第2話 旅じたく 8
読んでいただき、ありがとうございます。
次回の掲載は2024年7月11日です。
注意:作者がコメント欄を読むこと、またいかなる場合もコメントへ返信することはございません。読者の方のコミュニティーとして節度ある使用へのご理解に感謝いたします。
注意:この作品は 『小説家になろう』、『カクヨム』、『Novel days』に、同時掲載しております。
「魔女に見つからないかな」
ポチは小声で聞きました。
ポチはうんと小さかったころ、
この森の外の人間のいる街に住んでいました。
そこで人間にいじめられたことがあるので、
かれはひどくこわがりになってしまったのです。
でもこのまじめでおとなしく、人一倍おくびょうな犬は、
みんなが本当にきけんになった時は、
どうかするとだれよりも勇気ある行動をとることもあるのでした。
だからこそ今日もミルクを心配して、
ここまでついて来てくれたのです。
「だいじょうぶ。今は正午よ。
ふつうの魔女だったら今ごろ、ぐっすりねむっているわ」
ガーデンハウスの入口に手をかけて、
ポチの方をふり向きながらミルクが言いました。
「ふつうの魔女だったらね」
ミルクはふつうというところにみょうに力を入れて言いました。
二人が中へ入ると、そこにはだれもいませんでした。
ただストーブに火が入っていて、
ポットがその上でヒューヒューと白い湯気をはいています。
「すわって待ちましょう」
ミルクが中央に置かれたテーブルの席に、
勝手にこしかけながら言いました。
ポチはきょろきょろ辺りを見わたしながらそれにしたがいます。
ガラスばりのハウスからは、外の畑の様子がよく見えました。
とくに変わったところもなく、ただただ薬草が風にふかれて、
きらきらとかがやいているばかりです。
とつぜんポットのヒューヒュー言う音が止まりました。
火が消えたのかしらと二人がふり向こうとしてる間に、
テーブルに置かれたティーポットの口から白いじょう気が上がりました。
ティーポットにかってにお湯がそそがれているのです。
そうかと思うと、そのティーポットがひとりでにちゅうにいて、
目の前に置いてあったティーカップに
それぞれお茶をそそぎ始めたではありませんか。
これにはミルクもポチもびっくりして、
たがいに身をよせ合い、ふるえながらその様子を見ていました。