間話休題② 劉丁義賢、司馬徽の門を叩く
黄巾の乱が始まる2年前のこと。突然だが僕の名前は劉丁義賢と言います。14歳となり、ようやく憧れの水鏡先生と呼ばれている司馬徽先生の元で学ぶことができるようになりました。司馬徽先生が初めて取った弟子、それがこの僕劉丁義賢だったりする。そう思うとなんだか感慨深い。ふぅと一息付き、門を叩く。
劉丁「頼もう」
司馬徽「そんな大声ださんでも開いとるよ。ホッホッホ」
劉丁「申し訳ありません。貴方は?」
司馬徽「ワシが水鏡先生と呼ばれている者じゃ」
劉丁「先生本人だったとは、これは飛んだ失礼を劉丁義賢と言います」
司馬徽「良い良い。それにしてもお前さんは、謝ってばかりじゃの。そんなことでは幸せは逃げていくぞ。ホッホッホ」
劉丁「これからお世話になります。でも、先生は確か弟子を取らぬと聞いていました。どういった心境の変化が?」
司馬徽「その何事も知りたいという探究心。良いぞ良いぞ。なーに簡単なことじゃ。日がな一日、ぼんやりと過ごすぐらいなら後進の育成をするのも悪くないと思ってのぅ」
劉丁「そうでしたか!そのおかげで、先生のところで学べるのです。感謝しています」
司馬徽「では、劉丁よ。寺の朝は早いぞ。今日はゆっくり休むのじゃ」
劉丁「はい」
案内された部屋に荷物を下ろし、眠りにつく劉丁。
司馬徽「劉丁よ。起きんか。コラ起きんか」
劉丁「ふわぁ。って先生?今何時ですか?」
司馬徽「日が昇る前かのぅ」
劉丁「!?こんなに早いのですか?」
司馬徽「先ずは寺の掃除じゃ。汚れは心の乱れじゃ。身の回りを綺麗にして運を良くするんじゃ。わかったらさっさと来んか」
劉丁「はいーーー」
雑巾で廊下の端から端までを拭き。各部屋をはたきと呼ばれる物で埃を落として、それを箒と呼ばれる物で集めて、塵取りと呼ばれる物で回収する。それらが終わる頃には、すっかり朝日が昇っていた。
劉丁「ハァハァハァハァ。心の鍛錬とはこんなにも厳しい物だったのか」
司馬徽「ほれ。疲れたであろう。朝食じゃ」
劉丁「腹ペコですよ」
魚や肉は一切なく野菜だけだった。
司馬徽「どうした?まさか、肉が出ると思っておったわけではあるまいな?」
劉丁「!?(的を得た発言。まるで心を見透かされているようだ)」
司馬徽「ワシは肉を食わん。よって、ここにおる間、そういうものは出んと心得よ」
劉丁「はい(こんなに働いて肉が欲しいとなるのはおかしいだろうか?)」
司馬徽「何を休んでおるのじゃ。飯を食べたら畑仕事じゃ」
劉丁「畑仕事?」
司馬徽「何故関係ない畑仕事をと思っておるのではないじゃろうな?」
劉丁「!?(確かにそう思っていた。畑仕事がなんの役に立つのかと)」
司馬徽「ホッホッホ。ワシに隠し事は通じぬわい。じゃが、答えは自分で探すのじゃ。それもまた鍛錬じゃわい」
やってみると畑仕事とは奥が深い。胡瓜一つとっても、土作りから管理・収穫まで大変だ。できたものを食べるだけと全然ちがう。育てるとなるとこうも大変なのかと学びが多い。野菜の様子を毎日観察して、病気になった子が居たら他の子たちに移らないように処理する。って僕は畑作りを学びにきたわけではない!とやり始めた当初は思っていた。だが最初の掃除が動じない心の鍛錬。なら畑仕事は?答えは明白だ。観察眼だ。軍師として、動じずに戦況を見極める観察眼ほど大事なものはない。どこの戦局が苦戦していて、兵を回さなければならないか?攻め時を見誤って居ないか?どれをとっても戦局を見極める力観察眼が大事だ。兄上は、人を見る目だけは確かなんだけどね。策となるとからっきしなのよ。突撃こそ男の花道という感じの猪突猛進型っていうのかな。あれでは、いつか死ぬと思い。僕が知恵を持って支えると決めたんだよね。僕が水鏡先生の元で学んで2年が経とうとしていた。
司馬徽「ホッホッホ。何かを掴んだようじゃな」
劉丁「先生!?はい」
司馬徽「では、聞かせてみよ。掃除とは?」
劉丁「戦場にて何事にも動じぬ精神力を磨くこと」
司馬徽「正解じゃ。では、畑仕事とは?」
劉丁「戦場にて、重要な局面を見逃さないための観察眼を養うこと」
司馬徽「ホッホッホ。完璧じゃな。どちらも軍を預かる軍師として大事なことじゃ。お前のその一挙一投足が兵を殺しもすれば生かすことにもなるということじゃ。では、次の鍛錬じゃ。さて、軍師にとってもっと大事なことは何だと思う?」
劉丁「戦に勝つことでしょうか?」
司馬徽「そうじゃな。それもあろう。じゃが、負ける戦いもあろう」
劉丁「だとしたら、被害を最小限に食い止めることでしょうか?」
司馬徽「そうじゃな。それも大事なことじゃ。じゃがなもっと大事なことがある」
劉丁「時には見捨てざる終えないということですか?」
司馬徽「ホッホッホ。正解じゃ。残酷なことだが、時には勝てぬ戦もあるのじゃ。そんな時、軍師は決断せねばならん。どの部隊を活かしどの部隊を殺すかをな。取捨選択もまた軍師として必要なことなのじゃ」
劉丁「全てを救うことはできないということですね」
司馬徽「そうじゃな。できれば最高じゃが、時には非情と捉えられても仕方がないことをしなければならんのもまた軍師の仕事じゃ」
劉丁「はい」
司馬徽「ホッホッホ。この2年、お前には、ワシの全てを教え込んだ。そして、最後の取捨選択の大事さも分かっておるようじゃな。免許皆伝じゃ。後は戦場にて、その知恵を磨くが良い」
劉丁「先生!?2年もの間、大変お世話になりました。先生の教えを胸にこれから羽ばたいていきます」
司馬徽「うむ。良い目をしておる(まるで虎に翼が生えたようじゃな。さしずめ翼虎ってところかの)ホッホッホ」
こうして僕は、黄巾の乱が始まろうとしているこの年、無事に免許皆伝を迎え、楼桑村で待つ兄上の元に一刻も早く帰ろうとして、事故に遭う。突然の雷雨となり、荷台の車輪が泥に脚を取られ動けなくなり、近くにあった大きな木で雨宿りをすることにした。その時、木に落雷が当たり、それが偶然にも恋人となった呂舞から御守りに渡された剣と弓が一体化したペンダントを通して、僕に当たる。即死だった。だが、これが一種の引き金となり不思議な力に目覚めることとなるのだった。
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