第1話 にじのかけら 11
「いつ見てもおもしろい形の家ね」
ミルクがケンの家を見上げて言いました。
このユニークな家の中は、いったいどうなっているのでしょうか。
ケンの家は、中がすべてふきぬけになっていて、かべ伝いにらせんをえがいてかいだんが取りつけられています。
そのとちゅうとちゅうに、イスの部屋やおふろ場、ベッドにしているハンモックなんかがせっちしてありました。
また、たけの高いテーブルがいくつも置いてあって、そこにはどれもめずらしいしょくぶつのはちがかざってありました。
てんじょうはガラスばりで、てっぺんが丸部屋になっています。
ケンはそこで研究したり、星や雲のかんそくをしたり、ろん文を書いたりするのです。
イヴが入口のドアをノックしました。
けれど、何の返事もありません。
ドアノブを回してみましたが、びくともしませんでした。
「かぎがかかっている。ケンちゃんは、まだねているんだわ」
ミルクが言うと、イヴがため息をつきました。
「しょうがないわね。
ケンちゃんはいつだっておねぼうなんだから。
それじゃあ、いいわ。
いつものまどから入ることにしましょう」
二人は家をぐるっと回って、まどから地面までのびているツタをさがし始めました。
ケンの家にかざってあるしょくぶつの中につたがあって、そのとても強いツタが一本だけまどからはい出して、そのまま外の地面までのびているのです。
ケンは上階から、わざわざかいだんでおりて表に出るのがおっくうな時は、いつだってそのツタを使ってまどから外へすべりおりるのでした。
そんなとても便利なツタなのですが、そのせいでどろぼうに入られたこともありました。
しかも一度ではなく二度もです。
でも二度とも、ケンは何も取られずにすみました。
彼の家にあるめずらしいしょくぶつや、星の写真や、雲の絵なんかに、ありがたいことにどろぼうは全然きょうみがなかったのですね。
どろぼう以外にもう一種類、友人でもないのにケンの家に勝手に上がって来る生き物がいました。
それはテントウ虫です。
こちらの方がケンにとってはなやみの種で、テントウ虫はしょっちゅう、特に秋から冬にかけてケンの家の中に上がりこんで来ます。
そしてかれの家で、まるで自分達の家ででもあるかのように、勝手気ままにふるまうのです。
テントウ虫がせんりょうするのは、決まって最上部にある例の研究室です。
それは日当たりがばつぐんでいつでもあたたかいためでしたが、ケンにとってもそこは家の中で一番大切な場所だったのですから、かれはこのまねかれざる客に普段から頭をかかえていたのでした。
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次回の掲載は2024年5月23日です。
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