第1話 遭遇
「今日も退屈な日常。こんな日常いっそのこと壊れてしまえばいいのに」
そんなことを思うのは、オフィスのパソコンに向かっている時だ。誰もが同じ顔をして、同じ作業を繰り返している。俺もその一人だ。
毎日、会社とアパートを往復するだけ。上司に叱責され、同期と適当に話を合わせ、定時を過ぎても帰れない生活。休日も特に何かするわけでもなく、ただ家でダラダラするだけ。
何かに挑戦しようとすら思えない。
でも、心の奥底では渇望している。もっと強烈な何かが欲しい。もっと、鮮烈で俺を塗り替えてしまう何かを。
そして、その「何か」は訪れた。ある夜血の匂いと共に。
その日、夜遅くまで残業していた俺はたまには気分転換にと、いつもと違う道を通って帰ることにした。息が白くなるほど冷えた空気の中突如裏路地から物音がした。
気になってその路地裏を覗き込むが、薄暗くてよく見えない。恐る恐る裏路地に踏み込む。
すると鉄臭い匂いと共に異様な光景が広がっていた。
血まみれの男が地面に倒れ、その隣に立つ影、その影は月明かりに照らされ、次第に色づき始める。
夜風になびく黒い髪の毛、肌は白くまるで雪化粧、瞳は鮮やかな赤色。返り血をあびたような赤。唇も赤いが、こちらは林檎のように赤黒い。その唇からは鋭い歯が見え隠れしている、そして完璧なスーツ姿。
普段とは様子が違うが俺は彼女を知っている。彼女の名は月形綾乃。会社の上司だ。




