詰問
「ギフトを使ったら殺す。分かったら頷け」
高圧的な態度を取り、恐怖で屈服させる。最初のやり方はこれが無難だろう。
俺は、一旦糸崎の頭から手を離し、代わりに首を掴んだ。糸崎はガチガチと震えながら頷いた。
「次。お前のギフトを説明しろ。 ……ここで嘘をついても殺す」
「わ、わた……私の……」
糸崎はどもり始めた。状況が状況だ。こうなるのも無理はないだろう。だけど、糸崎が喋り始めるのを悠長に待っている時間はない。それに、いずれは殺す事になる相手。遠慮する必要は本来は無い。
「手を出せ」
糸崎は、震えながらも恐る恐る手を差し出した。俺はその手を取り、小指を握り潰した。糸崎は叫び声を上げた。
「黙れッ! ……チャンスは残り4回だ。右手の指が全て潰れたら、お前の頭を潰す」
下唇を噛み、痛みを堪えている。かえって逆効果だったかも知れない。けれど、糸崎は案外早くに口を開いた。
「わ、私の! ギフトは……しゅ、《瞬間移動》です……!」
ふむ。こいつが逃げさえしなければ、俺が危機に陥る事は無さそうか。
「具体的に説明しろ」
「い、一度訪れた場所に瞬間移動……出来るみたいです!」
「そりゃ良いな。じゃあお前に連れてって貰えば───」
「しゅ、瞬間移動が出来るのは、私だけで……誰かを一緒に連れていくことは出来ない……」
……ま、そんな都合良く行く訳ないか。
「……ん? なら、お前だけ逃げれば良いじゃねぇか。俺は連れていけないんだろ?」
「ぎ、ギフトを使ったら、殺すって……」
そうか。そうだよな。俺の能力がどんなものか分からない以上、迂闊にギフトは使えないってか。
「そ、それに……誰かに掴まれていると、ギフトを使う事が出来なくて……」
こいつ、そんな事まで喋っちまうのか。黙ってればいいのに。でもいい事が聞けたぞ。俺がこいつに触れている以上、逃げられる心配は無いって事だ。
俺は、ヒューマンと唱えて腕と足を元の姿に戻した。そして、糸崎の手を強く掴んだ。簡単に外れないよう、恋人繋ぎで。
「ケホケホ……な、なんで……」
「苦しそうだったから。力、ほぼ入れてなかったんだけど、加減が難しいな」
さっきの言葉が本当なら、どこを掴んでも変わらない。なら掴みやすいところを掴むに越したことはない。
「怖がらせて悪かった。糸崎の友達を殺した事も……謝る」
……あれ、俺なんで謝ってんだ?
「どうして……どうしてそんな事したの……? それに、私の名前……」
そう俺に投げかけた糸崎の目からは涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「今は言えない」
そう答えると、糸崎は初めて俺と目を合わせた。
「相城……くん?」
「あぁ、そうだ。今気づいたのかよ?」
「戻って、来れたんだ……」
俺は驚いた。それと同時に、少し引いてしまった。糸崎は友達2人を殺した相手が戻ってきた事に、安堵した表情を浮かべたからだ。
「ごめんなさい……私たち、殺されて当然の事をしたよね……私も、皆を止められなかった。覚悟は、出来てる」
糸崎は、自身の生死を委ねるように目を瞑った。
「殺さない。糸崎は殺さないよ。他にも聞きたいことがあるんだ。それを話して欲しい」
糸崎は黙って頷いた。少し落ち着いたようだ。
「まずは、俺が生贄に捧げられた後の事が聞きたい」
「……分かった」
そう言うと、糸崎はおもむろに話しをし始めた。