人的な動きで戦場を駆け回り、強敵を仲間たちと力を合わせて倒すのが性に合っているので、チヒロには不満などなかった。


 この、ソード&マジックオンラインで最近アップデートされて実装されたマップがあり、最深部にいるボスがまた、でたらめな強さを持っているやつだった。


 少数のプレイヤーではまず勝てず、数を揃えて挑むと、その分強くなると噂されていた。

 アップデートで新たに得られるようになった情報と、実際に戦闘して分かってきた事実を突き合わせると、以下となった。


・ボスのHPは、ボス戦参加人数 × ボスの最小HP。

・ボスのステータスも、ボス戦参加人数が多いほど増える。

・全体攻撃は後衛も必ずダメージを受ける。

・物理攻撃無効バリア、魔法攻撃無効バリアを展開する。物理バリアには魔法攻撃を、魔法バリアには物理系のスキルを撃ち込まないとバリアを破壊できない。


 などがあり、ソロでは絶対に無理。多人数だと、人数が増えるほどに全体攻撃のダメージも増えて後衛魔法職では一度すら耐えられないほどになる。

 そのため、いかに少ない人数で、全体攻撃をやり過ごすかが鍵になるといわれていた。


 

 黒髪少女剣士アバターのチヒロ。

 赤髪少年魔術師アバターのアキ。



 クランという集団に属していない2人は、ゲーム世界でよくつるむこともあり今では親友とも相棒とも呼べる仲になっていた。その2人が、たった2人で挑むことこそ最適解であると判断し、何度もボスに挑んでは倒され、ボスの行動パターンや各攻撃の予備動作を研究していった。




 ……その結果、




 幾度目かのボス戦。

 重い金属製の防具は可能な限り排除して、布製品を身にまとい最低限の防御力を確保しつつ、装備の効果で速度等のステータスを上昇させる。

 ボスの攻撃は、普段より身軽になったチヒロが引きつけ、すべて回避する。

 一定時間ごとに繰り出される全体攻撃は、


「ヒロっ、全体攻撃が来るぞ!」


「分かってる! 今行くぞアキ!」


 チヒロはアキのそばに駆けつけながら、剣を腰の鞘に納刀。

 立派な杖を持ち魔法使いの法衣を身にまとうアキに抱きつき、抱き上げる。

 アキもまた、振り落とされないようチヒロに抱きつく。


 ボスが雄叫びをあげ、柱のように巨大な蛮刀を振り下ろすと、空から赤黒い色の巨大な剣が豪雨のように降り注いでくる。


「《クイックステップ》!」


 空から降り注ぐ赤黒い剣は、実際は剣の形をしたオーラで、地面に落ちると即座に消えてしまう。それを利用して、相棒を抱き上げ速度を上げて完全回避を実行する。

 そうはいっても、空を埋め尽くすほどの無数の赤黒い剣が落ちてくるタイミングはランダムで、毎回違う。

 ただ、剣が落ちた周辺は、次の剣が落ちてくるまでのほんの数秒間、安全地帯になる。わずか人1人分程度の範囲だが。

 そのため、全体攻撃が発動したら空を見上げ、落ちてくる剣の高低差を瞬時に判断し回避パターンを瞬時に構築し、足を止めず回避し続けることでやり過ごす。

 それがどれほど難しいかは、2人のボスへの挑戦回数がもうすぐ3桁に達することから、多少でも想像できるだろうか。


「よし、回避できた!」


「次は蛮刀を地面に刺して物理バリアだから俺の番だな。ほら、スタミナドリンク」


 装備やアイテムを所持する数に制限はないものの、所持アイテム数が増えることでプレイヤーの速度に制限がかかる仕様になっている。

 そのため、前衛物理アタッカー兼回避タンクのチヒロは、回復アイテムを持つことすら難しくなっている。

 さらに、回避を補助するステップ系のスキルは少しのMPとスタミナを消費してしまう。

 スタミナが減れば動きも鈍くなり、回避もしにくくなる。疲れた体では攻撃で与えるダメージも減ってきてしまう。

 全体攻撃後のボスの硬直時間は、絶好の攻撃タイミングでもあり、回復のための休憩時間でもあった。

 回避するために回復アイテムすらろくに持っていないチヒロに、自力での回避を断念したアキがその分回復アイテムを大量に持って、チヒロをサポートしていた。


「ありがと。……んっ……んくっ……んっ……ぷはぁ」


「物理バリア確認。魔法行くぞ。《ファイヤーバード》」


 アキが突き出した杖の先に魔法陣が展開され、火の鳥が姿を現す。

 火の粉をまき散らしながら羽ばたきボスへと突撃する火の鳥。

 あらゆる物理攻撃を防ぐボスの物理バリアも、威力が高い魔法を当てれば簡単に突破できる。また、物理バリア使用中は魔法攻撃が弱点になるので、火の鳥の突撃で目に見えてHPが減ったボスは、火の鳥の追加効果で火だるまになり地面を転げ回る。


 火だるま中は追加ダメージが発生するが、大ダメージを与えた以上、ボスのヘイト、つまり敵意が魔術師のアキに集中してしまう。

 アキは、防御も回避も捨てて、後衛アタッカーとサポート役をしているために、魔法攻撃の後はチヒロの物理攻撃でアキへのヘイトを奪い返さなければならない。

 相棒を守るために、疾風のように駆け抜けて、飛び上がり、


「《流星剣》!」


 空中から急降下しながら多段ヒットする剣スキルを繰り出し、


「《竜巻斬り》!」


 大振りの横薙ぎで竜巻を発生させ多段ヒットする剣スキルに繋げる。


「《真空斬り》!」


 さらに、高速の斬撃で真空波を発生させぶつける剣スキルを繰り出す。

 この真空波は、顔などの弱点に当たるとふらつきを起こせる。つまりは、スタンを発生させることができる。たとえスタンしなくてもヘイトを大きく稼ぐことができる技なので、連続で繰り出した多段ヒット技と合わせて、無事ボスのヘイトを奪うことができた。

 ボスは振り下ろし、横薙ぎ、突き、足払い、蛮刀で地面めった打ちなどを繰り出してくるが、回避に特化した装備のおかげで難なく(かわ)しきる。

 蛮刀を地面に突き刺して、引っこ抜く際に発生する石つぶてが範囲攻撃になるが、立ち回りに気を配りアキに届かないような位置取りをすれば、それも問題としていない。

 その間も、回避しながら接近し斬りつけていく。

 物理攻撃の回数が一定数に達すると、蛮刀を地面に突き刺し物理バリアを展開するし、魔法攻撃の回数が一定数に達すると、蛮刀を天に掲げ魔法バリアを展開する。

 その度に物理や魔法の大技を繰り出してバリアを破壊し、ヘイトがアキに向かえば多段ヒットスキルとスタンスキルを駆使してヘイトを奪い返す。

 

「時間だ、ヒロ!」


「オーケー! アキ!」


 全体攻撃は、一定時間ごとに繰り出される。その経過時間は正確で、ボスはどんな状態からでも復帰して全体攻撃を繰り出すためのわずかな溜め時間に移行する。

 このとき、《火の鳥》などで火だるまになっていても構わずに全体攻撃を繰り出してくるわけだが、溜め時間に移行する前の予備動作に入った時点で状態異常と能力低下(デバフ)が打ち消されてしまう。

 そのため、ボスが動きを止めるこの瞬間は、攻撃のチャンスではなく回避の体勢を整える準備時間くらいにしかならない。


 幾度目かのボスの咆哮。それとともに、蛮刀が振り下ろされる。

 空から赤黒い色の剣がボスを中心に、ボス戦領域内全体に降り注ぐ。

 このゲームは、ボス戦が始まると専用フィールドに転移する仕組みになっている。

 その領域はとても広く、ゲームのアバターの能力値をもってしても、端から端まで移動するには数分かかる。

 そのため、回避スキルや速度を上げて攻撃範囲から逃れるなんてことはできない。


 複雑に張り巡らされたクモの巣を、踏み外さないように、正確な足さばきで、慎重に、かつ、素早く。


 10秒間に及ぶ、戦闘領域すべてを覆い尽くす無数の赤黒い剣状のエネルギー。

 全体攻撃1度につき、ヒット数は1回だ。

 ただ、その1回で2人は確実にやられてしまう。

 だから、チヒロは神経をすり減らし、相棒の命をも背負って、縦横無尽に駆け回る。

 その間、アキはチヒロの集中を乱さないように、目を閉じ、息すらも止め、荷物と化して微動だにしない。……が、ここにきて、魔法の詠唱を始めていた。

 全体攻撃後の硬直時間を利用して、強力な一撃が撃ち込まれた。


「《天雷》!」


 天上に発生した無数の雷が収束し、光の柱のようになってボスへと落ちる。


 落雷の何十倍もの電撃、すさまじい熱量、まばゆい閃光に、物理的な衝撃波と轟音。


 先ほどの《火の鳥》よりさらに大きなダメージに、ふらついたボスは、雷属性魔法の追加効果の感電でスタンが発生し一時的に動けなくなる。感電して動けなくなったボスに対して、アキは次の魔法を起動する。

 長い詠唱時間を必要とするその魔法は、アキの持つ最大の攻撃魔法。

 感電によるスタンから復帰したボスは、ヘイトがアキに向かうはずだが、決められた行動パターンの1つとして全体攻撃後の物理障壁を起動する。

 その、展開されたばかりの物理障壁は、起動したアキの魔法でさっそく破壊された。


「《プロミネンス》!」


 ボスの頭上に疑似太陽が発生し、疑似太陽の表面から真っ赤な炎が噴き出し弧を描き渦を巻いて、ボスへ降り注いだ。


 物理的な衝撃を伴わない純粋な熱量攻撃。

 ただしそれは、太陽の表面温度よりもよほど高く強い高熱。すべてを焼き尽くし塵すら残さない真紅の炎。


 これまでの挑戦で得られたデータと、《火の鳥》、《天雷》の威力、ボスの残りHPから考えて、アキはまだあと一手足りないとみていた。

 だから、相棒に声をかけようと息を吸う。だが、その間にもチヒロは駆け出していた。

 魔法の余波に巻き込まれないよう距離を取っていたチヒロは、これまでのボスへの挑戦で得た情報から、魔法バリアを展開することが分かっていた。

 あと一手を詰めるために、回避用として温存していたスキルを発動する。


「《縮地》!」


 チヒロの姿が消えてしまったと錯覚するほどの超高速で距離を縮める様子は短距離転移といえるほどで、その速度を丸ごと剣に乗せ、魔法バリアを展開して物理攻撃に弱くなるその瞬間に重ねて、


「《疾風(しっぷう)怒濤(どとう)》!」


 勢いを殺さず、駆け抜けながら剣を振り抜く。


 その一撃は、魔法バリアごとボスの身体を両断した。


 一呼吸分残心し、振り向いた時には、ボスの身体は光の粒子と化しいくつかのドロップアイテムを残して消滅した。



 自身と相棒のアキが2人で成し遂げた目の前の出来事がすぐには信じられず、しかし、戦闘が終わったことだけは理解すると、疲労が一気に押し寄せてきたチヒロは、剣をだらりと下げ荒い呼吸を整えようと大きくゆっくりと息を吸い、吐く。そんなチヒロに、駆け寄り抱き着くアキ。


「やったぞ! ヒロ! 俺たちは、成し遂げたぞ! たった2人で、最速攻略、ワールドレコードだ!」


 未だ呆然と立ち尽くすチヒロと、そんな相棒に抱き着き喜びを噛みしめるアキ。


 2人の視界に、テロップが流れる。




『高難度ダンジョン:忘れられた(やしろ) のクリアと、レイドボス:荒ぶる御霊(ミタマ)の討伐を確認。最小攻略人数は 2人 。ワールドレコード達成です』 




 それを見て、ようやく実感できたチヒロは、目の前の相棒を抱き返し、体を押し付け頬を重ねるほど密着して喜びを表した。




 この時はまだ、お互いの本当の姿を知らないままに。



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