間話休題13 許貢と闇夜団
これは黄巾の乱収束直後の揚州呉郡の話である。朝廷より揚州牧に任命された劉繇から呉郡の太守に任命された男の名を許貢という。これは彼がとある男を助けるところから始まる。
許貢「殿にここを治めるようにと頼まれたがどうしたものか。んっ?」
今にも死にそうな真っ黒な道士服を身に纏った男が血を出して倒れていた。
許貢「いかん、このままでは。それにしても禍々しさの中に惹きつける何かを持った方だ。これも何かの縁であろう」
許貢は、才能があっても貧しく罪人や賊になった者を助けて、飯を振る舞うことからいつしかその者たちの拠り所となり、彼らが許貢の食客となり主人である許貢に尽くす。そうしてできた許貢の食客集団のことを闇夜団と呼ぶ。真っ黒な道士服を身に纏しこの男も例外ではなく許貢の家に連れて行かれた。
???「殿、おかえりなさいませ」
許貢「その言い方はよさぬか。柊」
闇夜団のメンバーは皆名前を捨て、一文字から二文字の名が付けられている。この柊という女性は、元奴隷で主人からの性的な暴力に耐えかねて殺害し罪人となった。美貌の持ち主であり、闇夜団ではあんなに嫌だった性的なことを武器にして情報を集める諜報任務が主である。
柊「そうでしたね。今はアナタでしたわね」
許貢「うむ。お前の表の顔は、私の妻だからな」
柊「心得ております。ところで其方は?」
柊が許貢の背負う男に目をやる。
許貢「そうだった。鏑」
鏑と呼ばれた男が部屋から出てくる。
鏑「殿、お呼びでやすか。ややっ?これはかなりの大怪我とお見受けしやす。すぐに治療致しやしょう」
許貢「頼む」
鏑と呼ばれたこの男も闇夜団のメンバーだ。医術を志していたが家が貧しく、試験を上辺だけで落とされ、今でいうところの無免許医として、治療していたところを摘発され、お縄になりそうなところを逃げ出し許貢に拾われたのである。
鏑の治療でなんとか峠を越えたこの真っ黒な道士は、呉郡にて、張角たちに殺されたと思われていた于吉であった。
于吉「ううん、ここは何処じゃ?ワシは、うぐっ」
許貢「気付かれましたか?まだ安静にしていてくだされ。この呉郡の太守を務めることになりました許貢と申す」
于吉「お前がワシを助けたのか?やれやれ、人に助けられるとはこの于吉も落ちぶれたものよな」
許貢「見たところ、于吉殿も追われる身とお見受けする。こんなところで良ければ、傷が癒えるまで療養されるが良かろう」
于吉「ヒャーッハッハッハッ」
???「何がおかしいんでい。殿に礼を言えってんだ」
鏑「まぁ、無事ならそれで良かったじゃないでやすか。梟の旦那」
梟と呼ばれたこの男は、闇夜団を束ねるリーダーだ。元暗殺一族の出身だったが家族の裏切りに遭い、命尽きようとしていたところを許貢に救われた。それ以降、殿として、影で許貢を支えるため同じように助けられた者たちを束ねて闇夜団を結成したのだ。
于吉「すまんすまん。気に障ったのなら謝るわい。こんな怪しげな男を匿う男がいるもんなんだと思うてな(溜め込んだ呪術で若々しさを保っていたのが力が抜けて年老いてしまったわい。全く、張角の奴め。いつか、必ずその命を貰いに伺うとしようぞ)」
許貢「才能ある者なら罪人だろうと用いるそんな気概のある方が現れた時のために、こうして才能ある者たちを囲っているのですよ」
于吉「ヒャヒャヒャヒャ、全く面白い男じゃ。少し動くでないぞ(瞳術はまだかけれんか。溜め込んだ呪術が溢れだしてしもうたからのぅ。じゃがこれくらいならまだできよう。ほほぅ、この呉郡をどう治めようか悩んでおるのか。良い良い、こんなワシを抱え込む胆力に免じて助言してやるとしようぞ)」
許貢「もう、動いても宜しいか?」
于吉「すまんすまん。お前が何を悩んでいるのかを覗き込んでいたのでな」
許貢「!?(あんなに見つめてくるからこの男はそっち系なのかと思ったなどとは言えんな)」
于吉「ハッハッハッ。ワシだって女の方が好みじゃ」
許貢「!?(心を読まれた!?)」
于吉「そういうことじゃ。ワシに隠し事は通用せんぞ。呉郡の治め方じゃが、この言葉を言ってやれば良い。それで南の厳白虎も手を出さず協力するであろう」
許貢「!?。どうやら于吉殿の力は本物のようだ。して、その言葉とは?」
于吉「于吉様が蘇ったじゃ」
許貢「???」
于吉「ヒャッヒャッヒャッヒャ」
半信半疑ながらも許貢は呉郡の民衆の前でこの言葉を呟いた。すると民衆はまるで洗脳にでもかかったかのように許貢に拝礼し、呉郡は発展することとなった。その後、すぐ于吉は、呪術を貯めるため洞窟の奥深くに籠った。そして黄巾の乱より12年が経った。
于吉「ヒョッヒョッヒョヒョ。見た目も若々しく戻った。さて、張角よ。リベンジと行こうではないか。それにしても呉郡の様子がおかしい。許貢は何をしている?」
街に出た于吉は短刀をチラつかせながら男を付ける柊を見つける。柊がその男に斬りかかろうとしたところを抑えて、引き離す。
于吉「一体どうしたというんだ?」
柊「離せ離せと言っている。アイツが殿を主人を許さない。貴様には関係ない話だろう」
于吉「そうであったな。これでどうじゃ?」
柊「于吉!戻っていたのか?」
于吉「今しがたな。さっきの話の続きじゃが彼奴が許貢を殺したというんじゃな?」
柊「あぁ、紙一枚だ。紙一枚で斬首だ」
その紙を読む于吉。
于吉「なんと!そのようなことが。お前たちには世話になった恩がある。許貢に返せんかったがお前たちに返そう。彼奴を殺す手伝いをしてやろう」
柊「本当か?頼む」
于吉「うむ(小覇王孫策か。ヒョッヒョッヒョヒョ。張角の前の肩慣らしに良いであろう。見たところ耐性もなさそうじゃしな。復活したワシの呪術の最初の餌食にしてやるとしよう)」
呉郡にて厄介なことが起ころうとしていたのだった。
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