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生贄

「皆、もう目を開けても大丈夫!」

クラスが光に包まれてから数秒が経過し、担任が口を開いた。

「おぉ、成功したのか!?」

目が慣れてきた頃、老けた声が聞こえてきた。

「何だ……これ……誰だよこいつらッ!!」

クラス1のお調子者がそう叫んだ。目の焦点が合ってくると、俺たちの周りを、騎士の格好をした奴らに取り囲まれていた。

「何……だ……」

思わず俺も声を漏らしてしまう。それ程有り得ない状態だからだ。

「えぇ、何これッ!?」

「どこなんだよここは!!」

「怖いよぉ……」

「まさかこれは……クラス転移ッ!?」

「何だよそれ!!」

クラスメートの中には、驚いたり、発狂したり、泣き出したり。パニックに陥っている奴らが大半の中、妙に落ち着いている奴も何人か見受けられた。


「どうか驚かないで貰いたいッ! まずは私共(わたくしども)の話を聞いていただきたいッ!!」

クラス中がザワつく中、さっきの老人が再び叫ぶ。


しばらくして。周りの連中が落ち着きを取り戻した頃、老人が説明をし始めた。簡潔にまとめると、どうやら数百年の時を経て魔王が復活してしまったらしい。数百年前の戦闘技術に乏しかった古人達は、まずは神に縋り、神からのお告げ通り、異世界人を召喚し、助けを求めたそう。

それで、当時と同様の手順で異世界から俺たちを召喚したとのことだ。数百年間、何の進歩も無いだなんて。それで危機が訪れたら俺たちに縋るとは、甚だ図々しい連中だ。

ただ、異世界人。つまりは俺たちに任せっきりなのにはりゆうがあるらしい。何でも、異世界召喚をした際、召喚者には"ギフト"というものが授けられるそうだ。数百年前、その力で魔王を倒すことに成功した為、同じように事が動くと考えたそう。

そして。何故俺たちが選ばれたのかというと、指定した座標の位置と範囲が数百年前と同じだった為、俺たちが召喚されたのだと。位置や範囲を変えれば、万が一失敗する可能性が出てくる。それが怖くて、当時のまま転用したのだと。

成程。さっきのオタクが言ってた、クラス転移ものによくある設定だ。


「書物には、こめかみ辺りを2回触れると、ギフトの名とその詳細を見ることが出来ると書いてある。貴殿らに是非試してみて欲しい」

周りの奴らは、既に試してはしゃいでいる。あの怖がりようが嘘みたいに。周りに流され、俺も試してみることに。すると───

「……探知?」

俺のギフトは《探知》だった。相手の顔と名前が分かれば、どれ程離れた場所に居ようと、その人物の居場所が分かる。……何だこの微妙なギフトは。クラス転移で言ってみれば、復讐系主人公に序盤で殺されるモブ生徒Aみたいな能力じゃないか。


それに、俺にはこのギフトは使いこなせそうにない。こいつらの顔と名前なんざ、誰一人として覚えていないのだから。


大方の説明を終えた後、老人。改めて国王は深刻そうな顔で話し始めた。

「……すまない。先に言っておくべきじゃったが、言いそびれてしまった。1番重要な事を」

「なんすか?」

「重要な事? なんだろう」

再び不穏な空気が流れる中で、国王は続ける。

「異世界召喚には、代償が存在するんじゃ。とても言い辛いんじゃが……」

「代償……ですか?」

担任がそう聞き返す。

「勿体ぶらねぇでさっさと言いなよ、じいさん!」

イキリ共が野次を飛ばす。こいつらと同じ思考回路だということが不愉快だが、俺も同感だ。

「……代償とは、"召喚者の中から1人を選び、その人物を神へ捧げる"ことなんじゃ」

物騒な言葉に、クラスがざわめく。

「それって、俺らの中から1人生贄を差し出せって事かよッ!?」

「大変申し上げにくいが……その通りじゃ。仮にもし、代償を神へ差し出さなければ、召喚を実行した私達を含め、貴殿ら召喚者様方全員が消されしまう!」

その一言が、再びクラスメート達は混乱に陥れた。それもそうだ。クラスの中から1人、生贄を選ばなきゃならず、回避のしようが無いと来た。

「制限時間は刻一刻と迫っておる。話し合いで、それが無理なら、残酷じゃが……ギフトが1番劣っていた者でも構わない! なるべく早く結論を出して欲しい……本当にすまないが、宜しくお願いする」

国王と、周りの騎士達が頭を下げた。


「にしやん、お前生贄になれよ!」

「ちょッ……おま、冗談でもそんな事言うなよ」

「わりわりw そんなカッカすんなて〜」

こんな状況だと言うのに、馬鹿共はすぐはしゃぐ。まぁ、状況判断が出来ないのは、普段の行いから見て取れるけれど。


「まぁ実際、誰を生贄に捧げるって言われたら……なぁ?」

お調子者がそう呟く。

「最初から決まってるよね」

「え、誰々?」

小動物系女子がアタフタしながら周りを見渡した。

それは俺も思う。一体誰の事を指しているのだろうか……

「ほら、言ってやんな。当の本人は自分は無関係だって顔してるよw」

「ほんとだw」

「普段の自分の行動を鑑みれば、簡単に分かるだろうに」

「アイツがそんな事考えるわけないだろ? 協調性0なんだから」

「社交性も0だね」

「アハハッ! 酷すぎるww」

おいおい。いくらなんでもdisり過ぎじゃないか? 可哀想だろ。ソイツ。

「おじいさん。生贄が決まりました〜!」

「ちょ、ちょっと深月(みづき)くん!? ちゃんと話し合わなきゃ───」

「お、そうか。随分と早かったな。で、それは誰なのじゃ?」

イキリ陽キャが勝手に挙手をしたのを担任が止めたが、結論を急ぐ国王は無視して話を進めた。

「お前ら、空気読めよ? せーの」

相城弘輝(あいじょうひろき)!!!』

……は?

「ギャハハハハハ! 全員ハモったなwww」

「打ち合わせしたかのようにww」

俺? 待て待て。冗談だろ? 何で俺が。

「おい、なんか言ってみろよ。相城。反論とか、泣いてみるとか、命乞いとかよぉ。やることあるだろ?」

「こいつ、まだ自分が無関係みてぇな面してるぜww」

「自分が『3年1組の置物』って言われてるの、気付いてないのかな?」

「ウケるww」

「ふざ……けんな……」

「え? 何?」

「ふっざけんなッ!!」

普段声を出さないせいか、声が裏返る。だが、そんな事知ったことか。

「何で、俺だ! お前らに迷惑かけたか? 何か癪に障るようなことしたかよ!!俺は誰にも迷惑かけてない! いつも1人だった!! 誰とも関わらないようにッ!! だから、嫌われる事なんてッ───」

「……だからだろ? 置物」

お調子者は、さっきまでとは裏腹に、冷たい声で吐き捨てた。

「お前が居たって居なくたって、何も変わんねぇんだよ。話しかけても、端から会話する気がないかのように無視決め込みやがる」

「かといって、他に優れた部分がある訳でもないしな。行事は必ず欠席するし。文化祭の準備や、体育祭の練習にさえ顔出さない。それどころか、体育の時だって……試合するってのに、お前だけ1人離れたとこに居やがる。お前は仕方なく孤立してんじゃない。孤立するように立ち回ってんだ。そんな奴、どう救えってんだ」

「そ、そんな事……」

「じゃあ、俺の名前言ってみろよ」

お調子者が質問を投げかけてきた。こいつの名前は確か……名前は……

「……ほら、言えねぇじゃねぇか。ま、そうだよな。俺らの名前なんか、誰一人覚えてないもんな?」

「ペアワークの時、毎回お前の隣の席の奴はどうしてたと思う? 練習相手が居ないから、先生とやらされてたんだぜ?」

「『お前には言っても無駄だ』って、先生にも見放されてんだよ」

「しかも、掃除の時間はいつもどこかに行くし、グループ学習の時も、1人で遊んでるし。自分勝手過ぎるよ。相城くんは無害どころか、害しかないよ」

「だよな? 棚橋せ〜んせ?」

俺は、涙目になりながらも、藁にもすがる思いで担任の方を見てみる。

「……ごめんね。先生、相城くんの味方になってあげられないよ」

俺はその瞬間、裏切られた。という気持ちが最大限に達し、我を忘れて暴れだした。

「うわ、こいつ暴れだしやがった!!」

「《緊縛》」

何者かがそう唱え、俺の動きが封じられた。

「俺の"ギフト"ってやつ。中々使えるな?」

「ナイス岡野ッ!」

「かっちょい〜ww」

縄で縛り上げられ、俺は冷静さを取り戻した。

「た、助けて……許してくれ……謝るからッ!!」

「いや、今更謝られても……別に俺ら、お前に怒ってないし」

「ただ、生贄を出せって言うなら、お前を差し出すってだけ。だってただの置物だもん」

「……話は纏まったかな? では、少年を円の中へ」

国王はそう指示を出し、騎士に首根っこを掴まれ、独特な模様の円の中に座らされた。

「目隠しを」

白い包帯のようなもので、視覚を奪われた。

「おい! お前ら! いくらなんでも呆気なさすぎるだろッ!! 仮にもクラスメートを……」

「じゃ、いいぜ。お前ら。相城を生贄にする事を賛成なやつ、手ぇ上げろ。空気読まなくてもいいぞ。自分の気持ちに素直にか」

お調子者は、ひいふうみ……と、挙手をしているであろう人物の数を数え始めた。

「……30人中、いや、先生含めたら……31人中、30人が賛成だってよ。嘘だと思うなら、目隠し取って確認してみろ」

騎士が目隠しを外し、俺はその目でおぞましい光景を目の当たりにした。1人の女生徒以外、担任を含め、全ての手が上がっている光景を。クラスメートの生贄に、こんなやり方でさえ、賛成をする人でなし共の姿を。

「……ク……うぅ……ッ」

俺は、涙が溢れ出した。そんな事お構い無しに、再び目隠しをされた。

「嫌だ……死にたくねぇ……」

「生贄だろ? 死ぬかわかんねぇじゃん。どうなるのかは神様次第って事」

「なんなら、神様に泣きついたら? 『助けてください』って」

「うわひっでぇww」

クラスメートは、3年間を共にしてきた仲間に、心無い言葉を投げ掛け、ワイワイと盛り上がっている。

「クソ……畜生……何で……ッ」

俺は、目隠しをされたまま、両手両足を後ろで縛られ、跪く体勢で円の中に座らされた。

国王が呪文のようなものを唱え始めた。

「お前ら……呪殺してやるッ! 一人残らすッ!!」

「あっそ。勝手にすれば?」

最後の最後まで惨たらしい言葉を投げつけられ、俺は意識を失った。


「……おぉ、すげぇ。一瞬で消えたよ」

「相城の奴、今頃神のとこに行ったのかな?」

「知らね。心底どうでもいい」

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