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最初のターゲット

俺が再び降り立ったのは、夜の草原だった。辺りの草木が月明かりに照らされている。

「最悪な時間に来ちゃったな。いや、逆に人目に付かなくて好都合か?」

ともかく俺は、ギフト《探知》を発動させた。これも、女神に賜った能力2つと同様、使おうと思えば勝手に発動した。何気に初めて使った。あの空間は特別なものだったのか、ギフトを使うことは出来なかったからだ。


ギフトを発動すると、目の前にマップが表示された。このギフト、ただの探知なんかじゃない。この機能だけで、相当役に立ちそうだ。

マップ上には、クラスメートの顔がアイコンのように表示された。何だ。全員固まってるのかと思いきや、こいつらバラけてるぞ。

地図を見るに、数人のグループが幾つも出来ていた。1人なのは担任である棚橋だけだった。ハブられたのか。まぁこんな世界で、担任と一緒に居る必要なんか無いもんな。こいつはいつでも殺しに行けそうだから、後回しだ。


「……動いてるって事は、まだ起きているな。よし、行くか」

俺は、ある人物がマップ上を動いているのを確認した。取り巻き2人を連れている。3人程度なら、誤差の範囲内だ。

それさえ確認出来れば、こっちのものだ。俺は直ぐ作戦に移る事にした。


(ホーク)

俺はそう唱えて鷹の飛行能力を自身に反映させた。ホークだなんて、普段使わない単語。思い出すのに少し苦労したもんだ。

この《変身(ちから)》、色々と試して分かったのだが、(バード)という抽象的な言葉では反応しなかった。まぁ、良く考えれば妥当だ。もしそれがまかり通るのであれば、(フィッシュ)と唱えれば魚になれてしまうのだから。どの魚になるか、どの鳥になるか。それがこの能力には必須情報なのだ。


「はぁ……いっその事、鷹そのものに変身できたら良いのに」

だが、それはある重要な理由で不可能だった。



これは、俺が能力の特訓をしている際の出来事。

『変身って事は、片腕だけとかじゃなく、例えば熊そのものに成る事も出来るんだよな?』

『……出来なくはないけど、その時点で君は詰むよ』

『何故?』

変身という名前のくせして、変身出来ない事に対する単純な疑問が湧いた。

『……言葉の発音に必要な部位を人以外の生物に置き換えたら、言葉を発することが出来なくなる。それじゃあ、発動条件の"生物名の呼称"が出来ず、詰む。そして、頭まで他の生物に変身してしまえば、脳が退化する影響で詰む。その時点で君の負けは確定する。能力名に矛盾しちゃってるけど、そこはご愛嬌ってことで』



これが1つ目の理由だ。そして、2つ目の理由。それは単純に、頭を残して鷹に変身した場合、頭の重さで飛行が出来ないのだ。もし鷹に変身するなら精々、目を鷹の目に変えて視力を上げるか、腕を羽に変えて風を起こすか、手を鷹の鉤爪にする事くらいだろう。首から下を鷹にしたからって、ただの人面鳥になるだけなのだから。

この能力は、莫大な可能性を秘めているが、それ相応のリスクが生じる。慎重にいかなくては。


「……よし、順調だ」

まだ安定はせず、適度な休息は必要だが、空を飛ぶ事には問題なかった。これも訓練の成果だ。最初なんて、全く飛べなかったのだから。


それにしても、この姿を誰かに見られたくないな。アン○ンマンじゃあるまいし、人の姿のまま空を飛んでいたら不自然だろう。この世界に飛行魔法とかいう概念が存在するなら話は別だが。


俺は、暫く飛行を続け、目的の人物の近くに降りた。俺が降り立った場所に似た草原。月光が反射する水辺に、3人は足を浸からせていた。この3人……真夜中の草原をランプ1つで散歩か? 命知らずもいいとこだ。魔王が復活したってんなら、魔物とかは居ないのか? この世界は。まぁ、空を飛びならが見下ろす限り、そんなものは見当たらなかったけれど。


「はぁ……私たち、どうなっちゃうんだろう」

何やら会話が聞こえてくる。俺は木の影に隠れながら、チャンスを今か今かと待ちわびていた。

糸崎楓(いとさきかえで)。それが俺の最初のターゲットだ。糸崎は写真を見ただけでも分かる、頭1つ飛び抜けた可愛さを持つ、女優顔負けの生徒だ。きっと、霜隠高校(しもがくれこうこう)のマドンナだったに違いない。高嶺の花というやつだ。

その隣には、神木風花(かみきふうか)西園寺京子(さいおんじきょうこ)。どちらも単体で見れば割と可愛い。決してブサイクでは無いが、糸崎の手前、少し霞んでしまうってものだ。

「う〜ん、暫くはこのまま楽しく過ごせそうじゃない? でも、もし何かあったら私が何とかしてあげるよ!」

西園寺は力こぶを作って見せた。後ろからじゃ表情までは見えなかった。

「さすが京子、頼りになる〜! 私たちのギフトは、全然実用的じゃないから……」

「こうやって3人で夜に出掛けられるのも、京子のおかげだね!」

自己紹介どうも。じゃあ、まずは西園寺京子から殺……すか……。

俺は、いざクラスメートを手に掛けるという場面になると、みっともなく臆してしまった。

動悸が激しくなり、呼吸が乱れる。震えが止まらない。

覚悟してきたはずだろ。全員殺すって。

思い出せ……こいつらは、俺を陥れたクズ共だ。その行為は、人殺しも同然……人を殺した奴は、殺されたって文句は言えないはずだッ! ……やるしかない。もう後には引けない。

俺はそう自分に言い聞かせた。

「……ゴリラ」

そう唱え、腕をゴリラのものにし、近くに落ちていた石を拾い上げて思い切り西園寺目掛け振りかぶった。

石は物凄いスピードで飛んでいき、少し軌道がズレたものの、西園寺の頭に見事的中し、音を立てて破壊した。


俺が……殺したんだ。


だが、何故だか罪悪感は湧いてこなかった。よし、当たった。という感情だけが湧いてきた。

西園寺は、湖の中に沈んだ。あの倒れ方的に、即死なのは間違いない。ゴリラのマジ投石を不意打ちで食らって、生きてられるはずもない。西園寺にどんなギフトがあろうとも。

俺は再び木に隠れる。すると直ぐに2人の悲鳴が上がる。当たり前のことだ。目の前で友人の頭が消し飛んだのだから。

「……グラスホッパー」

俺は、2人にギフトを発動させる隙を与えない為に、足をバッタに変え、木を蹴りつけて一気に間合いを詰めた。一瞬で神木に接近し、ゴリラの拳で渾身の一撃を食らわせた。1発で気絶したようだ。

俺はそのままの勢いで水面に着水しそうになったが、ゴリラの握力で地面を掴み、着水から逃れた。


ん、一瞬で暗くなった? あの明かりは神木のギフトによるものだったのか?

だが、水面に月光が反射して、糸崎の姿がよく見える。俺は地面を掴んだ反動で前進した。


そのままゴリラの手で糸崎の頭を掴んだ。人の手と比べて、ゴリラの手は大きい。すっぽりと片手で収まる。

糸崎は、大きな悲鳴を上げながら死に物狂いで抵抗した。

「……今すぐ黙らねぇと頭握り潰すぞ。俺が一番嫌いな音なんだ。女の金切り声が」

……さて。この状況から、どうしたものか。

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